第49話 ボス毒爆発
「えへへへへ~」
「イムムムム~」
仲間想いで男気溢れる毒魔物軍団のリーダーポイズワロウから“弓の名手”、“勇敢な戦士”と言われ、ほくそ笑む歩斗とスララス。
その件についてはもっとじっくり聞きたいところ……だが、それより先にまずやるべき事がある。
「ポーッズッズ! おい、落ちこぼれのポイズワロウ。そういえば“カス共”はどうした? あまりに弱すぎて勝手に死んじまったのかポズ?」
下品に笑う親玉。
歩斗は、ソレが草原に残してきた毒魔物たちを指してること、そしてこの親玉は見た目こそポイズワロウに似てるものの、中身は待ったく別物だということも分かった。
ついさっきまで戦っていたばかりの敵だとしても、今は共に戦うポイズワロウに対する酷い言い方、その仲間に対する侮辱的な発言、それらは歩斗たちの闘志に火を着けるのに十分過ぎた。
「行くよスララス!」
「イムイムゥ!!」
弓を構える歩斗。
その手に持つのはもちろん毒爆の矢。
ブルルンボディをキュッと縮めて、いつでも相手に向かって跳びかかれる体勢を取るスララス。
「落ちこぼれが連れてくるのはどうせカスだポズ! オマエらやっちまえポズ!!」
親玉の号令に従うように、上空を旋回していた5体の毒ツバメたちが歩斗たちめがけて一斉に急降下。
ヒューッと風を切る音が絡まり合いながら、どんどん大きくなっていく。
「は、はやっ!? って、大丈夫。きっとやれる……なぜならボクは弓の名手だから!」
ポイズワロウから贈られた言葉を胸に、歩斗は構えた弓を上へと向けた。
5体の敵はもうすぐそこまで迫っていたが、
「えいっ……えいっ……えいっ!」
素早く手を動かし、3本の矢を連続で放つ。
パンッ、パンッ、パンッ!
命中率100%!
「な、なんだとポズ……!?」
初めて動揺の色を見せる親玉のすぐそばに、3体の毒ツバメが力なく落下。
それぞれ30以上の赤数字煙が出るのと同時にスーッと姿を消した。
「よっしゃー!」
大喜びの歩斗。
……が。
「アユト君! まだ残ってるよー!!」
後ろの方にある木の陰に身を潜めるケリッツの声が飛んでくる。
5-3=2。
残りの2体も毒爆の矢が引き起こした強烈な破裂音に一瞬怯んだものの、再び急降下を始めていた。
「あっ、やばっ……」
浮かれて油断していた歩斗は急いで次の矢をセットしようとするが、毒ツバメたちはもう目と目が合う位置まで到達していた。
万事休す……では無い!
「イムイムゥ!!」
むしろそこまで下りてくるのを待っていたとばかりに、スララスがピョーンと大きく跳びはねた。
「イムッ!」
「グヘッポズ……!」
向かって左の毒ツバメに体当たり攻撃が直撃!
敵の体を足掛かりにして、すかさずすぐ横に居るもう1体の毒ツバメに体当たり!
「イムッ!」
「グヘッポ……ズ……!」
2体のツバメは揃って歩斗のそばの地面に落下。
レベル13になったスララスの強烈な〈跳弾攻撃〉により、大ダメージを負った毒ツバメたちはスーッと姿を消した。
すると、どこからともなく陽気な音楽が流れて来る。
ズッチャ、ズッチャ。
シャン、シャン、シャン♪
おなじみレベルアップ隊の登場……が、その時。
「おのれクソガキ、クソスライム!! よくもやってくれたなポズッ!!!!」
一瞬で仲間を全滅させられて怒りに声を震わせる親玉。
「えっ、えっ……?」
レベルアップ隊のリーダーが動揺するのもお構いなしに、足場にしていた宝箱を蹴り上げながら前方に飛び出す。
ターゲットは……歩斗!
「ひぃ! ちょっ、いきなり……!?」
焦りながらも何とか弓を親玉毒ツバメに向けようとするが、明らかに間に合わないタイミング。
スララスは少し離れた場所に落下しており、すぐにジャンプしようと力を込めたが親玉はもう歩斗のすぐ目前。
「さらにこうだポズ!!」
真っ直ぐ飛んで来た親玉が体を捻ると、横回転が加わってスピードが何倍にもアップ。
それ以上に攻撃力が増加しているのは間違いなく、直撃したら瀕死どころか即死の可能性大。
「う……うわぁ!!」
涼坂家の長男、毒多島にて死す……かと思いきや!
「そうはさせないロウ!」
翼を大きく広げたポイズワロウが歩斗の前に体を投げ出す。
「チッ! まあいい。落ちこぼれ、お前から死ぬポズ!!」
ドンッ!
親玉の回転式体当たり攻撃がポイズワロウを直撃!
ダメージは……75!?
