一話 Bパート・チャプター21/処刑タイム(バンク)
「私の名前は、キキョウガオカ・サキ。 ランキングオブサイタマ、4852位。 人呼んで、 クライベイビー・サキ」
サキちゃんは、ふらりと歩き出している。
「私の能力は、」と、すこし笑ってしまいながら口をひらいて、YOSHIKIとの距離を一定に保ちながら、加熱で歪んでしまったアスファルトを、踏み締めていく。「私の能力は、精神を操作するの。 こころ
ちらと、横目にYOSHIKIを見て、
「わかる?」と、
たずねて、足を止め。
「クソガキィ、」と、YOSHIKIがゆるやかに腕を解き、僅かに臨戦態勢を取り、「小娘が、 こちとらよぉ、お嬢ちゃん。これでもちっとは大目に見てやってんだから、 図に乗んなよ?」と、
タカハシ(27)は、荒涼とした心持ち・身体持ち・面持ちで、二人のやりとりを、遠い眼で、あきれかえって傍観している。
「そして私の能力は―――、これはみんなには内緒だけど、常時発動型でもあるの、」と、サキちゃんは涼やかにも冴え冴えと、笑ってつづけて、「しかも、自分にも効いちゃう厄介なもので、 コレでも、普段はおさえ込んでて。けっこう、使う時は調整で、 たいへんだったりするんだけどね?」と、自嘲混じりに、明るくほがらかにつけくわえ、
「だからなんだよクソガキ」と、YOSHIKIが、片眉を上げるので、
「誰が相手でも、それなりに手加減してあげてるってこと、 わからない?」と、応じる。「別にわたしは、自分から進んで誰かの、 ヒトの涙を、見たい訳じゃないから」
「なめてんなぁ、おまえ、」と、YOSIKIが獰悪に、鼻で笑い、
「――――――心が在るなら、 そう、 」と、夜にたそがれて、サキちゃんは独りで言い、身体の内側の
身に宿る能力のすべてを解き放ち、励起反応して、大気中に満ちる、観測不能・不可視の第五元素――――――
その変容に、なかば放心する
「――――――心が在るなら。 どんなやつでも、 泣かせてみせる!」
左腕を、持ち上げて。
顔の前で、確と、拳を握り締め。
喪に服すように、瞑目し。
「それがわたしの、
――――――
つぶやいて、まなじりを決し。
対象をとらえ、ひどくゆるやかに、穏やかに、身構えて。
「ほざいてんじゃねぇぞ?!クソガキぃ!」と、YOSHIKIが炎を背に立ち昇らせた、
半瞬後。
「
と、軽やかに左腕を振り、揃えた足先をクロスさせ、
ポーズキメキメで、能力を発動させ、
数多の、場に浮かんでいた球状の
YOSHIKIの焔を、吹き消して。
荒れた一陣の風が、辺りを渡って、ハゲどもを
カンマ数秒後。
ぐううぅぅぅぅぅ!と、YOSHIKIが号泣しながら胸を抑え、その場にうずくまる。
そして四つん這いになり、アスファルトを掻き掴もうとしながら、
「好きでハゲてるわけじゃねえっつうのぉぉぉおおおおおおおオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」と、
悲しくも冷たく、サキちゃんは、YOSHIKIの号泣する姿を、ながめて。
「あなたの敗因は――――――、あなたの敗因は、たった一つ。 こころのカツラを、自分から脱ぎ捨ててしまったことよ。
「おはぎみたいに言うなよおおおおお!」ぐうううふううううう!うぐふううう!と、噎び泣き呻く声を聴きながら。
それにしても、と、すこし、冷静になって。
ちらと、所在無さげに棒立ちするタカハシを見て、
なんでタカハシには能力が?と、明確な疑念を抱懐した直後。
ふと、不意に。
スカートのポケットが震えて。
轟く号泣の間をぬって、『キキョウガオカ、ウィン、キキョウガオカ、ウィン』と、機械音声をはなちはじめるので、ちょっともたもたしながら、取り出して、
画面を確認すれば、通知が届いており。
『サイタマ能力者開発協会 一分前
キキョウガオカ・サキ ウィン 』
と、表示されている。結果に嘆息しながら、スワイプすると声が消え。
スマホをしまいながらあらためて、YOSHIKIに眼をむける。
「ぐぅ!ぐ、 ううぐうううう!」と、全身を震わせながら、うな垂れて声を発しており、「お、おでっ!おで、だっ゛でぇーえ!すきでぇえぇえ、ぐ、すぎ、で!ハゲ、 で゛ る、わ、げ、」
「ハゲ!」と、あらたにポーズキメキメで鋭く追い打ちを放つサキちゃん。
