一話 Bパート・チャプター10/チーママ
笑いの余韻とそのなごりが事務所内に満ちていたが、モリサキはもう、振り返らず気に留めないようにしたらしく、「んん!」と、掠れたのどをならして、
また、デスクの前に立ち。
「以上が・・・・・・、我々―――、 ・・・・・・セブン・ネイション・アーミーズの面々だ」と、
あきらかに
ソファーセットの面々が、戸口のタカハシに、
それぞれのテンションで、目配せを送り、
送られたタカハシ(27)はそれらを受け止め、「あぁ、どうも、」と、なかば強迫的な心もちで、挙動不審に、左右に一度ずつ、あわてて、ちいさくあたまを下げ、
「タカハシ、 タカハシ・おさむです」と、ひとまず、自己紹介している。
誰からともなく、小規模なお誕生日会のような拍手があり、
「おさむちゃーん!」と、案外ノリの良いチカさんが、拍手の合間をぬって、合いの手めいた声をはなってくるので、「ど、どうも、」などと、苦笑で答えていると、
「君をここへ呼んだのは他でもない」と、モリサキが口を開く。
ぱらぱらと拍手が止み、
「ひゅーひゅ
「そう言うな、」と、申し訳なさそうに、モリサキはちらと答え、
タカハシに眼をもどし、「君に、いや、君の力を、我々に貸してもらえないだろうか、タカハシ君、」と、芯の強さを言葉に滲ませて告げる。「我々、セブン・ネイション・アーミーズには、君のような若く新しい、強い血を持った人間が必要だ!」
わずかに
注目をあつめながら、「そう、言われましても、」と、タカハシ(27)は、こまって言う。「もう、なにがなんだか、 家ないし、どうなってんのかわかんなくて。なんかもう、全部。夕方からずっとおかしいんで、どうしていいか、」
「家ならモリサキ、あんた、貸してやれば?」と、チカさんが口を開く。「この辺であまってんの、ないの?どうせもってるでしょ? あんた、」
「まぁ、確かに、」と、モリサキ。数瞬間、思案して、「どうだろう?タカハシ君、このサイタマに住居、住所がない、というなら、私が一部屋、提供してもいい。善は急げだ」
「え?」と、タカハシ(27)。「いや、そりゃ、嬉しいですけど、」と、こちらに注目するいかれたメンバーをながめ見て、「でも急で、ほんと、オレ、 どうしていいか、」口を開きながら、家が無くなっていたのも、もしかしたら、何かの間違いかもしれない、と、考え始めている。その割には。
いっこうに、まとまる気配すら、なかったけれど。
「とりあえず、ありがたいんですけど、」と、タカハシ(27)は、無い知恵をしぼりながら、言葉を選びに選び、「でも、今日の今日なんで、なんか、今日んところは、 ホテルかネカフェで、 仕事も、」こんな状況で、会社はどうなってる?と、いまさら、ようやく、疑念がよぎり、「明日も普通に仕事あるんで、」と、自分で言いながら、
勤め先の工場の外観が、どうなっていたか、
まったく、
記憶になく。
どうしようもなく、白々しくも、うすら寒くなり。
つづきを言いよどんでいると。
「考える時間は、必要か」と、モリサキが、何度かちいさくうなずきながら、
「まぁ、なんにしても、」と、チカさんが口を開き、よっこいしょ、と、付けくわえながら、立ち上がって、「ハナシが進んだら、また連絡ちょうだい?あたし店あけなきゃだから、 女の子に投げて来ちゃってるし、」と、
「はい!」「チカちゃんまたデース!」と、返事をもらって、
満足して笑いながら、移動の片手間にリョウスケのアタマをくしゃくしゃして嫌がられつつ、応接席を離れ、
戸口に棒立ちのタカハシ(27)の正面に立ち、「まぁ変わってるけど、悪い男じゃないから、」と、肩を叩き、「縁があればまたね」と、隣をすりぬけ、
ドアを開け、
外から閉めて、
振りかえらず、こい化粧の残り香をただよわせ、さっていく。
しばし、みなで見送ったあと、
「チカちゃんわぁ?snackしてマース!」と、シャルがあかるく口を開く。「夜イソがしデース!」
「あぁ、ママさんなの?」と答えて振り返りながら、見た目通り?と、内心で言う、タカハシ(27)。
「ノン!チーママデース!」と、陽気にシャルが補足する。
「あぁ、」チーママ、と、繰り返し、どう言ったものか、わからず、シャルから場に眼をもどすと。
「
「今日は?」と、モリサキがたずねる。
「
「リョウちゃんは週四デー?パートしてマース!」と、陽気にシャルが背を見て補足する。
「
つかのま、正面から、視線をかわし、
「あのー、しゃべれなかったり、するんですか?」と、タカハシ(27)は、うかがいがちに、言葉のはしばしに、おもんぱかりをこめ、たずねている。
半瞬間。
ぽかんとされて、
「いや、 普通にしゃべれるよ?」と、リョウスケが眉を動かしながら言い。
「じゃあしゃべれよ!」と、タカハシ(27)は若干いらついて笑ってしまう。
「ふゅー!」と、ふざけて自分の身体を抱いて肩をなでながら口笛を吹く、リョウスケは、タカハシにほがらかに笑い返し、そばをよぎり、扉を開け、「ふぃーふゅ!」と、室内にむけて、あかるく口笛を吹いて、
そのまま。ほがらかな調子で。階段を跳ねて下っていき。
ドアあけっぱなしで、帰っていく。
タカハシ(27)は、たぶん、
アホだな、あいつ、
と、早計しながらも、気を利かせて、扉を閉め。あきれてちいさく、息を吐いている。
「いまリョウくんってなにしてるの?」と、サキちゃんがむじゃきに、シャルにたずねている。
「んー、イーマ、わッ?supermarketノ、品ダーシ? 言っテマしたネ?四時間?cry?」と、微笑をむけて、シャルは答える。
「「 週四で? 」」と、モリサキとタカハシが、
ちらと眼をみあわせ、たがいに、
苦笑してしまう。
「サンのトキもアル、言っテマシタか?」あはは、とシャルが笑う。
「へらすなよ、」と、タカハシ(27)は、つられてかすかに笑って、つっこんでしまっている。
「リョウちゃン?あのheat?キホン、ヒモ?ダカーラ、ダイジョブデース!」と、シャルがなぜかとくいげに、胸をはって言う。「アレわァ?人生ボウにフルのを?見マス!」
「ひも?」と、サキちゃん。「ってなに?」
一瞬の、ちんもくがあり。
「Oh‐、」と、シャルが、視線を泳がせ、首をかすかにかたむけ。
んん!と、モリサキが咳払いを一つして、
「とりあえずだ、 タカハシ君、」と、話しを戻し、
「え? ひもってなに?」と、サキちゃんがすこし、きょろきょろする。
場に、ひじょうに、ぴゅあーな疑問と空気がただよい。
「よければ、一晩。すこし考えてみるといい」と、モリサキは流れたものをすべて無視して口をひらく。
「え?なんで無視するの? なに?! え?!ひもってなに?!」と、少しテンパるサキちゃんを、
シャルがにこやかに、「サーキ? イッツオケー、イッツオケー」と、母親然となだめすかして、イイコイイコしながら、
「ねえなんで教えてくれないの?!ねぇ!」などと、わーわー言うのを相手するのをよそに、
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