第14話 嫌がらせ
翌日はまた別の仕事に回された。
オルヴィスは、漁に出るため舟に乗った。さほど波風もなかったが、舟に乗るのは初めての経験だった。
それほど揺れていないのだが、初心者にはきつかった。海に下ろしていた網を引き上げる作業の途中で、吐き気に襲われた。我慢できず舟の上で吐いた。
「オマエ! ガキッ! 舟の上で吐いてんじゃねぇよ! 吐くなら、海には吐きやがれってんだ!」
親方の怒声を浴びた。言われた通りに、舟の縁をつかんで、吐いた。朝はほとんど何も食べていないのに近いので、吐き出されるものは胃液だけだった。
オルヴィスが船酔いに苦しんでいるあいだに、漁は終わっていた。
一人の男が、勝ち誇ったようにオルヴィスを見下している。
「卑賎民だから、もっとしゃにむになって働くかと思えば、ゲロ吐くだけか。使えねぇ賎民はいらねー。じゃあな。ゲロゲロバー」
オルヴィスを蹴飛ばした。その勢いで彼は海に落ちる。舟の上では、ゲラゲラ笑い声を上がった。
「こんなところで死んでたまるか…」
怒りをにじませながら泳ぎ、根性で、岸までたどり着いた。
フリーダは、村の女たちとともに、牡蠣の採集のため浜にいた。養殖をしているようだ。
持ち場は、ワンダに指定された。岩と岩のあいだを見たことのないゲジゲジやゴキブリによく似た昆虫がうようよ動き回っていた。聞いてみると、フナムシという虫らしい。生き物が好きなフリーダは、フナムシを捕まえて、あちこち観察をしていると、女たちに不気味がられた。
フリーダは、ヘラを手にして海に足を踏み入れた。
「ツッ!」
足を引っ込め、すぐに陸へ戻った。
きのう、鎌で引っかけた傷が塩水に染みた。
それでも、これは仕事だと言い聞かせて、ふたたび海に戻った。根性で痛みに耐えた。潜って岩に張り付いた牡蠣を探すものの、なかなか見つからなかった。
息継ぎのため海面に戻り、また潜りを繰り返しているうちに、傷口の痛みに耐えられなくなり、フリーダは一つも収穫がないまま陸に戻った。
自分と同じ年頃の少女が大量の牡蠣の入った網袋を従えながら、一人やってきた。
「アンタ、卑賎民なんだって?」
「そうです」
「なんだって、アンタ、手ぶらなの? 一つも取れなかったの?」
「はい。牡蠣はいませんでした」
「ウソつけッ! ここら辺には、養殖した牡蠣がいっぱいいるはずだよ! もう一回ちゃんと潜って確かめな!」
フリーダは海へ突き飛ばされた。
ふたたび痛みをこらえて潜水したものの、やはり一個も見当たらなかった。海面に顔を出したときには少女はすでにおらず、陽もまもなく水平線へ沈む頃だった。別の少女がやってきた。
「ねえ、新入り。アンタ、こんな時間まで潜ってたの?」
「すみません。一つも採れませんでした」
「っていうか、バカだねぇ。ここはこの前潜ってあらかた収穫した場所だから、いるわけないんだよ」
「そうなんですか」
「最初に持ち場教えてもらわなかったの?」
「いえ…教えてもらったんですけど…」
フリーダは口ごもった。ワンダさんに教えてもらった持ち場だったが、ひょっとして彼女は勘違いしていたのだろう。
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