一話 Bパート・チャプター23/糞ロボット



 群衆の向こうから、遠く、甲高いサイレンが鳴り響き、高速で近づいて来たかと思えば、



『道を開けてください、道を開けてください、道を開けてください』と、繰り返し忙しなく、明るくも無情な機械音声が続いて、人々が割れて、



 モーセの十戒然と人海の中に出来た道から、やけに足許のしっかりした、




 見る物に昭和の名ロボット『ガンタンク』を想い起こさせる、キャタピラのついた、某社のヒト型サポートロボット・ペッパーに酷似・類似した何かしらが、取りつけがあまいのか胸のディスプレイをがっくんがっくんがっしゃんがっしゃん盛大にパイオツ然と揺らしながら、疾駆して、姿を見せて、急な制動で、停まり、中途半端にサイレンを止め、



 サブマシンガンに似たかたちの、ドラム型マガジンのようなものが付いた両の手を持ち上げて、関節の自由度の高い首を左右上下に振りながら、バイザーの向こうのアイセンサーで状況を確認しているのか、忙しなく動いて、間も無く、



 雑多な、しかし規則正しい足音が多数、続いて、



 先刻『サイタマりそな』のATMに表示された特殊部隊のイラストとほぼほぼ一緒の装備を纏った者が、十数名。



 隊列を組んで、人垣の向こうから現れ、



 偽ペッパーの前に、進み出て、手に手に持った、大型のショットガンのようなものを構えて、



 銃口を、そろえてこちらに向け。



『そこまでです。人質を、解放してください』と、場を代表して、クソ偉そうに、高い声でほざく、ペッパーのばったもん。




「はぁ?」と、うろんさも身体も隠しもしない、タカハシ(27)。それらにYOSHIKIごと向き直り、つかのま、様子をうかがって、




 となりのサキちゃんを見やると、奥歯を噛み締めて、あせっているのか、恐々として、身構えており。



 もろもろすべて、見なれないため、冗談にしか思えず、




「なにあれ?」と、声をひそめて、たずねているタカハシ(27)。




「スマイオよ」と、サキちゃんは言い、手の施しようがない、といった面持ちで、どこかあきらめきって弛緩しかんして、手を広げて、目をふせる。「あのロボットは『あどみー君』。治安維持に、繁華街なんかには、ときどき配置されてることもあるの。なんで今日に限ってなのかわかんないけど、 こうなっちゃうと、 私の能力じゃ、  詰みね。」



「はぁ、」と、そぞろに応じて、タカハシ(27)は、にせペッパーらに、けげんな眼を戻し、「あのー、」と、声を発して。




 直後、構える部隊員に、緊張が走り、




『発言を許可します』と、贋ペッパーことあどみー君が声をはなつと。


 


 声に従って、しかし、構えは崩さず、発砲に餓えた姿勢を維持し続ける。


 


「あのー、」と、タカハシ(27)は、半笑いで、じゃっかん見下しながら、声を放っている。「どういったご用件でしょうか、」




『ハ・ザードの元凶、ミスター・プロレタリアート、スパルタカス・タカハシ・おさむさん』と、あどみー君があどけない音を発する。『どうして、そんなにハゲてしまったんですか?』




「ぐうう!」と、YOSHIKIが泣き呻く。


「おまえじゃねえよ、」と、苦笑するタカハシハゲ(27)。




『あなたは、なにをのぞんでいますか?』と、不意を打って、あどみー君が音を出す。




「はぁ?」と、忙しさにいらだってたずねかえす、タカハシ(27)。




『われわれは、あなたを拘束しなければなりません。 しかし、一定の譲歩の用意は、すでにととのっています』あどみー君は端的に続ける。『タカハシ・おさむさん。 われわれは、あなたの個としての人格を尊重し、愛し、認めています』




「よく言うわ、」と、小さく鼻で笑う、サキちゃん。




 タカハシ(27)は、ちらと、その姿を見て、歩道の奥で、見世物をながめる野次馬たちにもちらと、眼をむけ、



 また、前方に眼を戻し、「とりあえず、服きたいです、」と、思い出したように口を開き、




 どっ、と笑いがおこるので、いまいましさと照れから、歯噛みして、




「つーかさぁ!さっきっから聴いてるとなんか、こっち悪いみたいな言い方だけど、襲ってきたの、このハゲのほうが先なんだけど!」と、肩口のYOSHIKIに横目を向け、顎でかるくしめして、




 ふぐふううう!と、よだれとはなみずをとばすくっしゃくしゃの顔を見た後、




 少々溜飲が下がるので、苦笑して、「もう、家かえりてえんだよ!オレは!」と、つづけて。




 あどみー君が、素晴らしい膝のクッションをつかいながら、がったがた上下に小刻みに揺れて、会いたくて会いたくてたまらないちょっとアレな女の人のように震えながら、




『むーりぃー、』と、




 引き伸びた声を放つ。



 どっ、と、また笑いがおこり、



 んーだよ、「じゃ聞くなよ!」とさけびかえして、野次馬に眼をむけるついでに、隣を見ると、サキちゃんが顔をそむけて、つられて笑うのを我慢して、ちいさく呼吸をみだしながら、自分の肘をつよくつかんで肩をふるわせているので、いまいましさが限界をこえて、



 決意を持って、タカハシのタカハシを、隠すことを止め。



 とりあえず、とYOSHIKIをそばに、押し離して捨てて、




 即座にスマイオとあどみー君が反抗の意思ありと認めたのか、銃口を集中させてくる。


 判然と空気に、緊張感がただよい。


 群衆として、残っている人々が、騒々しさをいさめ、固唾を呑み。




『行動は許可していません、タカハシ・おさむさん』と、あどみー君が言う。




「うるっせえ!」と、全裸で吼える、眉無し、タカハシ(27)。




 狙いが引き絞られ。




『われわれは、暴れる兆候をみせたサイタマのかたがたと、そのへんでいちゃついているカップルに対して、ワイヤレス発射型ス・テイザータンガンを打ち込んでよいことになっています』と、あどみー君が警告を発する。『タカハシ・おさむさん、 われわれは、あなたやあなたがた、あなたの隣人らに、危害をくわえたくありません、 どうか、人質を解放し、投降してください』




 そのへんでいちゃついてるカップルっておまえ、「根暗すぎるだろ、」と、タカハシ(27)は、思わず苦笑してしまう。「誰だよソレ考えたヤツ!」





『タカハシ・おさむさん、投降してください』と、あどみー君が、場ちがいな明るい声でくりかえす。『ブラザー・トムの加護と庇護を、われわれブラザーズは、あなたやあなたがたに、さずけたいのです、どうか、』



 言いながら、言葉に反して両の手が、小さな駆動音を伴って、もたげられ、突き出され、弾薬の発射に備えて、肘のアタッチメントが、稼働して、射撃の衝撃に対応するためなのか可変した胴に固定され、支えとなり、



 合図となって、



 隊員らの、引き金に乗ったなめらかな指が、少し、曲がって。

 


 ちいさな悲鳴が、野次馬からあがり、



 サキちゃんがうな垂れて、眉根を寄せて、下唇を噛み締め、



 タカハシ(27)が、恐怖から、半歩後退し、腕を持ち上げた、



 刹那。








「――――――待ちたまえェッ!」








 と、街の上方より、おごそかな、渋い怒声が轟き、



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