第50話 束の間の再会

「……あっ、戻って来れた」


 激闘を繰り広げた毒多島で見事魔物10体を倒し、魔法陣鍵ミッションをクリアした歩斗の体は無事に元の場所へ戻っていた。

 日射しが照りつける開放的な島とは対照的な、暗くて閉鎖的な塔の中。


「で、どうなるんだっけ……?」


 と呟きながら目を慣らしていく。


「……ねえ、もしかしてアユト戻って来た!?」

「おお、ユセリ!」

 

 扉越しに投げかけられた声を耳にし、改めて成功したことを実感する歩斗。


「やったぜいえーい!!」


 誇らしげにピースして見せるが、その姿はもちろんユセリの目には届かない。


「ってことはミッションクリアしたんだ! すごい!!」

「えへへ、しちゃったよねぇ~、でへへ」

「よしっ、それじゃ魔法陣鍵が開いて下の階に続く階段が出るはず」

「……あっ、そっか」


 もうちょっと褒め続けられたかったなぁ……なんて事を考えながら、歩斗は床に魔法陣鍵が描かれていた辺りに目を向けた……その時。


 トン……トン……トンと、下の方から足音が聞こえて来た。


「えっ?」


 歩斗は少しびびりながらも目を凝らしてよく見てみると、床に四角い穴があいているのが分かった。

 それがユセリの言う“階段”だとすれば、下から上がってくるのは──。


「ふぅ、出られた~」

 

 奇妙な塔の地下1階に閉じ込められていた香織、無事生還!

 ……とは思えないほど飄々とした様子。


「あらアユ。大丈夫?」

「えっ? あ、うん、全然」


 感動の再会とはほど遠い、淡々とした会話を交わす母と息子。

 確かに、結果的にはそんなに長い時間閉じ込められてたわけじゃ無かったにしろ、真っ暗な地下に一人きりとか結構キツそうだけどなぁ……と不思議がる歩斗だったのだが。


「あれ?」


 香織が上がってきた階段を改めて確認した歩斗は、その奥に薄らと光が見えることに気がついた。


「……ねえアユト、どーなった??」

「あら、この声はユセリちゃんかしら?」

「あっ、ど、どうもです! ……って、上手く行ったんだ! よかった~!!」


 香織の存在に気づいたユセリの声には、恐縮と喜びが入り交じっていた。

 ただし、まだゴールに到達したわけでは無い。

 ユセリとアユトたちの間にはまだ関門が残されているのだ。

 と言うわけで、アユトはユセリから聞いた魔法陣鍵に関する説明と、実際に自分が毒多島に飛ばされてミッションをクリアした経緯を香織に話した。


「まあ凄い。それは大変だったわねぇ~。ケガしなかった?」

「うん、大丈夫。それより、ポイズワロウがめちゃくちゃカッコ良くて、しかも仲間になってくれたからこれからは──」

「ちょっとアユト! 私もその話じっくり聞きたいけど、とにかくここを開けるのが先決!」


 扉を越えてユセリから釘を刺された歩斗。


「ふふっ、アユは尻に敷かれちゃうタイプかしら?」

「な、なんだよもう」


 香織からもチクリと言われた歩斗は、まだ毒多島から戻りきれて無いんじゃないかという疑念を抱きつつ、とにかくやるべきことをするために魔法陣鍵のかかった扉の前へと移動した。

 香織も一緒に付いてくる。


「ねえユセリ、こっちのやつも同じような感じにやれば良いってことだよね?」

「うん。早く早く!」


 歩斗は慣れた手つきで魔法陣の真ん中に描かれた鍵の模様に触れてみた。


 ボワッ!


 さっきと同じように煙が出て、魔法陣の下に文字が浮かび上がってくる。


「あらまぁ」


 初めてそれを見る香織は興味津々の眼差し。


「えっと……『両親共働きで寂しく過ごす子供に食事を振る舞う(難易度G)』だって。なにこれ??」


 魔物10体討伐、に比べるとえらく現実的なミッション内容に小首を傾げる歩斗。

 

「へえ、確かにめっちゃ違うの出たねぇ~。でもさっきのやつよりは簡単そうじゃない? 難易度もEからGだし」

「まーそうだけどさぁ~。これって料理を作るってことでしょ? ボクなんて、カップラーメンか袋に入ったラーメンぐらいしか──」

「ん? 料理ならママに任せなさい! ここに触ればいいのかしら?」


 ちょうどそのタイミングで、


「ねえアユ、ちゃんとやり方覚えてる? ミッション名の下に書かれてる文字を読みながら鍵に触るんだよ!」


 と、ユセリが言った。


「文字……ってこれね。えっと、ブシャポングミワツイカモナシャリイポ」


 香織は、迷わず呪文を唱えながら魔法陣鍵に触れた。


「うわっ! ちょ、ちょっと!?」


 焦る歩斗。

 が、時既に遅し。

 魔法陣は正常に作動し始め、香織の体が見る見る内に光輝いていったかと思うと、その姿はスーッと消えてしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る