一話 Aパート・チャプター2/圧力
「いや、ウソとか言われてもちょっとわかんないんだけど、」
「レベル本川越?!そんな、上位ナンバーが、なんで?! サヤマなんかに!大宮川口所沢にいるならまだしも、なんで?!」
「ごめん、ぜんぜんわかんないわ」と、タカハシ(27)は笑っている。
「これが、 そう。そっか。 いわゆる ジャイアントキリング、 ってやつね、 はいはいはい、」と、彼女――――――サキちゃんはヒトの話しを聴かず、勝手に納得してシニカルに笑って呟いて。「いいわ!」と、吠える。
「いやだから、見えない、話しが、さっきっから、ぜんっぜん、」と、タカハシ(27)は笑って、近づこうとして、
「すでに勝負は始まっているのよ!タカハシ!」と、サキちゃんはワイヤーで釣られでもしたように、六メートルくらい後ろに跳んで、パン屋『三日月』の前に着地する。
タカハシ(27)は呆然として、目を丸くして、
「うそ」と、チューハイの缶を取り落とし、呟いている。
「我が能力――――――、絶対らくりゅ、落涙空間・コキュートス・ティアーズの前にひれ伏せ!」と、サキちゃんは立ち上がりつつ若干噛みながら叫び、「そして喰らえ!」と、構えて。
「おまえ!どことなくカメレオンに似てるな!」と、
軽やかに左腕を振り、揃えた足先をクロスさせ、ポーズキメキメで罵倒してくる。
なにも起こらない、間を置いて。
「急だな!」と、タカハシ(27)は半笑いでつっこんでいる。
「な!ばかな!」とサキちゃんが身構えて叫ぶ。
「え?つーか、 なに? 絶対、 なんだっけ?」と、笑ってしまいながら、タカハシは少し近づく。
「ぜ、あの、絶対、落涙空間、」と、しおらしくなって、胸元に手をやり、眼を泳がせるサキちゃん。
「ぜったい?なに?」と、タカハシは歩み寄りながら訊ねる。
「ら、らくるい、」と、サキちゃん。
「らくるい?空間?」と、タカハシ(27)は底意地悪く続けて。「なに?つーかめっちゃ飛んでたよな!いま!やばいっしょ?!なんで?」
「こ、こきゅ、」と、詰まるサキちゃん、
「こきゅ?なに?」と、タカハシ(27)。
「こきゅーとす、」消え入りそうな声で目を伏せ言うので、
「おりんぱす?」と、訊き返した拍子に、
ぐううぅぅぅぅぅ!と、サキちゃんが号泣しながら胸を抑え、その場に蹲る。
そして四つん這いになり、アスファルトを掻き掴もうとしながら、
「なんがいも゛ぎがないでよぉぉぉおおおおおおお!」と、
三回戦で負けた甲子園球児のように、泣き叫ぶ。
呆気に取られて見ていると、
『タカハシウィン、タカハシウィン』と、不意に、ポケットから機械音声がする。
持っているスマホを取り出してみれば、知らない通知が届いており、
画面上部に、
『サイタマ能力者開発協会 一分前
タカハシ(27) ウィン 』
と、表示されている。
スワイプすると声が消え。
なんだこれ?と、笑って、新手のウイルスか?と、システムを疑って、新着の通知を見やり、変なサイトとか見てると個人情報が抜かれてどうのこうのって、ネットでニュースになってたし、それか?そういうアレの感じのヤツか?コレ、と、あたりをつけていると、
「ア゛あ゛あああああああああああはぁあああああああ!」と、
サキちゃんの大泣きが間奏を終えて二番のソロパートに伸びやかに突入しだしたので、
あまりの泣きっぷりに申し訳なくなり、さっさとスマホをポケットに突っこんで、
「ごーめん!」と、ざつに謝りながら、近づいて、微妙にえづきながらしゃくりあげている小脇を抱えて、なるべくゆっくり、立たせてあげ、「ごめん、なんか、あのー、ほんと、よく知らなくて、オレ、」と、とりあえず、あたふた謝罪している。
「な゛んがいも、ひっぐ、きくがらぁ!」と、泣きながら満身創痍で、めもとをごしごししながら、鼻を啜って、サキちゃん。「なんか、いも゛、タが、ハシ、が、きく、が、らぁ!」
「ごめんごめん」と、とりあえずタカハシ(27)は、また謝って、背を叩いてあやしながら、「本当にごめん」と、顔を覗き込んで、 うむんぐふぅ!と、 唇をわなわなさせてくっしゃくしゃになっているサキちゃんの、容赦のない限界を超えた泣き顔の若干のブスさに引き気味になりつつ、人目が無い事を確認して、落ち着かせようと考え、
駅前の方へと、歩きだし、近くの線路を渡って、居酒屋の前を通るその道中、ぶり返したサキちゃんがまた大泣きし始め、いい加減困惑し、交番に預けてバックレようかとも思うが、ソレもはばかられ、どうにかたどり着くと、
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