■第七信①


拝啓

親愛なる唯様


 荘と語らった後、部屋へ戻って眠りました。目覚めてすぐに前の手紙を書き、鐘のを聞きながら、もう一度、とこに就きました。今朝の鳴鐘人ベルリンガーは矩ではないかと思えました。

 朝食を抜き、再度起き上がったときは昼食の時間で、食堂へ行くと澪が一人で給仕を務めていました。荘は徹夜明けで、ぐっすり寝ているらしいと、誰かが囁きました。彼はこうなると予期してか、今日の仕事は前以て一切合財、澪に託していたようです。空腹感の割りに、僕の食は進みませんでした。

「あのー、ちょっと聞いてください」

 澪が声を張り上げ、ざわめきに切り込んできました。

「さっき、頼んでおいたミシンと生地が届いたんで、これから少しずつ、皆さんの新しい着替えを作ります。注文があれば、仰ってください」

 見たところ、彼女の言葉に表情を動かしたのは、僕ら凪チーム以外の面々でした。が進んでいるのでしょうか。ちょっと気の利いた服を着て背筋を伸ばし、暴力的な衝動を胸の底に沈殿させ、封をして、しかるべき場所へ帰る己の姿を瞼に描いたか。試験に合格しなけりゃ何の意味もありませんけれど。

 哉は嚴の隣で首を竦め、僕を一瞥しました。僕も目顔で応じました。凪はバカバカしいとでも言いたげに唇を歪めて踏んり返っていました。

 後はまた、図書室のロフトに籠城しました。いつか荘が箱詰めのまま持ち帰ってしまう宇佐美麗の本を読んでおきたかったのです。まずは本人の著作から。

 いくつかの作品に現れる少女のイメージが、凪と重なりました。例えば白い木綿のワンピースを着て、少し髪を整えたなら……。しかし、考えるとイライラしてきました。澪がそんな僕の心の動きを予め見透かして「服を作る」などと言い出したかに思えて。

 腹が立つのは、今回の澪の言動によって、ここでのが破られる気がしたからです。リクエストを受けるだなんて、彼女は各自の好みに合わせて個性を主張するための衣装を作ると言っているわけで、それではもう囚人服のていを成さないじゃないですか。さっきは澪の提案を嘲笑うかに見えた凪だって、他の連中が好き勝手に装い始めれば、態度を変えないとも限らない。そして、もし凪が殺人を犯す前の姿に戻ったら、荘のに負けてしまうかもしれません。

 凪が荘と手を取り合って迎えのボンネットバスに乗車する様を想像すると、頭と言わず胸と言わず掻き毟りたい衝動に駆られます。先に乗り込んだ荘がステップに足を掛けた凪の手を取った瞬間、白いワンピースの裾が風に煽られて躍り上がり、凪の太腿、下着、そして臍までが露わになり……僕は知っています、前にトレーニングジムで見ました、凪は臍のきわにもピアシングを施しているんです。思い出したら恐ろしく気が昂ぶってきました。禁欲のハーブを摂取しなくなったせいでしょうか。凪を裸に剝いて、普段は隠れているボディピアスをとっくり眺めたい、服に覆われて日焼けを免れた青白い肌に鏤められた小さな宝石を、余さず口に含みたい——。

 凪の肢体と、猟奇小説に登場する男装の麗人とがオーバーラップしました。ルビー、サファイア、トパーズ……そうです、弾丸の代わりに色とりどりの宝石を銃口に詰めて、トリガーを引くんです。想いを遂げるのは、それからでも遅くない……。ああ、興奮し過ぎて頭がおかしくなりそうです。もっとも、その前に武器を奪われ、銃床でブン殴られてひたいから血飛沫を上げながらブッ倒れるのがオチでしょうけど。ハハハ。

 今度は血達磨になって昏倒する自分と教官の姿が二重写しになりました。僕と海が取っ組み合いのケンカをしていると嘘をついて、哉が教官をおびき出したんです。体格差を考えたら、掴み合いなんて不可能だって、わかりそうなものですけどね。で、僕らを認めるや、スタンガンを振り翳して「何をしている、やめんか」云々。相手の注意が僕らに集中した隙に、哉が後ろからシャベルで殴り飛ばし、俯せに倒れたところへ僕らも鍬などを振るって激しく攻撃を加えました。 いつも威張り散らしていたヤツが、無様にもがきながら命乞いする姿の、みっともなかったこと。その様子が一層、僕らの嗜虐性を刺激したんです。芋虫のように背をたわめ、衣服に無数の皺を刻んだ彼を、三人共、一心不乱に殴打し続けました。今にして思うと、凪のための意趣討ちというのは建て前で、ただ彼を完膚なきまでに叩きのめしたかっただけかもしれません。嚴たち反・凪派と小競り合いを繰り返してきたと言っても、所詮は、罵ったり、ちょっと小突き回したりする程度でしたから、この件に比べれば大した話じゃありませんね。やっぱり、徹じいの心尽くしのサラダやらお茶やらが効果を発揮していたのかな。宵待蟹に切り刻まれ食い荒らされて土塊つちくれと化した者は、その前にも数名いましたから。

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