一話 Bパート・チャプター17/イかれた淡色の格子柄
「カスタマー・センターみたいに言うな!っつーか特務履行ってなに?!」と、タカハシ(27)。「てか東京のひとっ?つったか?! いたの?!」
「そうよ!」と、拳をにぎり固めながら、サキちゃんは言う。「よほどのことが無い限り、|
こんなところ《サイタマ》には、ぜったいに来ないけれど! くっ! 一日で二回も凍狂人にあうなんて、 こんなの、こんなのついてなさすぎる!」
「まぁ、あきらめてくれや、」と、男が笑う。「しかしながら、 オレも仕事でやってるだけで鬼じゃねえし、 全部とって喰おうとも思わねえ。 そっちのその、
「「 な゛っ! 」」と、同調して、声を発する、タカハシ(27)と、サキちゃん。
「タ、タカハシをどうするつもりなの?!」と、サキちゃんは叫んで、ちらちらちらちら、タカハシを見る。「タカハシを?!いったいどうするつもりなの?!タカハシを!」
「強調すッなよマジで!」と、怒るタカハシ(27)。
「このタカハシがなにをしたって言うの!タカハシが!」と、ちら見をやめない、サキちゃん。
隣からさらにかかる「やめろっつのオマエ!」などという抗議の声を無視して、
「タカハシを、どうするつもり?!この!タカハ―――うるっさい!タカハシをどうするつもりなの?!この、タカハシを!」と、叫んでいる。
「あいにく守秘義務がある。」と、笑みをいさめず、男は言い、一度、おもむろに上体を起こして、たたずみ、「どうするよ?渡すかい?」と、右手をもたげて、たずね返す。「わたっすっつーんなら、あぁ、そうさな、 どうだろう? ただとは言わん。 今度おじょうちゃんあてに、こっちで調べて、
「くっ!」と、サキちゃんは歯がみして、たじろいでいる。
「くっ!じゃねえよ!」と、タカハシ(27)はつっこむ。
「ピンクはどうだ? きらいかぁ?」と、男は洒脱に、眉を波うたせて言う。「クロエの、大人らしい香りのオシャレで、みんなの一歩先を行ってみたくはないか? 学生がつけてりゃ、そりゃあよお、一目置かれるぜ? お? どうするよ?悪い取引じゃねえだろ?」
「ひ、卑怯よ!」と、サキちゃんは叫ぶ。
「ゆらぐなよ!」と、タカハシ(27)。
「どうする?」と、男は脅迫する。まなじりを決して、「こっちはよォ、 ムリに、とは言ってねえんだ、 どっちでも、いいんだぜエエ?!」と、げんこつを持ち上げてつけくわえ。
サキちゃんは胸をこぶしでおさえて、また、歯を食い縛り、
ふせた眼を、路面に泳がせている。
横から、その悔しそうな表情を、タカハシ(27)は、しばし、うかがって。
「迷うとこじゃねえだろっ!」と、強く、もっともらしい事を言い。
「・・・・・・タカハシは、黙って!」と、するどくプレッシャーを発する、サキちゃんに、
えぇー、と、ドン引きして、ちからなく肩を落としている。「そんな言われ方する?」
「お嬢ちゃん、どうするよ?」と、男が、タカハシ(27)を無視して、眉を動かして言う。「選択する権利をやろう。えらびなよ」
サキちゃんは無言で、下唇を噛み締める。
タカハシ(27)は、呆れてモノも言えない。
いくばくか、深い思慮にみちみちた、ちんもくが流れ。
「とても、 魅力的な提案ね、」と、サキちゃんは、路面に目を伏せたまま、冷ややかに口をひらく。「ほんとうに、夢みたいなハナシ。ピンキー&ダイアンのトートと、 クロエの香水、だっけ?」
タカハシ(27)は唖然として、サキちゃんの横顔を見ている。
「あぁ、そうだ。 クジにでもあたって、ただで最新の、限定アイテムが手に入ると思えばいい」と、男が優しげに、口元をゆがめる。「世の中どこでも、 長いもんの前で物分かりいいやつぁ、それなりに飴がもらえて、得するようにはなってる」
「そう。」と、サキちゃんは言い。「じゃあ、」ちらと、隣のタカハシを見て。
数瞬間、間をあけて。
「おこと、 わりよ!」と、脇腹のつりそうなポーズをとりながら、声を張る。
あちこちぷるぷるさせながら、キッと、男をにらんで、
「私は――――――! 私は一度ひろった命には! 最後まで、 責任を持つわ!」
などと、口走り。
「・・・・・・いぬじゃねんだから、」と、思わずこぼす、タカハシ(27)。
男が、「そうかい、 あぁ、」そうかいそうかいと、演技めいた残念さで、静かに言い、
がくりと、肩を落としながら、したたかに一歩を踏み出して。
路面にの数多のヒビを入れ、
まがまがしい、笑みを浮かべて。
おもてをあげ。
「じゃあしょうがねえや、 力ずくで、 もってくことになるよなぁ!」と、吠える。
「私は、 負けない!」と、
「絶対に、 負けない!」と、みょうなポーズを決め、繰り返す。
「そういうこと言うなっってお前は!」と、叩かれた肘を押さえ注意するタカハシ(27)。「最近そういうこと言うヤツだいたい負けんだから!」
「負けない!」と、わりと本気で、サキちゃん。
男がくつくつ、のどを鳴らし。
「元気がいいのはいいこったなぁ!お嬢ちゃん!」と、叫び返し。
もうほんとヤダわこいつら、なにこれもー、と、タカハシ(27)は、一文字に口を結び、
視線を、 臨戦態勢に移行した両者へと、 交互にやって。
「素直に渡せるように、」男が一段と、身を沈めて、「このオレ―――、凍狂は豊島区・池袋出身、
口角を吊り上げた、
直後、
地のヒビ割れから炎が迸り噴出し、溢れて、燃え上がり、周囲へ飛び火し、街灯や電柱、飲食店の華美な看板などが激しく焼け焦げはじめ、熱に
「壁面管理統制調査機構・東村山もんぺ同好会・
マッドネス・ペールトーン・アーガイルで世話してやろうか!」
と、両の手を広げて
――――――わたしはどこそこのだれそれで、このような目的があり、こういったことができます、
という、
花丸がつくほど簡潔でエクセレントな自己紹介を、
完了する。
赤々と、立ち昇り猛るほむらに照らされる、タカハシ(27)は、ひどく遠い眼をして、
炎熱の輝きに惨たらしくもプリミティブな
ほほを引きつらせながら、ちらと、となりのサキちゃんに目をやると、
はやくも、うぐふぅー、と、唇を結んで、泣きそうになっており。
なんか知らんけど、 いろいろおわったな、 と、
「おまえ、おまえ
あれ?と、一瞬、疑問に思う。
「安心しろや! タカハシ! とかいうやつ! 最悪、おまえ死んで持って帰ってもオレあ褒められこそすれ誰からも叱られやしねえからよぉー!」と、YOSHIKIはわれ関せずと笑って、広げた手を、
「あとかたくれえはぁ残してやるぁあああアア!」鋭く振って、交差させ、
変哲のない街路に、地割れと共に、炎の波を、ほとばしらせる。
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