一話 Bパート・チャプター6/ミスター・チルドレン




「ごめん、ちょっと話し変わるんだけどさぁ、いい?タカハシ、」と、流暢りゅうちょうな日本語でシャルが言う。




「えぇ?あぁ、まぁ、」しゃべれんじゃねえかよ、と、内心でつっこんで、目をふせ。対応に困って、ふざけた半笑いを浮かべ、のどの奥で笑っていると。




「多分、このあと、  きっと今日中には、なんか、かなりマズイことになると思うんだけど、」と、シャルが静かに続ける。




 ちらと見やると、




 きわめて理知的な、さえたまなざしが向けられており、



 視線がこうさくして。


「火にだけは、気を付けてね?」と、おごそかにさとされる。




「はぁ、」と、あいまいにこたえる、タカハシ(27)。「また、なんで?急に、」




「いま、」と、シャルは前方に眼を戻しながら言う。「タカハシが『こんなもん火事で済むかよ』って、叫んでるのが見えて、聴こえたから。 そう、知れた・・・から。」




「はい?」と、首をかしぐ。




「私の能力――――――、トゥモロォウ・ネバ・ノウズが、そうささやくのよ。いつだって、未来を。 眼の裏がわでね」




 シャルは言って、また動き出した列にならって、車を発進させる。







 声と意味が空間にしんとうする、



 考えるに足る、間をおいて。







「ミスチルじゃねえか、」と、しんみょうにつぶやいている、タカハシ(27)。「おまえ、だめだろ、それ、」知らぬまに、肩がゆれてしまう。「だめだろ、」






「なんにしても、『火』には、じゅうぶん気を付けて?」と、シャルは、ちらと、優雅な一瞥いちべつを、タカハシに送り。



 ちゃんと、まえにむきなおって、目をつぶり。


 小さく息を吐いて。



「家事トォ? 献花ワァ?江戸のハーナデース!」と、またもとどおりになり。



 明るく陽気に、あははーと笑う。





 わっかんねえなぁもう、と、タカハシ(27)は苦笑して、頭をかいて悩むが、断片的な情報がずがいのなかで錯綜さくそうするばかりで。あんのじょう、解はえられない。「江戸じゃなくて、さいたまだけどね、ここ。 とりあえず、 まあ聞いとくけど。なにあるか、わかんねーし、もう」





「うん!その方がいいデース!」と、華やかに笑うシャル。「ヒトのー?話しィWhat?キクにCostcoこすとことありませーン!」




「はいはい、」と、くだけて笑って応じている。





 どうでもいい雑談をかわしながら、車は移動していく。



 途中、何度か急な右左折を繰り返し、けっきょくまた、外環下に戻って、住宅地を狭山方面へと戻り始めるので、挙動の不審さにタカハシ(27)は、いいかげん、半信半疑をとおりこして、不思議ささえおぼえるので、




「ホントに、これ、どこ行こうとしてんの?」と、たずねると、




「オタのシミわー?見てのオタのシミでーす!」と、笑われるばかりで、話しにならず、


 なんだったら、


「そうイエーバッ?タカハーしわっ?カラアゲ好きデーす?」などと、運転のかたてまに、きわめてどうでもいい方向に会話をそらされたりするので、早々にあきらめ、



「まぁ嫌いじゃないけど、 いま、いる?その話し、」などと笑って、ときおり発揮される危険な運転にキモを冷やしながら、数十分、あきらめきって、シートに身をゆだね。



 大回りに大回りを重ねて。たどり着いたのは、罪とお茶の香り漂う街、シン・サヤマの隣にある、

見違えるほど、否、事実、どこかわからぬほど発展しきった、




 サヤマ市の、駅、周辺である。




 一帯に、いかがわしさに満ちた繁華街が広がっており、通りには雑居ビルが立ち並んでいる。タカハシ(27)の記憶に一つもないほどすべて様変わりしており、



 ――――――その発展ぶり、



 筆舌につくしがたい近未来感たるや、



 ここ最近できたばかりの複合商業施設・コクーンシティに人を取られがちな大宮駅近えきちか匹敵ひってきするほどであり、車窓から見る店舗の充実ぶり、密集のぐあいなどは、越谷こしがやの大迷宮、イオン・ザ・レイクタウンに勝るとも劣らず、それはあたかも、



 あたかも、 



 所沢駅の西口と本川越駅の東口を足して二で割らずに、乗算して、あちこちへと、ばらまいてへばりつけたようなありさまである。



 本来ならばありえないはずの、雑然とした、ウルトラ・スーパー・アジアン・ジャパニーズ・サイバー・エキゾチック・マーケット・ビッグ・ワンダー・グレート・ボリューミー・ブレード・ランナー・シン・シティ感に、タカハシ(27)は、とまどい、あ然とし。



 行き交う人々を、走る車から眺めては、しゅういの環境のへんかにたえられず、頬をひきつらせ、目をうたがいつづけている。



 キャデラックが、



『 サヤマ Its / veraciousu / Sayama 』と、でかでかしるされた、



 浦和にある県庁舎を想起させるほど、否、それ以上に、縦にも横にも巨大な駅舎のそばを通りぬけ。



 けっきょく、



 小一時間半以上かけて、渋滞にはまりながら、一駅しか移動していない事実に気づいて、タカハシ(27)はさすがに、うなだれて笑ってしまうが、



「ヤハリぃ?ドライブはいいデース!」と、隣で笑っているシャルのあまりにたのしそうな姿を見ていると、許容するのもやぶさかでなく。




 釣られて、なかばしょうがなく笑って、車内に目をおよがせている。




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