一話 Bパート・チャプター15/よくある話、2回目




「いて、でで、」と、頭痛のなごりに顔をしかめながら、タカハシ(27)は、知らぬまに下げていたあたまをあげて、「なに?」と、たずねている。




 数秒の、沈黙があり。




「なにから話そう、」と、サキちゃんは操作していたスマホをしまいつつ、まわりを警戒しながら落ち着きを取り戻して、口を開く。「スマイオの一部、埼玉能力者開発協会は、ブラザー・トムをつかって、能力者を監視しているの。ここまではタカハシも知ってるでしょ?」




「なんか、似たようなの聴いたな、」と、冷静さを取り戻して答えながら、おもむろに、立ち上がって。


 手やひざを払いながら、


 ヒトの気配の消え去った、深閑とする、猥雑な街並みに眼を向ける。


「なんか、これ。 さいしょ、夕方んときと、いっしょっぽいけど、」




 ジジじ、ジ、と、しゅうへんの電燈が音を放っている。




「彼らは能力者の可能性を探るために組織されて、私たちを監視、管理しているの」サキちゃんは続ける。「そして、 あらゆる状況下で、 わたしたちから発揮・発現されるものを、観測している。 オービットの、トム・ザ・グラッスィトムさんのめがねーズでね。 彼らは、自分たちのその行いが、すべての人類にやがて益をもたらすと信じている。そんな連中なの」




「はぁ、」と、あいまいにかえす、タカハシ(27)。不安から、サキちゃんに歩み寄る。




「ねえ、タカハシ、」と、周囲への警戒を強くするサキちゃん.


「なに?」と、タカハシ(27)は、たずねている。




 サキちゃんは息を小さくすいこみ、

「――――――ヒト、 ヒト科の動物、人類が最も追い込まれて、その機能や真価を発揮する、しなければならない状況って、なんだと思う?」と、近づいてくるタカハシにふり向き、まっすぐ見つめて、言う。




「なんだろ、」と、そばで足を止めながら、ガッテンできずに、ちょっとまじめに考えるタカハシ(27)。「死に掛けてる時、とか?腹減ってるときとか?」




「それもあるわ。 けど、ちがう」と、シニカルに、虚無的にサキちゃんが笑う。「正解はね? 霊長類の真価は、種族を問わない闘争、命の競い合いの中で発揮されるのよ。その炎の中でこそ、ヒトは、 人類は、 最も機能的に、合理的に効率的になれるの。 自分の、 自分たちの命を、 つなごうとしてね」




「はぁ、」と。またあいまいにかえす、タカハシ(27)。バキみてえなこと言いやがる、と、内心で、つっこみをいれ、「だから?」と、たずねかえしている。




「彼ら、 スマイオや、それに順ずるものを支持するものの言い分はこうよ?」と、めまぐるしく、視線を、物陰から影へと走らせる、サキちゃん。「来るべき時に備えて、人類は更なる飛躍の時を迎えねばならない。それらは必定である。 その最前線にいるものは、革新的な先駆者として、先駆者らしく、後のヒトビトやヒトの世のために、身命をとして、いしずえとならねばならない、 なればこそ、 人類は、 おぼろげな歴史の砂上に楼閣を築き、多重構造の次なる段階、また別の次元にいたることが出来る。しからば、 そのためには。どんな犠牲もいとわない。たとえソレが、 その犠牲が、 ヒトの形をした命であったとしても、未来を生きる兆のひとを、生かし、繋ぐためならば、苦肉であり、誠に遺憾であるが、やむを得ない。」




「むちゃくちゃだな、」と、苦笑するタカハシ(27)。



「・・・・・・クライシス・へカーテとか、その前のメガディザスターの影響もあると思うけど、」


 と、サキちゃんは、すこし思案して続ける。


「要はね? わたしたち、サイタマの人間、能力者は、このサイタマという箱の中に入れられて、 管理してる仰星の連中に、宇宙そらから、それら大義名分の下に、動くのを観察されつづけてるってこと。むしめがねでずっと見られてるみたいな感じ。


 貴重な実験動物みたいな扱いで、ってこと。だから、普通のヒトみたいに暮らせてるとこもあるけど、 なにか、むこうに思惑とかがあるのかもしれないし、私だってよくわからないけど、


 でも一つだけはっきりしてるのは、  私たちがね? さっきの話で言った、その、 革新的な先駆者に該当してる、ってこと。 ケージに入れられたモルモットみたいなものなの。 わかる?」




「つまり?」と、要領をえない、タカハシ(27)。




「そういった点において、サイタマの人能力者間に、人権は適用されないのよ」


 と、イラだって断言する、サキちゃん。


「サイタマの人間に、厳密な人権なんて無いの。 言っちゃって悪いけど、サイタマの人間なんて人もどきよ。それを糾弾している人たちが壁の外にはいるらしいけれど、結局そういう人たちはいつだって、本当にあんぜんなところで口開いてるだけだし」



 ひでえ言いぐさだな、と、ちょっと笑ってしまいながら、「あぁ、まぁ、」と、なんとなく、午前十時のワイドショーを思い浮かべる、タカハシ(27)。



「例えばね? ランキングなんて、仰星むこうが勝手にきめてるだけで、その最たるものでしかないけれど、そうすると判りやすいから。 やっぱりみんな眼が行っちゃうし、わたしたちだって、のっかっちゃってるところあるけど、 呑み込めない人モドキだっているってこと。」



「だからなんなの?」と、タカハシ(27)もイラだって言う。



「このサイタマで能力者は急に戦わされても文句は言えないようになっちゃってるってこと!もう!」と、八つ当たりめいたちょうしで、サキちゃんは続ける。「世の中の意見が、もう全部そうなの!だからわたしたちは、いつだって、試されているし、見られているの!わかった?!」



「あぁ、」と、タカハシ(27)は、わからないまま相づちをうち、サキちゃんが、住宅街のまん中で、ノリノリでへんなポーズで『ためされているのよ!』と、叫んでいたことを思いだす。「だいたいわかったけど、それで、 ここは、なんなの?野次馬とかどこ行ったの?」



「配慮よ」と、ただよう闘争の気配に、鋭敏えいびんに身構えながら、サキちゃんは言う。「仰星側のね」




「配慮?」と、のんきにタカハシ(27)




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