一話 Bパート・チャプター5/男は稚内
「サキの目が腫レテましたガー?あれワァー?泣カないとなりませン、」運転に集中しながら、シャルは言う。「ソレmoー?オオナっキ?しないとなりまセーン、」うんうん、自分でうなずいて、「アナタが、タブーん?泣かしましたネ?」
「いや、べつに、」と、タカハシ(27)は、こぼして、いろいろ思い返すが、「なんか、こっちからしたとか、そういう訳じゃなくて。 びっくりして質問してたら、なんか、 急に泣きだしちゃって、 別にこっちが殴ったとかそういう訳でもなくてさ、なりゆきで、なんか、そんな感じになっちゃってて、」と、しどろもどろにあやふやに、弁明していると。
「・・・・・・イイですカー?タカハっし、」と、さとすような声で、前を見たままシャルが言う。コンソールを操作して、カーオーディオを止めるので。
「はい、」と、静かに応じるタカハシ(27)。
「オナノ子は?とても千才デス!」と、少しばかり、怒って言う。
「あぁ、まぁ、」と、叱られて相づちをうつ、タカハシ(27)。「そうかもね」
「オトコわぁ?ソノヘン
「お、おう、」稚内、と、胸のなかで繰り返し。
日本最北端の地に思いを馳せ。
必死に、わいた笑いをかみ殺すタカハシ(27)。「わかんない、 ね、うん。 わかんない」
「特ニ!特にー!デスッ!タカハっシ?いいですか?!」と、シャルはとどまることをしらない。
「はい、」と、タカハシ(27)は、つとめて静かにおうじて、シャルの横顔に眼をむける。
「サキのぉー?コっコろわぁ?ビードロ
「あぁ、はぁ、」ビードロ以下、ビードロ以下、と、繰り返して、
意味をくもうと努力しておそらく――――――、
彼女の心はガラス細工のようだ、とでも、いうつもりだったのかな、と、理解した直後に――――――、
つーか、こいつ日本語しゃべれんだろ?ビードロってなんだよ、と、
つっこみがアタマに湧いてしまい。
「あのー、まぁ、」と、笑いをこらえて、鼻をなんどかすする。「はい、そうかも」と、目をそらし、うなずいて見せる。
「わーカッタらァ?ヤサシヤサシデース?」と、シャルは子供にものを教えるように言う。「ワカるか? あ?」
「あぁ、 お、 うん、」と、タカハシ(27)は、笑ってうなずいて見せる。「すみません、でした、 以後きをつけます、」と、こたえているものの、
渋滞の列がわずかにすすみ、キャデラックも後をおい。
「わぁカ、レー、ヴぁ?イイデース!」と、シャルは明るくほがらかに言い、まんぞくしてうんうんうなずいて、足もとで半クラとブレーキを駆使しつつ、がごがごシフトを変え、ついでに、器用にインパネに手を伸ばし、オーディオを操作して、ふたたび、性懲りもなくTake On Meのイントロのパーカッションを再生し、「またこれ?」と、タカハシが苦笑して、
「ハーイ!キョぉーワァ?この気分デース!」と、イクラちゃんのように答えて、少し走って進んだ、あたりで。
「a、」と、声を出し、
がっくん、と、
運よくまた赤信号で、エンスト寸前のちょうしで車をとめ、身体を起こして、シートに身をしずめ。
つかのま。じっと。始まったイントロに耳を傾けながら、思案げに、信号の灯火でほのかにあかくなったフロントガラスを見詰め。
「なっ、どしたの?」と、あせって声をかける、タカハシ(27)。
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