一話 Bパート・チャプター12/ファックユー・ATM
「サキ君、頼めるかね?」と、戸口のタカハシを気にとめずモリサキは言い、
「あ、はい」と、振り向いて、サキちゃんが、ぎょうぎよく答えて。
うなずき返したあとで。
「今夜は、 ゆっくり休みなさい。」と、また、タカハシに眼を戻し、
――――――明日また、もういちど、話しの続きをしよう。
と。言い置いて。
「はぁ、」と、タカハシ(27)は曖昧模糊としたまま、相づちをうち。
あわれみと、じあいと、おおげさな同情と、「タカハっし?サキわァ?ビードロ以下デス!ダカーラ?キヲつっけマス!」という諸注意を手土産に、ジムショを、送り出されて、
せんこくの駐車場同様、
ビルの前で棒立ちになったのは、それからさらに、十数分あとのことである。
通りを移ろって雑踏を形成する人々をながめて、立ちつくし。
「行きましょ?タカハシ、」と、となりに立っているサキちゃんにうながされ、
「あ、 あぁ、」と、おうじて、つかつか歩いていく背中を見て、
きわめて反応にぶく、後に続いていく。
見なれない
自身のなかのめまぐるしさに、おぼれそうになりながら、
「なぁ、」と、とりあえず、声をだしてみる。
「なに?」と、ちらと振り返って、サキちゃん。怒っているのかいないのかわからないようすで、すぐさま、また前に眼をもどしてしまう。
「いや、」と、背を見つめて、言葉につまるタカハシ(27)。
目をおよがせて、
通りを行き来したり、たむろする、明るい、
「なにか、しつもんある?」と、サキちゃんが、あるく速さをゆるめて、ちょっと穏やかに、たずねてくる。けれど、隣には並ばず。
少しだけ、先を行きながら、「知ってる事なら、教えてあげてもいいよ?」と、ちらと振り返り、横顔を見せる。
「あぁ、じゃあ、」と、タカハシ(27)は思案し。
さまざまなことがらがアタマの中でまわるが。どれもこれも重要な気がして、なかなか選べず。
なにがなんだか、と、苦笑して。
「ここどこで、俺だれだよ、」と、小さく、こぼしてしまう。
ちらと、サキちゃんはタカハシを振り返って、「ここはサイタマ武蔵野州のサヤマ市の駅周辺で、あなたはタカハシ」と、はっきり告げ、なに言ってんだかこの人、と言いたげなふぜいで、前を向く。「そんなこと、わざわざ知りたかったの?」
「いや、わかってるんだけど、」と、ちからなく、タカハシ(27)は答えて、こまりはてて、笑んで、頭をかく。「わかってんだけど、 なんか、いろいろ自信なくなるわ、」
サキちゃんは歩みを遅くして、静かにとなりへ並び、
「タカハシが、 なんでそんなにふわふわしてんのか、そっちの方がわかんない」
と、ちらちら横目に気にしながら、つぶやく。
「ふわふわってなに」と、笑ってしまうタカハシ(27)。「毛ぇ生えてないよ」
「そんなことじゃないから」と、サキちゃんも笑う。
なにを言うでもなく、ぼんやりと足を進め、途中、街並みの内に『サイタマりそな』のATMを見つけ、
「ごめん、ちょっとカネ下ろすわ」と、タカハシ(27)は断りを入れ、「あ、うん」と、声を背に声を受けながら、どこにでもあるような、支店と呼ぶにはプレハブ然とした、
機械音声の通りいっぺんの小さな『いらっしゃいませ』を聞きながら、
サイフからキャッシュカードを抜いて、いったん。
預貯金額をながめてこころ落ち着かせようと、タッチパネルの内の、残高照会にふれて、画面が切り替わるのを見届けてから、
カードを呑ませて、直後に、
みーーー、 と、吐き出され。
『このカードは、おとりあつかいできません』
と、ごたいそうに、のたまわれ。
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