一話 Bパート・チャプター25/人道的に考えて、諸行無常の響きあり



 呆気にとられ唖然とする後ろのタカハシ(27)は、となりのサキちゃんに顔をむけ、

 


 あれ? もしかしてキキョウガオカさんもああ・・なんですか?と、



 モリサキの背なかをまなざしでしめして、見比べる挙措動作と、表情で、たずねると、




 視線に気づいたサキちゃんが、二度見してあわてて、無言のまま、何度も小さく首を左右に振り、




「タカハシ君!」と、モリサキが、不意に首を巡らせ、声を放ってくるので、



「はいィ!」と、気合の乗った良い返事で答えている。



「私の能力を見せよう、」と、モリサキは横顔で笑って、



 さらに一歩を、踏み出して。



「我が、能力は!よどみ果てた人心に、カタストロフに似たエンハンスメントとカタルシスをもたらし、世に蔓延まんえんする、厭世的えんせいてきなフィロソフィーの向こう側を見せるものである!」と宣言する。




 なに言ってるかわかんねえ、と、タカハシ(27)は辟易する。「はぁ、」



『とまってください、モリサキ・ラッシーさん』と、明るく無機質に、あどみー君が言い、部隊員らと共に、人道的にテイザーを乱射する。



 死の羽音を響かせ、空を裂く、弾丸を、モリサキはものともせず、


 再びなし、造作も無く叩き伏せ、


 小さく、ほくそ笑み、



「あどみー君! キミ達が感情や情動を獲得できていない事を喜びたまえ!」と、咆哮ほうこうし。



 ひどく静やかに、タップでも始める調子で足を揃え、自身の身体の正中線上に両の手を構え、



「 ―――抱腹、絶死、 」



 と、集中し、念じ、唱えて。





 その後ろで、




「ああいうのやる決まりでもあんの?」と、ジャケットでおまたを隠したタカハシ(27)は、あきれまじりに、いぶかしんでサキちゃんにたずね、



「しーっ!」と、ちょっとおこったようすで静粛せいしゅくをうながされるので、



 しかたなく、いやいや黙って、おとこの背中に眼を戻し。




『モリサキ・ラッシーさん、考えをあらためてください、』と、あどみー君が言いながら、胴を変形させ、腹部から砲塔を出し、


 チィィィィィィィィィィ、と、電子的な小さく甲高い音を発して、チャンバー内に何かすごいの・・・・・・を充填しながら、狙いを定める、かたわらで、隊員らが銃器を実弾が発射可能なものに錬度の高い動作で変更し、



 それらを意に介さず、モリサキは、









「アルミ缶のォオオオ! 上にィッ!」と、声を轟かせ。










 ――――――・・・・・・おいおいおいおいひょっとしてまさかな、と、タカハシ(27)がこれから起こる事態を危惧きぐし、



 疲れて果てて双眸そうぼうを細め、



 耳を疑った、




 半瞬間後、







「アアアァァーーーーーーーーーーーーーーーーーR!ーーーーーーーーるッ!」





 と、


 モリサキが、


 150パーセントの力で、


 惜しげもなく、


 野太い声で絶叫し、YMCAよろしく、おしゃまに片足の爪先を立たせ、頭のわきで輪っかをつくり、

 


 身体いっぱい、元気いっぱい、躍動感いっぱいに、




 たくましく『R』を表現・模写し。





 ――――――あぁ、と、タカハシ(27)は、つよい諸行無常を感じ、居た堪れなくなって、目をふせてそらして、



 唐突に、

 


 カエルをつぶしたような短い悲鳴が、あちらこちらより断続的に鋭く挙がって、視線を上げれば、スマイオの隊員らと、周囲、特に前方に扇状に広がっていた野次馬らが、軒並み倒れて、



 仰臥し、天を向いて、痙攣し、




 呼吸を忘れる、強い空白を、置いて。




 ああああああああああああああっはっはっはっは、ひゃあああっはっはっは、ホァー!と、口を揃えて、引き笑いもまじえて笑いころげ始め、





 モリサキが、型の演武を終えた拳法家のように、微動して姿勢を戻し、残心する姿を見て、



 何も言えないでいると、





「これが我が能力の、神髄。  ――――――抱腹絶死。 





    クレイドル・ラフィング!」



 と、伏して飛び掛かる直前の虎を彷彿とさせるポーズを決め、稲光でも背負うように、後ろ姿をむけたまま、説明され、





「あぁ、はぁ、」と、タカハシ(27)は、やるせのなさを隠しもせず、相づちをうち、


 ちらと、顔を横に向ければ、



 となりでサキちゃんが、恐れをなして、怖い顔をして、肘をだいている。




 ちょっと見つめていると、




「――――――これが、フロントラインを生きる、 このすさんだ時代と暴力の真っただ中を進む、トップランカーのちからよ!」などと、畏敬いけいして、



 キッ、と、横目に、睨んでくるので。





「駄洒落じゃん、」と、半笑いで率直に、力無いつっこみを入れる、タカハシ(27)。「もうさぁ、なぁ?しかもそれ、たぶんトムキャットで、北斗の『Ⅱ』の方でしょ?それ? なぁ、」




「タカハシにはわからないでしょうね!」と、くってかかるサキちゃん。




「はいそうですね、」と、投げやりに応じるタカハシ(27)を、よそに、





 モリサキはあらたに一歩を、踏み出して、




「どうやら、 形勢は逆転かな?  あどみー君!」




 と、声を張り上げている。





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