「ぐうううううううううう!」と、YOSHIKIが胸を掻き掴み、額を路面にこすり付ける。「ぞ、ぞんな゛、 い゛う、おど、ひひっく!い゛う、おど、おで、わぁ! おで、わあぁあっ! は、 ハ、ゲ、」と、自身で口に出して、悲しみがぶり返したのか、「ううぐうううううううううううう!」と、悶えながら泣き呻き。
「 ―――コキュートス・ティアーズの前では、 ナニモノも、無力。 」と、サキちゃんは独りたそがれて、静止するバレリーナのように、星の見えない夜空を仰いで、手を伸ばして。
「そうでしょ?」と、見えないなにかに、優しくたずねている。
「うううううぐふうううううううう!」と、YOSHIKIの号泣が響く。
全裸で待機するタカハシ(27)は、とりあえず頃合いかな、と、判断して、ぺたぺた歩いて、二人に近づき、「あのさぁ、」と、ちからも覇気もない半笑いで、なにか大事なものを諦めて、声をかけている。「もういいの? これ、」
「タカハ―――」と、サキちゃんは、かかった声に、少し喜ばしくなりながら振り返って、事態とありさまに気づいて、さっと顔ごと目を逸らす。「ちょっと!」
「なに?」と、やる気なく、タカハシ(27)。
「なにって!ちょっとは考えてよ!ちかづいてこないで!」と、ちらちら、眉すら失ったタカハシを見る、サキちゃん。耳まで紅くなりながらも、タカハシのタカハシからは、極力、目を逸らしつつ、
肘を抱いて、「バカじゃないの?!」と、抗議する。「ハゲ散らかして!」
「別に、ハゲ散らかしてねえっつーか、散らかすほど、残ってねえけど、なんか、 もう。 オレさぁ、」と、がっくり肩を落として、解脱した調子で苦笑して、口を開く、タカハシ(27)。「もう、 なんか、あれだわ。 おれ、もう。」と、こぼして、ちょっと笑う。どーにでもなーれっ、といった心持ちである。「どうしようもねえわ」
「いいから向こうむくとかしてよ!」と、上から下までちらちらうかがう、サキちゃん。
「いやもう、なんか、」と、タカハシ(27)はかすかに苦笑して、頭に、手をやって。なめらかなスキンの感触をぴたんと確かめて。「あははっ、」と、声をだしてしまう。
「信じらんないほんと!」と、サキちゃんが嫌がって顔を顰めて、横を向き、
「お゛、おま、え゛、ら゛!」と、YOSHIKIが蹲ったまま、大泣きの合間に、声をはなってくる。
タカハシ(27)と、サキちゃんは、そろってそちらに、顔を向け。
しゃくり上げるのを見ながら、続きを待つと。
「お゛、お゛で、を゛! ひぐっ!おで、を、やっ、やっ、 や゛っ、だ、が、らってぇ!」訥々と、YOSHIKIが四つん這いで項垂れたまま、口を開いてくる。「ひぐっ!イイ、ぎ、 にっ、 なるっ、 な゛ よ゛おぉぉお!」
「ちょっとあの、なに言ってるかわかんないです」と、慈しみ憐れんで苦笑する、見た目的にも精神的にも、悟りに悟って解脱して
「お゛! ひっく! おで、を、 だお、じ、 た、とこ、ろっ、でぇええ!」ひぐ!と、YOSHIKIがしゃくり上げ、鼻水を垂らし、「だい、に、 だい、 ざん゛、のぉお!」
「ハゲ!」と、サキちゃんがすばやく路面に片手をついて伸脚の要領で片足を伸ばしたポージングで追い打ちを仕掛け、
「うううぐふうううううううううう!」と、YOSHIKIが泣き声をあげてまた項垂れる。口をわなわなさせて、「ああああああああはああああああああああん!」と、盛大に両手で顔を覆って、太陽にでも祈るように、ひれ伏して。
「あぶないところだったわ?」と、サキちゃんはさして問題ないふぜいで、涼しげに言って、安堵の息を吐きながら、おもむろに立ち上がり、
「ボロっカスにすんな、おまえ、まじで、」と、タカハシ(27)は苦笑して。隣のサキちゃんに、眼をむけ。
刹那的に、視界がぶれ。
世界が歪んだ、半瞬後。
通りに、ざらついて浮かび上がるように、人の波と流れが戻り、湧き出るように現れた車両が道路を行き来し始め、夜の繁華街・往来らしい活気が、辺りに満ち、
車道のまん中で立ち往生する二人とうずくまる一人に向かって、徐行してきた車が高度なブレーキアシストで、停止し、運転手が焦りながら、クラクションすらならせずに、瞠目して、口を開け放して、こちらを見る姿が、視界に入り、
「行きましょ?」と、サキちゃんは言って、おどろく運転手にかるく会釈しながら、歩道の方へと、行き交う車の流れを見て、信号を無視するニューヨーカーみたいに歩きだして、
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