一話 Bパート・チャプター11/ゲッペルス



「時間は必要だ。」と、モリサキは言い、「実感を持つにせよ、理解をふかめるにせよ、 独りで考える夜、というものは、人にとってかかせない」デスクに、持ったままだったパイプを置き、「私もここも。アーミーズのメンバーも、逃げはしないから、よくよく、今夜だけでもいい、考えてみてくれはしないか?」と、微笑をたたえて、タカハシに横眼をむける。




「なにかっこつけてるんですか?!」と、おこりだしているサキちゃん。「ひもってなに?!」



「サーキ? It will beあしたは晴れるわ? fine」と、肩を抱いて、やさしくなだめるシャル。



「いまそんなの関係ないでしょ?!」と、くってかかり、



「アー?  ジャー、  サっメのハナシスるカ?あ? シャー!」



「しーなーい!もぉ!ちょっ、と―――シャル!」


 などと、




 またワーワーけらけら言いあうのを聞きながら、




「まぁ、たしかに、」と、タカハシ(27)は、答えている。「いろいろ、考えたいって言うか、確認したいことも多いんで、」




「それがいいだろう、」と、モリサキは、結果が知れているので、哀しげに同意をかえし、ソファーに視線を向け。




「ひもってなに?!なんなの?!なんのヒモなの?!」と、あらぶってシャルによわくネコパンチするサキちゃんと、




 言いくるめるのにあきたのか、「Rain,Rain,go,away―――」などと、勝手にリズムをアレンジして子守り歌ふうに口ずさみながら、鮮やかに、ことごとく、じゃれつきをなして、くりかえし、かんぱつ入れず、あごさきへカウンターの寸止めを入れて、




「もお!」と怒られても、



からから笑っているシャルを見て。




「どうだろう?シャル君、」と、口を開く、モリサキ。




「はーい?」と、よそ見でこたえながらも、全て往なしつづけて、シャルが応じる。




 サキちゃんがムキになりはじめ、手の回転があがりはじめるが、笑って。「ナン、デース? カー?」と、声と(ついでにむねを)を揺らして、たずねかえす。




「タカハシ君を、 そうだな、サヤマの駅前まで送ってやってくれないだろうか?」と、じゃれ合いを意にかいさず、モリサキが言う。



「んー、」と、思案気な声を出しながら、左右から来たネコパンチもとい速度の乗った手刀をぱしぱし受け止めて、しかと、宙で固定し、「キョーわ?ムリデース、」と、笑う。「このアート?ヨテーありマース!」




「そうなのか?」と、モリサキ。



 ううぅ!と、サキちゃんが冗談混じりでありつつもくやしそうにうめいている。



「はーい!」と、シャルが顔をむける。「きょーwhat?dadトー?ちーか、くーノッ?てーブル・・の?マワルChinese行く約束してマース!」あははーと、ほがらかに、うれしそうに笑う。「ダカーラ?こんな?タカハーシ?おくれませーン!」




「そうか、」と、笑みをかえすモリサキと、




 こんなって、と、あきれてかすかに苦笑するタカハシと、




 ちょっと元気のなくなる、サキちゃん。手にこめていた力をゆるめ、まもなく、解放されるので、「じゃあ、しょうがないね」と、少々、居ずまいをただして、笑顔をうかべる。




「うん!」と、シャルは力づよくうなずく。「月餅ゲッペルス?見ぃタラー?狩てキマスネ!」と、スカートの上にもどった手を取って、人なつっこい笑みをうかべて、ぶんぶんふる。




「あ、うん、」と、サキちゃんは笑う。「たぶん、 げっぺいかな?」




「そうとも言いマース!」あははと、シャルは笑い、




 サキちゃんもちょっと笑って、男二人も、つられて笑っていると、




 おもむろに手がはなされ。「でもタカハっシ?ドウスルか?」と、周りに眼をむける。





「私が送ってもいいが、」と、モリサキがあごに手をやって口を開き、どうかね?と、たずねる視線を戸口のタカハシに向け、




 じゃあ、とタカハシ(27)が、まなざしをうけて、答えようとして、




「わたし、駅のほう行くから、」と、サキちゃんが口を開き、「わたし、送りますよ?」と、戸口のタカハシと、デスク前のモリサキを交互に見る。




 視線がサキちゃんに集まり。




「いや―――」それは、とタカハシ(27)が口を開こうとして、




「頼めるのかね?」と、モリサキが答えている。



「サキならアンシンデース!」と、シャルが笑って、また肩を抱いて、ぬいぐるみを愛おしむみたいに、ゆすっている。「ダイじょぶカ!」




「うん!」と、まんざらでもない、サキちゃん。




 タカハシ(27)は、口を半開きのまま、様子をうかがい、



「いや、まずいでしょ?」


 と、冷静に笑って、場を代表して答え、水をさしている。




 なにが?と、問いたげな眼が、むけられ。




「いや、だって、」と、大人らの眼を見かえして、サキちゃんを見て。モリサキに眼をもどし、「子どもですよ? まずいでしょ?」と、苦笑する。



 一瞬。


 意味を解するだけの、静止した、空白があり。



 あはは、と銘々めいめいから、笑い声があがる。




「サキ、奈良?ダイジョブデース!」と、シャルが笑んで答える。




「そうだよタカハシ、」と、評価の低さをふふくそうに、タカハシを見ず、サキちゃん。




「タカハシ君、」と、笑いをいさめきらぬうちに、モリサキが言う。「我々が心配しているのは、キミのほうだ」




「はぁ?」と、に落ちず、小首をかしぐタカハシ(27)。



 サキちゃんをちらと見ると、がっつり、にらみかえされる。



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