香織のプチ転移

第51話 ルビロルとリビナナ

「あら、何が起きたのかしら?」


 香織が呟く。

 眩しい光に包まれ閉じた瞼を再び開けた時、目の前に広がっていたのは雄大な自然の景色。

 香織がこの小高い丘の上へと転移したのは魔法陣鍵の仕業なのだが、しっかり説明を聞く事なく勝手に発動させてしまったため、何が何だかさっぱり分からないといった風に小首を傾げる。

 ……が、それも束の間。

 おっとりポジティブ天然スキルを発動させ、


「ずっと狭くて暗い部屋の中だったし、やっぱり外は気持ちが良いわねぇ~」


 なんて言いながら、草原に挟まれた小道をのんきに歩き出す。

 向かう先にあるのは、薄茶色の木で出来た小さな小屋。

 一応、『料理を振る舞う』というミッション内容だけ頭に入っていた香織は、なるべく人が居そうな場所を目指していた。

 すると思った通り、小屋に近づくと元気な子供の声が聞こえてきた。

 

「おなかすいたおなかすいたーっ!」

「うるさいなぁもう、お兄ちゃんさっきオヤツ食べたばかりでしょ??」

「あんなんでおなかいっぱいになるほど、お兄ちゃんのおなかは小さくないんだぞ!」

「そんなの自慢にならないから! それより、もうマモノいなくなったかなぁ? このままじゃいつまでたっても買いに行けないよ……」


 どうやら、小さな男の子と女の子の兄妹らしい。

 関係性がウチの子そっくりフフフ……と、香織は思わず笑ってしまった。

 そんな親近感もあり、迷わず木の扉をノックする。


「あっ、ママが帰ってきたのかもー!」

「えっマジで!? わーい!」


 無警戒過ぎる声とともに、タッタッタと走る音がしてすぐに扉が開いた。


「どうも初めまして~」


 ニッコリ笑って挨拶をする香織。

 それに対し、願いとは裏腹に知らない人が立っていたことでギョッとする小さな兄妹。


「あれ、違うじゃん! 知らない人とかマモノとか来ても絶対に開けちゃだめって言われてるのに!」

「えー、だったらお兄ちゃん止めてくれれば良かったのにぃー!」

「と、止めたけど!?」

「ウソだー! わーい、とか言ってたじゃん!」

「い、言ってねーけど!?」

「言ったよー! 言った言った!!」


 自分の存在などお構いなしに揉め始める小さな兄妹の様子を見て、香織はフフフと笑いながら、「ごめんなさいねぇ~。でも、悪い人間じゃないから大丈夫……かな?」と言葉を投げかける。

 まあ、見知らぬ人間が突然やってきて「自分は悪くない」とか、むしろ怪しさ満点ではあるものの、エプロンを着けた香織の醸し出す平和なオーラが伝わったのか、小さな兄妹はホッと胸をなで下ろし、警戒心を解いてくれたようだ。

 2人とも栗色のサラサラヘアにクリックリの青い瞳。

 背丈はどちらもユイより小さい。

 小学校に上がったぐらいかしら……なんて香織が考えていると。


「あの、どういったごようけんですかぁ?」


 女の子が香織を見上げながら、少し大人びた言い回しで問いかける。


「うん、実は私もちょっと分かってないんだけどね、とにかく〈両親共働きで寂しく過ごす子供に食事を振る舞う〉っていう指令みたいなのをやらないといけないみたいなの」


 香織の返答は大人が聞いてもわけが分からないような内容だったが、むしろ相手が子供だから良かったのか。

 分からないなりに、とにかく正直に答えたのが良かったのか。

 意外と上手く伝わったようで……。


「えっ、料理作ってくれるってこと??」

「ええ、私ので良ければ!」

「うおぉぉぉ! 食事食事!!」

「フフフ」

「もしかしてママかパパの知り合いですかぁ?」

「ううん、それは違うかな。ねえ、あなたたちのママとパパはとてもお仕事が忙しいのかしら? この時間に子ども達だけでおなかを空かせているなんて」


 香織は、日射しの照りつける青空に向けてチラッと目をやりながら訊いてみた。


「そうだぜ! パパは王様を守るためにたたかう戦士で、ママはおじいちゃんがやってる道具屋を手伝ってるんだい!!」


 誇らしげに答えながらフンッと胸を張る男の子。


「へえ、それは凄いわね! もっと詳しくお話を聞きたいとこだけど、まずはお腹を満たしてあげないと……ね?」

「うん!」

「うんうん!!」


 無邪気に頷き続ける男の子と女の子。


「そうだ、申し遅れちゃったけど、私の名前はスズサカカオリです。よろしくね!」

「ボクはルビロル!」

「わたしはリビナナ! よろしくおねがいしまーす!」

「うん、こちらこそ! それじゃ、ルビロルさんとリビナナさん。とりあえずお家の中に入れて貰っても良いかしら──」


 と、香織が言いかけたその時。


 タグッピタグッピピピピピイィィィ!!


 突然、どこからか妙な鳴き声が辺りに響き渡った。


「あらっ? なにかしら?? ネコちゃんじゃ無さそうだし……」


 ささみがこの場に居たら壮大にズッコケて右膝十字靱帯断裂してしまいそうなほど、的外れにもほどがある言葉を呟く香織。


「や……やばやばやばっ!!」

「ひゃぁぁぁぁぁ! う、うしろうしろ……!!」


 焦りまくるルビロル。

 そして、リビナナが向かいに立つ香織のさらに向こう側へ思いきり腕と指を伸ばした。


「えっ? そこに何か居るの……??」


 振り向いた香織の目に映ったのは──。

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