第11話 出発

「…オルヴィス。どこに行くの?」

「そうだなー。まずは一番近いムスティリ村へ行くか」

 初めからそういうつもりで、街道を選んでいた。ライナ村から最も近い距離にあるのが、ムスティリ村である。とはいえ、徒歩だと半日はかかる。到着するのは日も暮れる頃になるだろう。天候にも恵まれ、トンビが悠々と旋回している。しばらくはのどかな道のりだった。

 ところが、雑木林が見えてきたところで、オルヴィスはハッとなった。何十人もの不詳な男たちがたむろしていたのだ。日陰で休んでいるのだろう。

 フリーダも気づいた。

「気をつけろ。盗賊かもしれねぇ」

 フリーダもハッとなり、ずだ袋を守るように手を添えた。

 男たちの何人かが二人に気づき、街道まで出てきた。

「ガキども、止まれ。持ってるモン、ぜんぶおじさんたちにくれないかなあ?」

「なあんも持ってねぇよ。バーカ。オレたちは、村を追放されたんだ。金目のモンを持っているように見えたんなら、オマエの目は節穴どころか、つぶれてんじゃねーのか」

「なんだと? こんガキゃあ。やさしく言ってやりゃ図に乗りやがって!」

 オルヴィスはこぶしを食らった。

「なあにがやさしく、だ。やさしく言わなくたって、どうせオレたちに絡んだくせによお」

 もう一発、今度は蹴りを腹に食らった。オルヴィスは膝からくず折れた。

「オルヴィス!」

 フリーダが駆け寄ろうとすると、もう一人の男が彼女を羽交い締めにした。あごをつかんで、フリーダの顔をじっと見つめる。

「お、おい! このガキ、身なりは卑賎民みてぇだが、よく見たら、カワイイじゃねーか」

 フリーダは、必死で男から逃がれようとした。オルヴィスが起き上がり、男のほおに一発食らわせる。

「コイツから離れろ!」

 殴られた男はフリーダを放すと腰からナイフを取り出した。オルヴィスは背中に下げたオノに手をかける。身を守るためなら、相手を傷つけてもいいはずだ。

「おい! オマエら! やめろ!!」

 雑木林から出てきた一人の男。威厳たっぷりの制止の怒声。この男が夜盗のリーダーだろう。

 彼は部下の一人に一瞥をくれるとにらみの効かせた声で言った。

「俺はロリコンが大キライだ。物を強奪するのはいいが、ガキや女をいたぶるのは好きじゃねぇ」

 手下たちはすごすご引き下がっていった。

 物を強奪するのも良くないだろ、とツッコミつつ、オルヴィスは危機一髪、難を逃れた。夜盗の気の変わらないうちに、フリーダの手を取り、早足で傍を通り抜けた。

「ところでオマエたち!」

 リーダーの声が響いて、オルヴィスはびくっとした。

「な、なんですか?」小声になった。

「なにをやらかして村を追放になった!」

「な、なんで知ってるんですか?」

「最近、オマエらくらいの年のガキどもがよく村から追放になっててな。よく見かける。オマエたちもそうなんじゃないかと思った」

 そうなのか? と思ったが、原因など大して興味なかった。

「盗みです!」オルヴィスは後ずさりしながら叫んだ。「オレたち、村長の家に忍び込んで、米俵を一俵盗みました!」

 まともに話すと話が長くなるのでテキトーに答えた。

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