一話 Bパート・チャプター13/ファックユー・コールセンター
「はぁ?」と、つぶやいて、カードを手に取っている、タカハシ(27)。
ぴーろ、と、画面が謝罪をうつすものから、待ち受けに戻り。
もう一度繰り返しても。
みーーー、 と、吐き出され、定型句をのたまわれるばかりで。
「はぁ?!」と、怒りはじめ、
躍起になってもう一度行うが、
みーーー、 と、吐き出されるだけで。
「いやいやいやいやいや、」と、かすかに笑ってしまいながら、
もう一度、カードを入れ、なんだったら言われる前に指紋認証に中指をスタンバイして、
間も無く。ガタガタ、かすかに筐体が震えて。
画面に、愛らしい見覚えのないデフォルメされた特殊部隊っぽい感じの、SMAIOと目立つ位置に記されたヘルメットをかぶっている、マスコットの顔が映り、
『あなたの操作は、違法です、』と、ATMがほざきはじめる。
絶え間ない音声を耳にしながら、カードが返ってこない事実を、時間をかけて、認識して。
「はあああああ?! ぶっとばすぞ!」と、機械にたいしてキレる、タカハシ(27)。
『あなたの操作は、違法です、』と、繰り返しているATM。
「違法なわけねえだろうが!」と、機械にたいしてさけぶ、タカハシ(27)。「残高見せろよ!」
『あなたの操作は、違法です、』無味乾燥なATM。
「はああ?!」と、マジギレする、タカハシ(27)。
とっさに、視線を走らせ、パネルわきにそなえられた受話器を取り、コールセンター直通の電話をかけながら、まゆを怒らせ、ちらと振り返って外をうかがうと、
おもてでまちぼうけるサキちゃんが、どうしたの?と、顔と仕草でうったえるので、がくがくうなずいて返しながら、アホになったATMを指さして、ジェスチャーでカードが呑まれた、否、盗られたむねを伝えようとして、
「はぁ?」と、サキちゃんはいぶかしんで、うでをくみ、公共の小部屋で、サイレントで口に手をやって前後にゆすり、機械を何度もしめして、あんパンでもわしづかみして食べるような動きで、なかば発狂したような、おこった顔でへんな動きをするタカハシに、
首をかしいで、
その姿を見ながらタカハシ(27)は、あせりといらだちで歯ぎしりしそうになりつつ、まもなく、ご丁寧な声が耳にあてていた受話器よりするので、「あ、すみません、カード、キャッシュカードがこれ、ちょっとなんか、のまれちゃって、出てこないんですけど、」と、伝えると、
『あぁー、』と、声が返り、なにか操作するような音が、受話器の向こうで微かに響き、『失礼ですが、当行の口座をごりようになられた経験は?』
「はぁ?!」と、意味不明さに電話口で激昂するタカハシ(27)。「毎月給料いれてますけど?!」
『はぁ、そうですかぁ?』と、あきらかに不審者に対する声で言うだれかしら。『まいつき、 へんですねぇ?いくつかご質問させていただきたいのですが、かまいませんか?』
税務署の腹立つやつみたいなこと言いやがる、と、タカハシ(27)はいらだち、本人確認に関する事柄をきかれるがままにのべて、調べて貰い、
ほんの少し、間を空けて。
『あー、 あいにくですが、そちらの口座は存在いたしません、』と、宣告され。
「はあああああああああ?!」と、声を大にする。「ねえわけねえだろうが!三百万くらい入ってたんだぞ?!どんだけ貯めたと思ってんだオイお前ごら!」
『失礼ですが、そのー、 なにかの、 お間違いでは?』と、あかるい、ぞんざいな声がかえる。
「ふざけろよおまえ!」と、キレるタカハシ(27)。「どこのコールセンターだおまえ!あ?! おまえコールセンターか!おまえ、」
『申し訳ありませんが、』と話をさえぎって、アレな人用の事務的な諸注意を淡々と一方的に並べる、電話口の相手。
「いやイマそんなこときいてねえから!」と、叫んだものの。
『失礼します、』の一言で、容赦なく電話が切られ。
通話の終了を知らせる音だけが無情に響き、
「うそだろ、」と、こぼして、静かに、受話器を置いて、
まだ、信じられず。
つかのま、手もとの画面を、眺めて、
違法を連呼するATMを、見るともなく、見つめて。
立ちつくすこと、十数秒。
たびたび、マシーンにふりかえりながら、
ぼうぜんと、支店から、外に出る、タカハシ(27)。
「どうしたの?」と、不思議そうなサキちゃんに、出むかえられ。
「かねが、」と、つぶやいて。
そちらの口座は、存在しません、と、伝えられた、事実を思い返して、
全身から力が抜けて。
その場にひざまづき。
「う、」うぐうふうぅぅぅぅぅん!と、号泣しながら胸を抑え、その場でうな垂れる。
そして四つん這いになり、アスファルトを掻き掴もうとしながら、
「か、ね、が! カネがねえだろうがよぉぉぉおおおおおおお!」と、三回戦で負けた甲子園球児のように、泣き叫ぶ。「おれの、カネがよおおおおおおおおおお!」
「え?!なに?!急にどうしたの?!」やっっっすいわるいやつみたいと、サキちゃんは素直に思って、人目もあるため、あわあわ、おろおろしながら、
はっ、として。
「まさか――――――、わたしの?」と、自身の能力に思いいたり。
「ああああああああああ!カネがあああああああああああ!」と、女の子座りに姿勢をかえて天をあおいで絶叫するタカハシ、を、見ながら、
「ついに、 恐れていたことが、」と、つぶやいて、ふっ、ふふっ、と、眼をふせてかすかに肩をふるわせて静かにシニカルに笑い、「とうとう、抑えきれなく、なっちゃったか、」と、たそがれてこぼして、肘を抱き。
ふわりと、髪をゆすって、星のみえない、夜空をみあげて。
「どこまででも、強くなる、 ってこと?」と、運命を受け入れた風情をかもし出して、見えないなにかに、たずねている。
「カネがねえだろうがよおおおおおお!」と、神を前にしてざんげするように、雄たけびを上げるタカハシ(27)。
「いつか、こうなるんじゃないかって思ってた、」と、サキちゃんはタカハシを無視して、自己陶酔する。「コキュートス・ティアーズがわたしの手をは」「カネがあああああああ!ねえだろうがよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」と、さえぎるタカハシ(27)。
「うるっさいな!」と、邪魔されておこるサキちゃん。「なに?!もう!」
「おまえ! うぅぅ! いぐら゛!消゛えだと思ってんだよ゛!」と、身もふたもなく女子高生にあたるタカハシ(27)。
「そんなにおカネ好きなら死ぬまで数えてれば?!」と、若さにまかせて言い返すサキちゃん。
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