一話 Bパート・チャプター7/転入生
近くの駐車場に車が停められ、「じゃ?行きまーす?」と、うながすシャルに先導され、車を降りて、タカハシ(27)は、
一角にある、こぢんまりとした、雑居ビルの前に案内され。
上へとつづく階段のまえに、そろって並んでたたずみ。
「ここデース! 覚悟いいカ? あ?」と、隣でシャルがいたずらっぽく笑い。
「あ?って、」と、苦笑して、
どうみてもせまっくるしい上にうすぐらい階段を、見あげて、
「ここあがんの?」と、たずねると、
「ハーイ!」と、陽気な、イクラちゃんボイスの返事があり、「ゴーデス!タカハっシ?
「あ、お、ちょっ!」などと、苦笑して意味不明なこえを出しながら、
そのまま先に立って進んで、おまけに、「へいヘイへーい!」と、尻を押されたり叩かれたりするので、「おまえソレはやめろよマジで!」と、笑って苦情を言い、
まもなく、不動産会社のものらしい、すりガラスのはまった、安いアルミで縁取られたドアが蛍光灯の光を放って眼の前に現れる。見ればさらに上階へ続く階段は封鎖されており、くらいせまいおどりばで、なかばみっちゃくしながら、
「ここ?」と、首をよじってたずねると、
シャルは何も言わず、「ふふん!」と、甘い香りをさせながら顔をよせてきて笑うのみで。
いよいよ、
逃げたいしょうどうにかられて、手ゆびをそわそわさせていると、
ぶえんりょに手の甲を持たれてノブをにぎらされるので、うわー、と、内心、ひき気味に、嫌気を覚えながら、扉を、おそるおそる、あけきり、
不意に背中を押されるのでへんな声をだしながら中に入ると、
「オォ! 来たかね!」と、
ゆうがたに見た老紳士が、正面奥のおおぎょうなデスクのまえに、火の消えた
その背後、閉め切られたブラインドのめだつ窓々の上に、横にながい額に入った書が、しかと、かかげられており。
『れいせいとじょうねつの、
でかでか、達筆でしるされている。
室内の中央にもうけられている応接用らしいソファーセットの左側には、
サキちゃんが肘を抱いて足を組んで、深く腰かけており、ガラステーブルにつめたい眼をおとしたまま、ちらとも出入り口には視線をむけず、
その向かいには、見知らぬ、老若をとわない男女が、二名、それぞれ、
細身の男はラフで地味で、ホスト然と前髪を横にながして片目をかくし、ソファーの背もたれに腕を這わせてくつろぎ、組んだ足の先で履きふるしたクロックスをぶらぶらさせ、
女、もとい、ろうばに近いおばさんは、派手な身なりで、ジャガー柄の服に身を包んでおり、この六月にフェイク・ファーを首に巻き、重いソバージュで横顔をかくして、静かに手を組んで、目をふせていて、
好き勝手に腰かけており、
「あ、いや、え?」と、タカハシ(27)はテンパってこぼし、
「連レテぇ? キマしター!」ヘイヘーイ!と、シャルがおくれて、元気に中へと入って、タカハシの背を少し押して室内へすすめたあと、ふひつようにつよく、ソバットなみのいきおいのある後ろ足で、
ばごしゃーんと扉をしめ、
屋外のけん騒がしみわたってくる、しんと静まり返ったなかで、
「無事だったようだな!タカハシ君!」と、老紳士が代表して口を開く。
「おそい」と、サキちゃんがため息混じりに言う。
「この子が、あれかい?オルタナ・サイタマの?」と、サキちゃんの向かいのおばさんが口を開く。
「そうよ」と、サキちゃんは言い、ちらと、戸口でマヌケな顔をぶらさげているタカハシをちらと眼で示す。
「ふゅー!」と、細身の男が口笛を吹いて、タカハシへ顔を向ける。
「ジュウタイ?ばっかィりわぁ?どうもナイ!」と、シャルが笑って、タカハシの傍をすりぬけて、サキちゃんのとなりへ行って腰かけ、むだにぐいぐい身体をよせて、「あ!もお!ちょっとぉ!」と、照れられ困られるのをよそに、へらへらして、もたれかかって落ちつきが良くなると、「ソレでー?」と、気にせず老紳士に口をひらく。
数拍、間をおいて。
「今日あつまってもらったのは、他でもない。」と、声に緊張を伴わせて注目を集め、みなを見まわしながら、老紳士が口火を切る。
するどく、戸口でぼーっとするタカハシに視線を向けて、
唇をむすんで、だまり、
みなが、おもむろにならって、そちらに顔をむけ、
注目のまと、タカハシ(27)は見られる不安から、内気な転校生のように、ちょっとモジモジし、
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