第5話~6話
5
ネットをサーフィンしまくって様々な情報を得た俺は、生活の全てをサッカー向けに変えると決意した。
まず、食堂との契約を止めた。食堂で出る唐揚げとかの揚げ物には、環境ホルモン作用があるサラダ油が使われているからね。あと食堂って、ほぼ全寮生の食事を作るじゃんか。だから、油も長時間の使用で劣化して、毒性が強くなるそうなんだよ。
俺には、妙ちきりんな物を食べて身体を壊している暇はない。だから俺は、これまでの親からの小遣いを全部はたいて、玄米から発芽玄米を作れる炊飯器を買った。それで玄米と一緒に、魚や肉、野菜を入れて、炊き込みご飯にして食べるようにした。
健康的で食費も浮いて、一石二鳥である。サバイバル感が半端ないけどね。
そりゃあ手間の掛かった、温かくて美味しい料理のが好きだよ。だけど、俺にはサッカー部で上に行くっつー使命があるからね。そのためには、食事に快楽は求めない。
食費が抑えられると、その分のお金をスパイクに回せる。ってわけで早速、ニュー・バランスの最高級品を買った。
サッカー・ソックスは、五本指のものに変えた。ショップで履いてみたら、ボールを扱う感覚が裸足に近くて良かったからね。それと五本指ソックスのほうが指の動きが意識できて速く走れるって、佐々がアドバイスしてくれてたし。
睡眠時間は、毎日、六時間。睡眠のサイクルは九十分だから、九十分の倍数だけ眠れば、睡眠の効率が良い。
勉強はできるだけ、授業だけで理解すると決心した。あんまり頭は良くないけど、未奈ちゃんとくっつくって目的が絡めば、記憶力が上がるはずである。
全ては来る女子Aとの試合で未奈ちゃんを止めて、Cからお去らばするためだった。主義や心情だけじゃあない。俺は、目標のために全てを捨てる覚悟だった。
6
佐々との初練習の四日後、俺は、亘哉くんと二人、水池家の近くの公園へと赴いた。ミニ・ゲームで話が出て二日前に詳細が決まった、女子Aと男子Cの練習試合まで週二で亘哉くんの練習台になるという、未奈ちゃんとの約束を果たすためだった。
公園の広さは、三十m×三十mくらいである。俺たちがいる土のグラウンドが、総面積の八割ほどを占めていて、雑草が生い茂る残りの二割には、滑り台、砂場、ブランコ、屋根の付いたベンチなどが押し込められていた。
グラウンドを囲む電灯は一般的な公園のものだけど、サッカーの練習に充分な明るさだった。
長袖の青いジャージを着た亘哉くんからパスが来た。俺はダイレクトで返し、小さく息を吐いて集中を高める。亘哉がすっと足元に収めて、一対一の開始。
亘哉くんはちょんと、俺に渡すかのようにボールを前に出した。俺は即座に反応。左足を前に出して、ボールを奪おうとする。
しかし亘哉くんは、すっと右足の裏でボールを引いた。そのまま、右、左のダブル・タッチで逆に出す。イニエスタ並の滑らかさ。
スライディングが不発に終わって、転けた状態の俺は何の対応もできない。
俺を置き去りにしてドリブルを続けた亘哉くんは、五歩ほど行ってから戻ってきた。
またしても完敗。練習を始めて三十分くらい経ったけど、一回も勝てていなかった。さすがは、世界が注目するスーパー小学生である。
「さっきのフェイント、今日で二回目だけど、わかってても、そこそこ引っ掛かるよね? けっこうよく使ってるんだけどさぁ」
二歩ほど離れた位置で、亘哉くんは悪意が一切ない声色で話し掛けてきた。俺を見下げる笑顔にも、馬鹿にするような色はない。
けちょんけちょんにされて我ながらテンションのおかしい俺は、亘哉くんに合わせて思いっきり破顔する。
「おう、引っ掛かる引っ掛かる。大縄跳びの端の人ぐらい引っ掛かるよ。亘哉くんはもはや、引っ掛けマエストロと言っても過言じゃあないね」
亘哉くんは、少し笑顔を小さくして、「……星芝さんも、もう疲れたよね。八時になったし、帰ろうか」と、気遣わしげに呟いた。
ん? 俺さっき、心配されるような発言したかな? ハイになっちゃあいるが、喋るほうには影響は出してないつもりなんだけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます