一話 Bパート・チャプター22/思った以上にスピルバーグ
「おいちょっと、」と、タカハシ(27)はその背に、慌てて手を伸ばし、
背後で号泣し、泣き声を轟かせている、YOSHIKIに気づいて、同情から振り返ると、案の定、溶けてバターになりそうな勢いで、アスファルトに額をこすり付けて一歩も動けない様子で泣いているので、仕方がなく、近くにより、
「おい大丈夫か?」と、声をかけ、
つかのま待つが、あまりにも、返事がないので。
「ほら、」と、そばに屈んで、背を何度か叩いて、「うぅ!ふぐふぅ!」と、お返事をもらい、片腕を取って、どうにかこうにか、
「立てよ、」と、いやいやながら、協力を促して、引っ張り上げて、立たせ、肩をかし。
間近で。
「うぐうううううーう!ふぐ、んんぐううううう!」と、堪えきれず、くっしゃくしゃになっているYOSHIKIには極力、眼をむけずに、
辟易しきって、
サキちゃんの後に続いて。左右を気にしいしい、車道を横断し。
「ちょっと!連れてきたの?!」と、腕を組んで呆れるサキちゃんに出迎えられ。
そこここから悲鳴が挙がるのを耳にしながら、
「いやだって、さすがに、こいつ、 道路のまん中に一人でほっとけねえだろ?」と、半ば困惑して、タカハシ(27)は答えて。
「お人よし、」と、溜息を吐かれて、
唐突に。
「宇宙人だ!」宇宙人だろアレ!などと、通行人から声があがるので。
は?と、二人そろっておどろいて、泣いているハゲをよそに、声の方へと、振り返ると、
周囲から、痛いほど、視線が、集中して、注がれており。
足をとめるものも、多数いて、
「なんだよ、」と、タカハシ(27)は、声に出してちょっと笑い、この期に及んで、怖いモノなどなにもないので、まわりを見まわして。
怯える人々を眼に、視界に入れて、映し。
一瞬、疑問にとりつかれ。
自身の状態がどうだったか、を、思いだし。
タカハシのタカハシがまる出しだったことに、いまさらながら、気が付いて。
しまった!とするどくおまたを空いている手で押さえてみるが、
時、すでにおそく、
「全裸のハゲがいるぞ!」と、
―――あぁ、おれだわ、と、痛感して納得するタカハシ(27)の周囲で、
甲高い女の悲鳴が挙がって、騒々しさのうちに狂乱の気配がただよい、
「う、宇宙人だ!女子高生と変なオッサンがつれてかれる!」と、身勝手な憶測にもとづく解釈が、すっとんきょうな誰かの口からほざかれ、
人々の、奇異なモノを見る目に、パニックの色が浮かび、
「だれかっ!ダレカァ゛ー!」と、そのへんの女が奇声をはりあげ、
唐突に、刻一刻を争う気配が、濃密になり、
「いや違うんです! 違うんです!ちがうって!」と繰り返して、とりあえずタカハシ(27)がまわりへさけぶと、
「日本語しゃべってるぞあいつ!」と、声が返ってくるので、
あぁこれ、ダメだわ、と、タカハシ(27)は、胸中、荒涼として
「なっ!ちょっ、 と、こっち、見ないで、」と、声をひそめて恥ずかしげにあしらわれたうえで、顔が背けられて無関係を装われ、二、三歩あとずさりされ、距離を取られるので、
愕然と、したのち。
「・・・・・・おまえ責任もつんじゃねえのかよ!」と、テンション高く叫ぶ、タカハシ(27)。
「あれE.Tだろ、E.T、」スピルバーグスピルバーグ、と、近くのよっぱらいのおっさんが、「おれ映画館でパンフレット買ったから詳しいんだよ、」などと、また別のよっぱらいへと呟いた声が、喧騒に混じって、耳に入り、
「誰がETだてめえ!」と、覚醒したタカハシ(27)は瞬時につっこみを入れ、
「おまえがETだろうが!」と、反発する声をもらい、
うそーん、と泣き笑いの表情で、肩をかすかにゆらしてひくひく笑って、
「やべえぞアレ!たまご産むんじゃねえの!?」と、誰かが声を張り上げ、
早々に逃げ惑うものや、指をさして笑うものや、スマホで撮影を始めるものや、どこかへ通報し始めるものがあらわれ、群れを成して動揺しだすので、
「見せもんじゃねえぞ!」と、さけんでみるものの、
笑い声が返り、
本日三度目の、繁華街の衆人環視は、たちが悪いらしく、
どうすんだよこれ、と、半ば呆れ果てて、ちらと、肩を貸しているYOSHIKIをみやると、つよく口をつぐんで、顎にしわを寄せ、顔をくっしゃくしゃにして、「ふむうんんん!」と、幼児のように呻いているので、あぁダメだわ、と見切りをつけて、ちょっと離れたサキちゃんを見ると、
いらいらしながら、あつまった視線に照れて、腕組みをして、目をつぶって、眉間にしわを寄せておみ足をクロスさせ、わかりやすくみょうにそわそわしているので、
あぁ、こっちもダメだわ、と、諦めきって、
野次馬に眼をもどした、拍子に、
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