第59話 銅像防衛ミッション

 自分と瓜二つの銅像を不思議そうに見つめるロフニスに、ユイが声をかける。


「ねえ、手紙の続き!」

「あ、そうだ」


 ロフニスは、ハッと我に返ったように、地面に落としてしまった手紙を拾って続きを読み上げた。


「『銅像ミッションの手順及びルール。その1、〈コピー銅像〉の台座裏に備え付けられたボタンを押す』って……」

「あー、そういうことだったんだ!」


 ユイは突然大きくなった銅像の謎が解けて、スッキリした顔でパチンと両手を叩いた。


「だね! 危うく殺されかけたけど」


 ロフニスは笑いながら大げさに肩をすくめた。


「ほんと、誕生日に死んじゃうとか笑えないし! でも助かったからよし! 続き続き!」

「うん! 『その2、等身大の銅像が地面に設置された時刻をもってミッション開始とする。それ以降、一定時間ごとに上空から攻撃が──』」


 ヒューーーーン……。


 突如、遠くの方から甲高い音が鳴り響き、しかもその音はどんどん近づいてくる。


「もしかして……」


 何かを察したユイは、ゆっくり頭上を見上げる。

 少し遅れて、ロフニスが顔を上げようとしたそのとき。


 ズドーーーンッ!


 2人のすぐ近くで重い爆発音。

 小さな欠片が飛んできて、少し焦げ臭い匂いも漂い出す。


「……あーっ!!!」


 ユイが大声をあげて指さした先にあるのは……目の前の銅像。

 しかも、ロフニスの右腕が無残にも粉々に破壊されている。


「ぼ、僕の体が……」


 ロフニスは、まるで本当に自分自身がやられたかのように苦しい表情を浮かべ、左手で右腕を押さえた。


「えっ、ちょっと待って。もしかして、今みたいな攻撃から銅像を守れ……ってこと?」

「うん、そうだろうね……とりあえず、早いとこルールを把握しよう」


 自分の銅像が半壊してしまったことによる興奮冷めやらぬまま、ロフニスは気丈に続きを読み上げた。


「『一定時間ごとに上空から攻撃が放たれる。それにより、銅像が全壊した時点でミッション失敗となる。逆に全壊しなかった場合、時間経過と共に銅像は自動的に修復する』」


 最初の攻撃で半壊したロフニスの銅像は粉々に打ち砕かれた右腕を中心に、ぼんやりと白く輝いている。


「ねえ、あの光が直してくれてるってことかな?」

「そうなの……かな。だとしても、修復速度はかなり遅そうだけど……」

「だよね。銅像だけど、ロフニスの体早く直して欲しいのに。あんな姿になっちゃって、ううう……」

「ユイ……心配してくれてありがとう銅像だけど、ううう……」

「うん。ってことで、続き、はよ!」


 あっという間にケロッとした顔で声をかけるユイ。

 ロフニスは「あ、ああ……」と、戸惑いながら続きを読み上げる。


「『その3、日が経つ毎に攻撃力は増していく。特に最終日の攻撃は熾烈を極めるので、それまでに頑強な砦を築く必要有り』……そうか。むき出しの状態だからみすみす直撃を受けるのであって、銅像を何かで囲えば守ることができる、ってわけだ」

「おお、なるほど! 何となく、攻略のやり方が見えてきた気がする!」


 最初の攻撃によって漂っていた焦げ臭い匂いも、異世界の爽やかな風に吹かれていつの間にかほとんどしなくなっていた。

 攻撃力が増す、最終日は熾烈を極める……その言葉は気がかりだが、対処法があるなら、全力をそこへ注ぎ込むのみ。


「ああ、ようやくちょっと分かってきた気がする! でも、『砦を築く』って言っても、どうやれば良いんだろうか……」

「……そっか。ロフニスほら、宝箱の中に色々入ってるじゃん!」

「おお、さすがユイ! ショックですっかり忘れてたよ」

「へへっ、任せなさい! ロフニスは私が全力で守ってあげるんだから!」


 ユイは勇ましく、右手でポンと胸を叩いて見せた。

 ロフニスは感極まった表情で「ありがとうユイ……」と言いかけたあと、今度はキリッとした顔に変わり「って、これは僕の王位継承をかけたミッションなんだから、僕もしっかりしないと! ユイ、ふたりで力を合わせて一緒に頑張ろう!」と声を張った。


「うん! 頑張ろう!」


 ユイはピンクゴールドの剣を手に取って、高々と掲げた。

 それを見たロフニスも自分の剣を鞘から引き抜き、高々と掲げてユイの剣に重ねた。

 陽射しを反射する2つの輝きが、カチンッと音を立てる。


「……ってことで、お宝を物色しますかね、ロフニスさん」

「そうしましょう、ユイさん」


 すっかり息ぴったりのふたり。

 揃っておどけた顔を作りながら、剣を下ろし、鞘に収めながら宝箱の前に立って中をのぞき込む。

 すると、ユイが指令書とは別の紙を見つけた。


「なになに……『ミッションお助けアイテムリスト』だって!」

「おお! ユイ、読み上げてみて!」

「うん! 『コピー銅像、アイテムの種×3、石取スキルチョーカー、亜空間式土吸い掃除機、地下専用魔法陣エレベーター』以上。って……ほとんど意味わかんない! ロフニスわかる?」

「うーん、語感で何となく想像は付くような気がするけど……銅像も含めて、どれもこれも初めて見るのばっかりだ」


 アイテムの数々を見るロフニスの目は、好奇心でキラキラと輝いている。

 当然、ユイにとっても初見も初見なのだが……。


「ねえロフニス」

「ん?」

「なんかこれ……めちゃくちゃワクワクする! 最初、ミッションとか試練とか正直堅苦しくてつまらなそうだったけど、面白そうな予感が……」

「ああ、わかる……わかるよ! 地下専用魔法陣エレベーターっていうのがあるってことは、地下に潜って──」


 と、ロフニスが言いかけたそのとき。


 ヒューーーーン……。


 またもや、上空から何かが落ちてくる音。


「えっ、うそでしょ早くない!?」


 慌てるユイ。

 ロフニス(銅像)の体は、まだ全然修復しきれていない。

 空を切り裂くような高音は、当然のようにその銅像に向かってきて……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る