一話 Bパート・チャプター18/ワイルド・スピード
迫る光と熱の渦を前に、反射的にタカハシ(27)は、
サキちゃんも、同じく。口をわなわなさせながら涙目でタカハシを、仰いでおり、
両者ともに、
「「
互いに互いを突き飛ばし、揃って激しく街路の左右に弾かれた、半瞬後、佇んでいた場所をほむらの波が浚い、空気を、街を、容赦なく焼き焦がす、
その様を、
タカハシ(27)は、
つかのま、浮遊感に、苛まれながら、眼にうつして。
その辺の居酒屋の軒先に背から突っ込み、何か柱めいた固い塊に衝突し、肺から呼気が抜け、砕け散ったガラスと建材の雨を浴び、
「よけてんじゃねえぞこらァ!」と、愉しげな声が男――――――YOSHIKIより発されたのを耳にし、
痛みと呻きの合間に、「 あたま、 おかしいだろオマエ!」と、叫び返している。
YOSHIKIは、恍惚に身を任せて、天を仰ぎ、両の手を挙げ、広げて、
喝采の雨を浴びるように、哄笑する。
軽くかぶりをふって、自らの能力の熱で揺らぎ歪んだ景観を眺め、炎の燻る路面を踏み締め、歩きだし、
「大人しくとっつかまっといたらどうだぁー?」欣然と、声を張りながら、タカハシの方へと進んで、
「おまえ!」と、不意に左方より呼び止められるので。
「あぁ?」と、やる気なく足を止めて、顔をむけ。
握った拳を、顔の前にかざしている女子高生の立ち姿を、
判然と視界の中央に、捉えて。
「おぉ、」と、少々おどろいて、そちらに向き直りながら、まだ無事かよ、嬢ちゃん、と、笑おうとした、刹那、
「『遺伝的に又
と、腕を振りながらポーズキメキメで罵られるので。
数秒とも数刻ともとれる間、沈黙し。
周囲に散った炎の中で繰り返される、いくつもの、
ちいさなちいさな、水蒸気の爆発を、耳にして。
「 だぁーれが
「あぁ?!」
「なっ――――――!」と、身構えてサキちゃんはこぼし、「くっ!」と、咽喉を鳴らして、いま一度、「この
「おーい、
腕を振るい、
地割れと共に炎の柱が路面を舐め、迫るさまを見て、
「ちょこまかシてんじゃねえ!」と、YOSHIKIは笑い混じりに叫び、その場に身を
起き上がりざまのほんの僅かな硬直に合わせ、
サキちゃんは、刹那的に、
アスファルトを砕き散らして破裂しながら躍り来るソレを見て、
一瞬。
二つの瞳。
頬、肌、視界。 瞳孔が。
夕焼けよりも、紅く染まり。
「ああああああまああああああ!」と、左方から響いた、どこかの部族めいた妙なおたけびを耳にして、顔をむけ終える間もなく、わき腹に高速タックルを見舞われ、
「かふっっ?!」と、息を漏らして、路面から、足が離れ。
くの字に横薙ぎに、
うぅ、と、痛みにうめいて、
ふと、我にかえり、
「っ!もおちょっとっ!」と、まだすがり付いているタカハシに文句を言う。
「あああああ!」目がすわっている。
「ヒッ!?」
「あほか!」と、必死なタカハシ(27)。「死ぬぞあほか!」
「いやあああッ!ちょっ、と、もうやぁめてぇ!」と、頭を押して拒否するサキちゃん。「この
「いま!そういう場合じゃねえから!マ、ジでおまえ!」と、タカハシ(27)は男へ首をむけながら巻き舌で言い、
「ほんと訴えるよ?!出るとこ出ますからわたしっ!」と、サキちゃんがわめいて、
「なにを、 公共の場でイチャついとるか貴様らはァ!」と、YOSHIKIが笑って吼えて、振り被った腕を、逆
二人そろって魂の芯から奇声を挙げ、立ち上がりざまの横っ飛びで、
近くの路地に突っ込み、
通りを擦過する、焔の流れ、水分という水分の蒸発を、足先で微かに感じながら、
そろって地面に突っ伏して、もつれ合って、じたばたもがいて、
「立て立て立て立てタテタテタテタテ!」と、半ば声を裏返して繰り返すタカハシ(27)。
「うるさいうるさいうるさいうるさい!」と、起き上がろうとしながらサキちゃんは言い。
ケンカするネコのようになりながら、
先に起きあがったタカハシに手をつかまれ、引かれて、立ち上がり、
もたついて揃ってよろめいてビルの壁にぶつかった拍子に、
「おう、お二人さんよお。 正々堂々、正面から行こうぜ?」と、路地の入口にふらりと、熱で輪郭を歪ませながら現われたYOSHIKIが声を放って来るので、
はっとして、眼をみはって、息を呑み。
「うっせこのハゲェッ!」と、タカハシ(27)が、明瞭・明確・つまびらかに言い返す。
YOSHIKIは、くつくつ、かるく目をつぶって、「おいおい、」と、こぼしながら、笑って。「 誰が
「ダメよタカハシ!一旦引いて!」と、まるっと無視してシリアスにサキちゃんは言い、無意識にタカハシの胸元を掴んでいる。「今のあいつにはなにを言ってもダメ!」
「はぁ?!」と、理解できずにタカハシ(27)は、そばのサキちゃんに顔を向け、
「――――――だから、褒めたって逃がしてやれるわけじゃねえんだ、わりいが、」と、YOSHIKIが
直後。
背後、周囲を問わず、地より火炎を噴き上げ、路地が朱に染まり、赤熱したビルの角や建材が歪み、ひび割れ、耐えかねた壁面が瓦礫となって落剥し、
「観念しとけやァアアアア!」と、
「黙ってよこのハゲ!」と、さりげなくタカハシのかげに隠れながら、サキちゃんは言い、
「だからよォ、お嬢ちゃん、オレぁ、申し訳ねえが
「いま!」と、タカハシの手を取り、「おぁ?!ちょっ!」などという抗議めいた声を無視して、路地の奥へと疾走する。
「だから、」と、YOSHIKIは眼を上げ、
走り去る背を、認めて。
「褒めても何も出ねえぜエエエエエエエ!?」と、狂然とした笑みを、浮かべ、「仕事がらぁ、鬼ごっこは得意なんだよなああ!オジサンはよおおおおおおおおおおおおおおお!」と、声を放ち。
両腕をクロスさせ、うっとり、陶酔しながら、ビルの谷間の夜空を仰ぎ。
深く息を、吸って止め。
「マッドネス・ペールトーン・アーガイルッ!」
声がとどろき、宵の闇をつんざいた、半瞬後。
膨れ上がった
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