第2話 オルヴィスとフリーダ

 ブリタニカを送った帰り道、オルヴィスはガードリアスの家に立ち寄った。

「やぁ。オルヴィス。久しぶり。どうしたの?」

「ああ、久しぶり。悪いが、世間話はナシだ。オヤジさんはいるかい?」

「オヤジなら、離れで仕事してるよ」

「ありがとう」

 おばさんにもあいさつをしてから、離れへ案内してもらう。

 ガードリアスの父ロビンは、クマの解体作業をしていた。毛皮だけを残して、はらわた、肉、と切り分けてゆく。

「おじさん、オルヴィスです。ちょっといいですか?」

「ああ、こんばんはオルヴィス。なんだい?」

「少し気になることが…」

 街道沿いで、クマに食われたと思われる僧侶の遺体が見つかったことを話した。

「わかった。危ないな。仲間たちにも知らせておこう。あしたは日が昇ってから、我々で山狩をする」

 ロビンは狩人である。それも腕利きの。ウサギやキツネなど素早い小さな獲物もなんなく弓矢で射止めることができる。冬ごもり中のクマを襲うこともある

 だが、活動中のクマは、矢で射ても急所に命中しなければ、反撃されることがあるので一人で倒すことはできない。大勢のベテラン狩人が集まって初めて成功する狩りだった。



 フリーダは早朝から憂鬱だった。

 集落の朝は、いつもブタやウシの断末魔から始まる。

 屠殺場では、男たちが豚の手足を縛り、動かないようにしてから、もう一人の男が豚の頭に鉄槌を食らわせ、気絶させてからもう一人の男が素早く牛刀で、豚の喉笛を掻き切る。

 子供の頃は、屠殺場の入り口を女たちが塞ぎ、子供たちが誤って見ないようにしていたが、ブリタニカはもう十四歳である。十三歳になったら、屠殺の現場を見せられる。なんとも言いようのない後味の悪い思いを抱いたことを今でも覚えている。

 そして、今でも慣れていない。慣れることがないと思う。朝はいつも憂鬱だ。あの断末魔さえ聞こえてこなければ、と思う。

 しかし、こうした汚れ役は、卑賎民たちの仕事である。逃れることはできない。コリン、マグ、ダンスの三人が彼女のことを穢れた子と言っていたが、あながち間違いではないとフリーダは思っている。

 賎民たちの手は、血と脂にまみれている。

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