一話 Bパート・チャプター2/合意の上




「タカハーシ?つれてこい、サキと代表に頼まれてマース!」と、いたずらっぽく、彼女は言う。




「はぁ?」と、タカハシ(27)は雑におうじて、



 数十分前の二人を思いだし、



「あんた、あの人らの知り合い?!」と、たずねている。




「そうデース!連れ去られルまえにィ?つれてこい言わレテマース!」と、朗らかに女は笑う。「だからタカハッし?はぁりあッぷ!こんなとこいてもラチあかないデース!」




「いやまあそうだけど、」と、タカハシ(27)は、ぼやいて、もう一度、周囲をながめまわすと、人々の視線が、だれの目にもあきらかな敵がい心にみちており――――――おもにこのドイヒーな騒音が原因であったとおもわれるが――――――空気が、判然と、剣呑けんのんであることにきづく。




「ラチあかないドコロォか?拉致らちられマース!」と、女は言って、けらけら笑う。




「笑えねえわ!」と、タカハシ(27)は突っ込みかえし、そわそわと、



 まわりと、



 キャデラックと、

 


 女と、 



 自宅のあったはずの駐車場とを、いく度か、見くらべて、



 つい先ほど。





『スマイオに言う前に、』と、




 似て非なる知らない長谷川さんが言っていた事を思いだし、




 拉致られマース!と、ほざいた女の言葉をかみしめて、



 まわりの人たちからそそがれる、異質なまなざしを受け止めて、




 ちくしょう!と、胸の内でなげき、なにがどうなっているのか、こんらんしながらも、




「のりゃいいのか?!これ!」と、さけんでいる。




「SAWデース!」と、女がさけびかえす。「サイしょっカらぁ?ワタシそういってマース!」と、笑みをたやさない。「ワタシたッちわぁ?アナタおタスけまーす!いいようにシマース! 信じルものだッケ!スクいマース! よー?」




 うさんくせええええ、と、タカハシ(27)は心のそこからおもうが、現状、背に腹はかえられぬため、やむをえず、しかたなく、どうしようもなく、はっきりいって、



 これといった、あてもないため、



 はがみして、意を決し、車の鼻先を通って助手席につかつかとまわり、ドアを開け、中にすべりこむように乗り、



 ドアを閉め。



「これでいいのか!」と、ほえている。




「イエース!」と、女はとてもうれしそうに言い、「じゃあとっとと生きマース!」と、アクセルをべた踏みし、徐行の標識を完全に無視して、タイヤを微かに空転させ、ドップラー効果でTake On Meの何度目かのサビをゆがませながら、キャデラックを発進させる。





 走り出した車内のオールド感や、ずいしょにみられるラグジュアリーさに、タカハシ(27)は、きわめて落ち着きなく、きょろきょろして、革ばりのシートに居ずまいを正している。屋外で、フェイドアウトして消える後奏を耳にして、リピートになっているのか、ふたたび、また頭のパーカッションから流れ出したTake On Meにへきえきしつつ、



 非難がましく、ヒステリックに、となりに眼をむけると、



 向こうも丁度、こちらを見たところで、下がったサングラスの向こうの瞳と、眼が合い。


 イントロのシンセサイザーの鳴りだしと、



 ドラマティックにトレンディーに、ユニゾンするので、


 苦笑してしまい、



「なにこれ?!」と、声を荒げてたずねている。




「a-haノTake On Meデース!」と、すずの転がる声で、女が言い、前を向いた拍子に、ポニテールが微かに揺れる。「コノ、クルマにワァ?マンソンとこれとTLCしかハイってナイデース!」あははー、と、たのしそうに笑われる。




「いや!そういうこときいてんじゃなくて!」と、半笑いで訂正する、タカハシ(27)。一瞬、ちゅうちょしたあと、「あんた誰だよ!」と、声をはってたずねてみる。




「ワターシッ?」と女は、前と、こちらを、繰り返し、こうごに見て、前へ向き直り、「ワタっシわぁ?ゴトー・Charleneシャーリーンデース!今日ワァ?オイソガシイなか?カワGucciから来まシタ!」と、ほがらかに自己紹介する。「みなカラは?シャル呼ばれてマース!」あはは、と、また笑う。


「そちは?名前タカハっしでーす?」




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