第4話 白羽の矢
半月の出た白光した夜、黒いマントを羽織った者が、フリーダのいる長屋の戸に白羽の矢を放った。
翌日、フリーダが目を覚ましたとき、いつものブタやウシの断末魔が聞こえなかった。
代わりに長屋の前に住人たちが集まり、ザワザワと井戸端会議を開いていた。
「お、おい。フリーダ、って書いてあるぞ」
「まさか、あの子が…」
「いったい誰だ」
「どうせ、平民たちだ」
「自分たちの中から供物を出したくないもんだから」
「だけど、どうして? なにかあったのか?」
「なに? どうしたの?」
寝ぼけ眼でフリーダが外に出てくる。
「た、大変だ! エルザ!」
エルザはフリーダの母である。父は平民だったが、エルザが妊娠したとわかると家を出て行ったらしい。
「フリーダがオステウス様への供物に選ばれたぞ!」
オステウス、というのは、仙ノ国の国教であるラーマの神で、とりわけ戦いのカミサマとして知られる一柱である。そのカミサマに供物を差し出すということは、仙ノ国の戦況が不利であることに他ならない。仙ノ国はいま、国境を接する
フリーダは、頭を抱えて、その場にへたり込んだ。
「…イヤだイヤだイヤだ…絶対にイヤだ」
ざわめきの中では、近くにいる母親にしか聞こえない声だった。
「なに言ってんだよフリーダ。供物に選ばれたってことは、とても名誉なことなんだよ」
供物にされる、ということはつまり、生きたまま火あぶりにされることを意味する。戦の神オルテウスは、処女を好み、山頂で火あぶりにすることで戦の狼煙とするのだ。
白羽の矢が立った家の少女が、その供物に選ばれたことを意味した。
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