第16話 追放
パット村長に暇乞いを告げると、息子のレックスで出てきた。
「パパ。このままコイツらを行かせていいのかい? 極刑にしたらいいじゃん」
「そうだなぁ」
村長が悩んでいるところに、立派な詰襟の制服をまとった一人の男が現れた。中央政府の高官だった。
「立ち入ったことをお聞き致しますが、村長、この子たちはどんな悪いことをされたのですかな?」
「倉庫から牡蠣を三個、盗んだんですよ」
レックスが吐き捨てるように答えた。
「ふうむ…」男は腕を組んだ。「なるほど。しかし、牡蠣三個と命二つじゃ、釣り合うまい」
地位の高い男なのだろう。レックスは押し黙った。
「レックスよ。オマエが棒打ちにしたいのなら、それでよしとしよう」
「助かったなあ」
「あの男の人がいなかったら、極刑だったかもしれないよ」
「命拾いした」
「ところで、村を追い出されちゃったよ。わたしたち、どこへ行けばいいんだろう…」
「そのことなら、オレに考えがある。アムゼン村へ行こう。あそこならライナ村と同じようにおもに林業や畜産で生計を立てている」
「そうなんだ」
「最初からこっちを選べばよかったんだ。すまねぇ、フリーダ」
「いいよ、そんなの。わたしのせいで、オルヴィスが村を追放されたんだから、わたしに謝ることなんてひとつもない」
それより、とフリーダはオルヴィスの痛ましい姿を見た。
「包帯でぐるぐる巻きだね。まるで病人みたい」
「病人というより、怪我人だな」
棒打ちを食らった傷はまだ当分癒えそうもないが、追い出されたので、このままアムゼン村を目指すしかない。そこで受け入れてくれるかどうかはわからないが、林業ならオルヴィスの得意とするところだった。
ライナ村から来た道とは別の出入り口から街道へ出た。ボロボロの体で歩いていると、馬に乗った一団とすれ違った。警備団ではない。夜盗の集団だった。
二人は轢かれないように傍に避けた。
オルヴィスには、先頭を駆ける男の顔に見覚えがあった。
「…あの村、終わりだな」
「なんであの人たち、村を襲うんだろう」
「つまはじきモンだからだろう。多くは卑賤民や戦災孤児だっていうぜ」
「…卑賤民」
「なんだ? 同情してんのか?」
「そういうわけじゃないけど…複雑だね」
「同情ならいらんぞ。アイツら、村を襲って物を盗むだけじゃなくて、人も連れ去って、外国に売り飛ばしたり、見境なく人を殺したり、女に乱暴したりするからな」
「じゃあ、村の人たちに教えてあげなきゃ」
「その必要はない。夜盗相手に武士でもねぇ俺たちじゃどうすることもできねーし、もうあの村とは無関係だ。正直、追い出された後でよかったよ」
「でも、教えてあげないと。殺されちゃうよ」
フリーダはきびすを返した。
「よせ。アイツらは馬に乗ってるんだぞ。ムリだ」
二人で呆然と突っ立っているうちに、ムスティリ村の方から火の手が上がった。
「行く」フリーダが走りそぶりをした。
「待て。オレたちが行ってもムダだ。なにができる?」
オルヴィスはフリーダの手をつかんだ。
「まだ息のある人がいるかもしれない」
彼女は本気だった。オルヴィスの手を振り払って駆け出した。
「クソッタレめッ、このお人好しがッ、バカ野郎」
「どっちが?」
リーダが振り返ったときには、オルヴィスも駆けていた。
彼女としては、自分と運命を共にすることになったオルヴィスの方がよっぽどお人好しだと思っていた。ただの単細胞、考えなし、イノシシ野郎とも言える。
オルヴィスも仕方なくフリーダについて行くことにした。警備団が討伐に来るまでに、多少はできることがあるかもしれない、という甘い見通しで。
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