第12話 ムスティリ村

 日が暮れるまでには、ムスティリ村に着いた。木柵で囲われた村の出入り口には、番兵らしき男が、槍を手に一人立っていた。

「すみません。オレたち、近隣のライナ村から来たんですけど、どうか中へ入れていただけませんか」

「なあんだ、オマエたちは」

 番兵は、二人をジロジロ見て値踏みした。

「わたしたちはライナ村から来て…」

 フリーダが頼み込もうとしたら、

「ダメだ。シッシッ。あっち行け。オマエたち乞食だろ? 卑賎民は穢れている。何人たりともこの村に入れるわけにはいかん。とっと失せろ。卑賎民どもはそもそも人間じゃないんだ」

「ふざけんなァァ!!」

 オルヴィスは怒りのあまり、番兵に飛びかかった。二人で地面に転げ落ちる。

「くそッ! なにしやがるこのガキ!」

 番兵は槍の柄でオルヴィスのみぞおちを突いた。

「やめなさい」

 止めに入ったのは、小ぎれいな着物を身にまとった恰幅の良い男だった。彼はにこにこした笑顔でオルヴィスに手を差し伸べた。態度とは裏腹に、目が笑っていなかった。

「まだ若い子たちじゃないか。さしずめ、なにか悪いことをやって村を追放されたのであろう。最近はそういうものが多い。私はこの村の村長パットという。きょうはもう遅い。わしの家に泊まってゆきなさい」

 村長らしく、広場のついた立派な邸宅だった。バロック村長の邸宅も立派だったが、規模がまるで違う。よっぽど金のある村なのだろう。ここではおもに、米を作っているという。農業は儲かるのだろうか。

 ところが、オルヴィスとフリーダに与えられた寝床は、厩舎だった。まさか邸宅に招かれるとは思わなかったが、外で眠るよりはマシだと思うしかない。屋根があれば雨風をしのげるし、大量に積み上げられた牧草が布団代わりにもなる。

 馬は、知らない人間が入ってきたからか、少し落ち着かなくなったようだ。

「ひとまず安心だね。優しそうな村長さんだったし」

 フリーダは、袋の中からボーネンとカレを取り出して、オルヴィスにあげると、二人で夕食にした。オルヴィスはくるみと梅干し、鹿肉の燻製を出した。

「そういや、あしたから仕事を手伝ってもらうって言ってたな。なにするんだろ」

「でも、村の一員だって認めてもらえなきゃ。仕事はなんでもやらないとね」

「ああ、もちろんだ。きょうはもう早く寝よう」

「うん。きょうはちょっと疲れたね」

 月のない夜だった。朝からの行程で二人はクタクタに疲れ切っていた。




 出窓から朝日が差し込んでいる。

「おはよう~」

「おはよ~」

 二人の目の下には、くまがあった。馬がヒンヒン声を上げている。

「…フリーダ、昨夜は眠れたか?」

「ううん。ほとんど眠ってないかも」

「マジ、馬、うるせー」

「厩舎だからねぇ」

「外で寝ようかと思ったぞ」

「お腹空いてるんじゃない?」

 フリーダはひと抱え分の牧草を馬のところへ持っていった。囲いの中へ無造作に放り投げる。馬はものすごい勢いでムシャムシャやり始めた。

「ほら、やっぱり」

 ドアがバンッ、と開いた。二人と同じ年頃の少年が立っていた。

「オマエら、新入りのくせして遅すぎるんじゃねーのか」

「ご、ごめんなさい」

 フリーダが頭を下げる。

「すんません」

 オルヴィスも頭を下げる。

「なにぶん、昨夜きたばかりで、なにをしたらよろしいのでしょうか?」

 わざとらしく慇懃にたずねる。

「男。オマエは、米俵を馬車に乗せる仕事だ。女。オマエは、田で稲の刈り入れ作業だ。オマエら、俺について来い」

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