銅像防衛ミッション
第58話 ロフニスの誕生日宝箱
翌日、ユイは学校から帰ってくるなり、手洗いうがいを済ませ、ピンクゴールドの剣を持って異世界へと旅立った。
涼坂家のリビングから外に出て、西に向かって森の中を歩いて行く。
レムゼの存在なんてまったく気にならない……と言えば嘘になる。
実際に剣を交えたユイだからこそ、その強さを肌で実感していた。
……けど、それでビビってたら何も始まらない!
『現時点でレムゼという少年に対抗できるのは優衣だけ』
直樹が言っていたその言葉どおり、ユイは大きな自信と責任感を持って、異世界を歩いていた。
「もし出会っちゃったら、私がけちょんけちょんにしてやって、『ごめんなさい、もう悪い事はしません、許してくださいユイ様』って言わせて、アユにいたちが安心してこっちに来れるようにするんだから……!」
そう言いながら、ユイが見えない敵に向かって、ザッザッと剣で切りつけていると……。
「あっ、ユイ! こっちこっち……って、敵⁉」
十数メートル先、森を抜けて大きく開けた草原のような場所で待っていたロフニスが、ユイの様子に気付くなり、剣を抜いて構えた。
「違う違う! 大丈夫だよっ!」
ユイは剣を鞘に収めながら、照れくささの混じった笑顔で駆け寄って行った。
「そっか、良かった……って、ほら、これ!」
安堵の表情で剣を下ろすロフニスの視線が、彼の足元に移った。
黄緑色の草の上に置いてあったのは……。
「おおっ! それが誕プレ⁉」
赤を基調とした、豪華な装飾が施された宝箱。
ユイがすっぽり中に入れちゃうんじゃないかってぐらい大きく、前面には錬金釜に描かれていたのと同じような紋章がある。
さすが、人間の国ロフミリアの王子だけあって、誕生日プレゼントのスケールが違う。
「私なんて、こんな小っちゃい箱で……」
ユイは親から貰った自分の誕生日プレゼントを思い出している途中で、ハッとなった。
「しまった!」
「えっ? どうしたの⁇」
「ロフニスの誕生日なのに、プレゼント用意するの忘れちゃってたよ! くぅ~、私のバカバカ! 急いで買ってくるから──」
踵を返すユイ……の左手をロフニスが掴んだ。
「いいって! 一緒に遊んでくれるだけで十分嬉しい……とか言っちゃったりして……」
モジモジする王子。
「えっ、ほんと⁇」
嬉しそうに目を輝かせるユイ。
「ああ、もちろん! っていうかさ、とりあえずこれ開けない? 中に何が入ってるのが凄く気になっちゃって」
「うん! 実は私もめっちゃ気になってたんだよね!」
ユイはてへへ、と笑いながら、宝箱に近づいていく。
それは、青空に浮かぶ太陽に照らされて、キラキラと輝いて見えた。
「じゃあ、開けてみるよ……」
ロフニスが腰を屈めて、宝箱のフタを挟み込むように両手を添える。
ユイは、まるで自分へのプレゼントを見るときと同じぐらい、ドキドキしながら見守っていた。
そして、中に入っていたのは……色々。
「うわっ、ひとつじゃないんだ! さすが王子、ヒューヒュー」
「ははっ、これは僕も想像してなかったよ……あっ、手紙も入ってる」
ロフニスは、一番上に置いてあった二つ折りの紙を手に取って広げた。
「おお、読んでみて!」
「うん、えっと……『これは最初の王位継承ミッションである』だって」
「へー、そうなんだ……って、なにそれ?」
「僕が正式な王様になるための試練……ってことかな」
「ほほう……」
と呟きながら、ユイは少しがっかりしていた。
王子の誕生日プレゼントともなれば、きらびやかな洋服とかマントとか、凄い武器とか白馬を呼ぶための笛とか、そんな感じのを期待していたから。
ミッションだの試練だの、堅苦しい手紙の書き出しに肩を落としていたのだが……。
「大丈夫? 続き読むけど」
「うん、ばっちこい!」
「それじゃ……『ミッションの達成条件は〈コピー銅像〉を守ること。7日間守り切った場合合格、それより前の段階で破壊された場合失格とする』って」
それを聞いて、落ちていたユイの肩が少しだけ持ち上がった。
「コピー銅像ってなんだろ? ロフニス知ってる?」
「さあ……でも、この中に入ってるってことだよね?」
「そうだ! どれどれ……」
ユイは宝箱の中をのぞき込んで、大小様々なプレゼントの中からそれっぽいものを探した。
「銅像って、結構大きいよね? そんなの無さそうだけど……あっ、もしかしてこれ?」
それは、宝箱の角に置かれていた。
茶色い台座の上に、のっぺりとした人間の形をした青銅色のフィギュアが乗っている置物的な物体。
形状的には確かに”銅像”と言えなくもないが、小5のユイでも片手で簡単に持つ事ができるサイズ感で、出来損ないのトロフィーのよう。
「確かに、それが一番銅像っぽいけど……」
ロフニスは小首を傾げながら、「ちょっと貸して」とそれを手に持った瞬間、カチッと音が鳴った。
「うわっ……!」
突然、ミニ銅像がもの凄い勢いで風船を膨らませたように、どんどん大きくなっていく。
「ロフニス、危ないっ!」
あっという間に、2人の体と同じぐらいのサイズまで膨張し、押しつぶされそうになるロフニスの手をユイが握って引き寄せる。
すると……。
ドスンッ──。
ミニ銅像は、あっという間に”本物の銅像”となり、立派な四角い台座が土の地面にめり込む。
ロフニスは、間一髪のところで押しつぶされずに済んだ。
「……危ないとこだった! ユイ、ありがとう助けてくれて!」
「へへっ、どういたしまして……って、うわっ!」
ユイは、ロフニスの背後に立つ銅像に目を向けた途端、驚きの声を上げた。
「えっ、どうしたの……って、なにこれ⁉」
遅れてロフニスも目を丸くする。
2人の視線の先にあるのは、立派な台座の上に立つ、銅像の顔。
それはどこからどうみてもロフニスの顔。
さらに、体型も身につけている服も、今のロフニスそのものであった……。
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