第13話 仕事

 フリーダは鎌を手にしていた。稲刈りを任されたのだ。周りは女たちばかりだ。

「アンタ、名前は?」

「フリーダと言います」

「あたしは、ワンダ。アンタ、卑賎民出身だろ?」

「はい、そうです」

「あたしは、そういうの気にしないから。仕事さえちゃんとやってくれたら、身分なんか関係ないと思ってる。上のヤツらが仕事もしないで偉そうにふんぞり返ってるのを見るほど、胸クソ悪ことぁないねぇ。村長のバカ息子のレックスなんか特にね」

 ワンダは、畝の上を歩いて、身振り手振りで愚痴っぽく言った。

「まずアンタには、ここからここまでの刈り入れを頼むよ」

 持ち場を決められた。

「鎌は使ったこと、あるかい?」

「あります」

「じゃあ、頼んだよ。お上に納める大事な稲だからね」

 田に降りると、フリーダは鎌を持ち、何本かの穂先を握ると、そのすぐ下に鎌を入れた。そうやって何本も狩り、横に縦に進んでいった。

「アンタ! なにやってんだよ!」

 隣にいた女がフリーダのところへズンズンやってくる。ほおをひっぱたかれた。

「稲刈りっていうのはねぇ、こうやって稲の根っこに近い下の方を持ってやんないとダメなんだよ!」

「ごめんなさい…」

 しょんぼりとして、フリーダは首を垂れた。ワンダさんはそこまで教えてくれなかった、と言いたかったが、詳しく聞かなかった自分にも落ち度があると思い、歯を食いしばって悔しさを噛みつぶした。

「なんだい、その目は。おお恐いねぇ。卑賎民ってヤツは、みんなそんな恐ろしい目をしているのかね? まだガキのくせに。大人になったら、どんな恐ろしいことをしでかすやら」

 今のうちに教育してやらないとね、と言いながら、女はフリーダのほおをさらにひっぱいた。強烈な一撃で倒れた。

 倒れるときに、持っていた鎌で足のすねを切った。血が滲み出た。

「さあ、ボサッとしてないで、ちゃんと続きをやるんだよ!」




 オルヴィスは、俵を順調に運んでいたが、近くで見ていたレックスとかいう似た年頃の男と、その取り巻きみたいな連中が三人ニヤニヤ笑いながら自分を見ていることに気づいていた。

「よう、卑賎民。まだまだいけそうじゃねぇか。もういっちょいやれ」

 三人がかりでオルヴィスが背負った俵の上にもう一俵無理やり乗せてきた。なんとか踏ん張ったが、さすがに運ぶには無理があり、途中で転んだ。

 その際、米俵が破けて、中の米が地面にこぼれ落ちた。

「バカ野郎! テメェ! 大事な品をこぼしてんじゃねーよッ!」

「オマエが無理やり乗せてきたからだろーがッ」

 オルヴィスも負けなかったが、それ以上の言葉は飲み込んだ。ここで騒ぎを起こしたら、この村からも追い出されるかもしれない。

「おいテメェ、今、なんか言ったか?」

 胸ぐらをつかまれて、ほおをしたたか殴られる。吹っ飛ばされた勢いで、地面に顔面がついた。頭を足蹴にされる。三人がかりで袋叩きにあった。

「こぼしたやつは、もう、商品にはならねぇ。拾って食え。それがオマエのきょうの晩飯だ」

「わかりました」

 はっ倒してやりたかったが、悔しさを飲み込み、一粒一粒拾い集めると口に入れた。砂も一緒に口に入ってきた。むせる。

「ゲホッゴホッゲホッ!」

「大事なモン、吐いてんじゃねー! ちゃんと食え」

 男は、砂と一緒に米を拾い上げて、オルヴィスの口にねじ込んだ。

 明らかな嫌がらせに晴天を仰ぎながら、この調子じゃフリーダもひどい目に遭っているだろうなぁ、と考えた。

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