一話 Bパート・チャプター8/セブン・ネイション・アーミーズ




「彼を、 まさやの予言にあった運命の子を、 われわれ―――セブン・ネイション・アーミーズに加えたいと思う!」と、老紳士がソファーセットの銘々めいめいに宣言する。




 おー、 フュー! と、一同は揃ってこえをあげ、約一名はテンション高めに口笛を吹き、まばらな拍手で応じる。




「でも、 いいんですか?」と、雑にぺたぱた拍手をしながら、サキちゃんが口を開く。




「アナザーの出身者は、このサイタマ・ゲットーでは絶大な力を往々にして発揮する」と、老紳士が自信をにじませ、つづける。「彼の力が、 まだ眠っているかもしれない彼自身が、いずれ我々―――、いや、このサイタマにとって、必要になるはずだ!」




「キボデかいデース、」と、のんきにシャルがサキちゃんにすがった形のまま、相づちをうつ。




「アシは、 つかないのかい?」と、おばさんが話しをつぐ。




「すでに、スマイオには知れ渡っているはずだ。 管理者れんちゅうはダテではない」と、手のパイプをさすりながら、老紳士。「こうして奴らを出しぬいて先手を打てたのは、ただの幸運だったと言えるだろう」




「ふゅー、《じゃあ、》ふゅふゅふゅふゅーんふゅ?《ここにくるんじゃ?》ふゅふゅふゅひ?やばくない?」と、細身の男がすこし心配そうな表情で、だらしないまま口笛を吹く。




「考えられるが、」と、通じている、老紳士。あごに手をやり、「この会話ですら筒抜けだと考えて、そのうえ彼がまだ無事であることを考慮すると、 その線は薄いのだろう、 なにか、余人の計り知れぬ部分もある、 このタカハシ君に関しては、 だが」と、ちらと当人をみやり、思案を巡らせる。「集会も結社も自由だとはいえ、 コミュニティの根幹をおびやかすような真の異分子は、決して放置されない。 おそらく。なんらかの意図があって泳がされているはずだ」




「あたしゃあ、どっちでもかまわないよ?」と、おばさんが、ソファーの背もたれに身をしずめ、口を開く。「誰の手のひらの上だろうが、踊るのはかわりゃしないわ」




ふゅふゅふゅー?!まじでー?!」と、細身の男が口笛を吹く。




「気にしてても始まらないデース」ネ?と、サキちゃんに同意を求めるシャル。




「そう言われても、」と、乗り気でないサキちゃん。少し、唇をとがらせて、「泣かされたし、知らないヒトだし、顔カメレオンだし、」




「サキちゃぁん?だいじょぶよー?」と、猫なで声であまやかすおばさん。「へたなことしたらちゃーんとあたしが溶かすんだからだいじょぶよー?ねー?」




 とかすってなんだよ、と、放置で棒立ちのタカハシ(27)は苦笑する。つーかあいつどさくさでカメレオン言いやがったか?




「とろけるタカハシデース!」と、シャルが言い、けらけら笑いはじめ、



 つられて細身の男が口笛を吹きそこねながら、ふひゅふひゅ笑うので、




「あのおー!」と、声をはって、場をせいして一同をながめまわす、タカハシ(27)。



 なにげない注目を一身に浴び、しょうしょう、ちゅうちょするが、


 意を決して、



「さっきっから、ここで聴いてて、 話しが見えないんすわ、ゼンゼン!」と、ほのかにおこって言いはなつ。「いや、のんきについて来て、つっ立ってるオレも、なんだけど、」




「ふゅー!ふゅふゅふゅふゅーん!」と、ひやかしなのか口笛を吹く、細身の男。




「リョウちゃんナンセンスデース!」と、シャルが笑い、




「すまない、タカハシ君、」と、老紳士がそれらをむしして申しわけなさそうに笑う。「さぞ動顛どうてんさせてしまったことだろう、」




「あぁ、いや、」と、首をふり、「とりあえず、なんかもう、わかんないことだらけで、 家なくなってるし、 こんなんだし、」言いながら、スマホの存在をおもいだして指先がざわつくが、人前なので、取りだすのもはばかられ、「あのー、」




「Oh-、タカハシわぁ、家なき子デース・・・・・・」と、シャルが良かれと思ったのか補足する。



「あらぁー、」と、ジャガー柄のおばさんが痛ましげに共感し、


「ふゅふゅふゅ、」と、細身の男が口笛で笑う。




「説明してもらっても、これ、いいっすかね?いろいろ、 なんなんですか?」と、訊ねる、パンク寸前のタカハシ(27)。




 息をのむ間があり。




「我々のいるこのサイタマは、スマイオによって管理されている、とは、夕方つたえたね?」と、老紳士が口を開く。




「はぁ、」と、タカハシ(27)。




 みなの視線が発言者のあいだを行き来する。




「その管理の外側を行こうとする――――――、いいや、外側へと、 いざ! この地に生きしモノの尊厳を取り戻し壁の向こう側へと! 今! ゆかんとしているものが、この場にいる我々、




   セブン・ネイション・アーミーズだ! 」




 と、老紳士は言い放ち、パイプを持った手をふる。





「はぁ、」と、タカハシ(27)は、お座なりに相づちをうち、



 ソファーセットの面々と、


 正面でポーズ固定の不敵な老紳士を、



 戸口よりながめ見て。



「よくわかんないっすけど、」と、とりあえず口に出し。





 ――――――五人しか、いないじゃないですか。と、むねのなかで、つけくわえ。





 いかんともしがたい事実にぶちあたるが、口にだすと話がこじれるので、眉をよせて目をつぶって蛍光灯をあおぐことで、どうにか、のみこんで。ふかく息を吸い、



「それで?」と、どうにかたずねかえす。




「イカれたメンバーを紹介しよう!」と、ドヤ顔をいじしたまま老紳士が言う。




 いきおいにのまれながらも、あ、バンド制なのかな、と、タカハシ(27)は、受けた言葉からそくざに気づくが、話しのコシを自分から折りたくなく、大人なので、声にしない。




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