明らかに威力が増してると思われた親玉の必殺技を食らったにも関わらず、ポイズワロウの体から出たのは75の赤い数字煙。
瀕死状態にはなったものの、かろうじて一命を取り留める。
なぜなら……。
「ポイズワロウ!! それに……スララス!!」
そう。
親玉の攻撃がヒットするのとほぼ同じタイミングで、スララスがポイズワロウと歩斗の間に入ってきていたのだ。
ボワンと膨らました体が攻撃の威力を吸収し、ポイズワロウを即死から救っていた。
だが、そのせいでスララスも『65』のダメージを負ってしまう。
「ど、どうなってるんだポズ……」
自慢の必殺技で決着を付けることができなかったことに戸惑う親玉毒ツバメ。
「ア、アユト君!!」
「うん! もう準備完了だよ!!」
ケリッツの声に応える歩斗の顔は余裕の笑みすら浮かべていた。
その裏にあるのは、ポイズワロウから貰った言葉。
そして、そのポイズワロウとスララスが身をもって自分を守ってくれた行動を無駄にしてはいけないという強い気持ち。
「えいっ! えいっ、えいっ、えいっ!!!」
立て続けに4発。
歩斗は手元にある全ての毒爆の矢を連射した。
ターゲットはもちろん親玉だが……パンッ!
パンッ、パンッ、パンッ!!
見事すべて命中!
白煙48!
白煙59!
白煙65!
そして……赤煙77!!
歩斗の……いや、全員の思いを乗せた毒爆の矢はヒットする度にダメージを増していき、ついには瀕死の赤煙にまで到達!
しかも、親玉の体は──。
「ク……こんなバカな……落ちこぼれが連れてきた人間のクソガキにやられるわけが……な……」
悔しさに包まれながら、スーッと姿を消していった。
「……やったー! 勝った勝ったいぇーい!!」
大はしゃぎの歩斗だったが、すぐに瀕死の仲間がいることを思いだし、回復の矢を手に取ってポイズワロウとスララスの体に撃ち込んだ。
「イムイムゥ!!」
「おお、スララス元気になって良かった!」
「フッ……やるなロウ」
「ポイズワロウも! って、でへへ」
照れくさそうに指で鼻の下をこする歩斗の元に、ずっと隠れて見守っていたケリッツが駆け寄って来た。
「凄いよアユト君! まさかこの島のボスを倒しちゃうなんて!!」
「も、もう、みんなしてべた褒めしすぎじゃないもう……でへへ」
猛烈な褒め褒め攻撃に照れ死にしそうな歩斗……に異変が。
「えっ? ちょっ、なに……??」
歩斗の体がキラキラと輝きだしたのだ。
不思議そうに見つめるケリッツ、スララス、ポイズワロウ。
「……あっ、そうか。10体の魔物を倒したから……ねえ、急だけど、ボクもうすぐここから居なくなっちゃうんで!」
「もしかして、さっき話してた魔法陣鍵ミッションってやつ?」
「そうそう……って、寂しいよ~。せっかく仲良くなれたのにぃ」
喜びから一転、共に戦った仲間との急な別れに涙ぐむ歩斗。
「弓の名手に涙は似合わないロウ。それに、オレたちはどこに居たって仲間だロウ?」
「ポイズワロウ……ううう、ありがとう」
どこまでも格好いい毒ツバメリーダーの言葉に感極まる歩斗。
……と、その時。
「ん? 仲間……って言った?」
「ああ、何か文句があるのかロウ?」
「違う違う! 仲間ってことは……へへへ、そっかそっか!」
歩斗は右手でそっと首に巻いたチョーカーに触れながら、満足げに笑ってみせた。
その体の輝きが一段と増していく。
「あっ、そうだ。あの宝箱! まだ開けてないんだけど!! ねえポイズワロウ、何が入ってるか知ってる?」
「ああ、もちろんだロウ。宝箱の中身は毒多島の秘宝〈超最高級毒消し草〉だロウ。あらゆる毒を一発で治すと言われて──」
「えっ、マジ!? ねえ、それさえあれば……!!」
歩斗は興奮気味にケリッツの方を見た。
「う……ううう……ありがとう……みんなありがとう……!」
ケリッツの目から涙が溢れた。
ここに来るまでの道中、不治の毒におかされた母親の件を聞いていたポイズワロウが、その翼をそっとケリッツの背中に置いた。
歩斗の体はもう強烈な光で真っ白になっている。
「そろそろやばっ……ってことで、みんなまた!」
「さらばだロウ!」
「アユト君、きっとまた……!」
「さよならイムぅ!!」
「いや、スララスは普通にまた会えるし!」
歩斗の素早いツッコミにより、涙から笑顔に変わる面々。
その体はスーッと消え始め……。
「そうだケリッツ」
「なに??」
「この島の場所は……」
「あっ、アユトはロフミリアから来たんだっけ? それはたぶんここからずっと北に──」
と、ケリッツの話を最後まで聞くことなく、歩斗の体はすっと消えてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます