■第四信②
徹じいが倒れたとき、不謹慎ではありますが、
ところで、宵待蟹は食用に適するかどうか——ですが。小さくて、見たところ殻も薄そうなので、唐揚げにでもすれば食べられるかもしれません。ですが、僕らは誰から言い出すでもなく、無毒な植物を餌にしていれば問題ないだろうけれど、毒草や土中の亡骸を
ザッザッと大股で歩く足音が近づいてきました。荘でした。凪はしゃがんだまま顔を上げて彼を睨みました。彼は仁王立ちになって僕らを等分に見比べ、何か言いかけましたが、ブァッと物凄いくしゃみを連発して身を屈めました。彼は僕らの動きに気づいて大きなゴミ袋を持ってきてくれたのでした。やはり態度はいけ好かないけれど、気配りはしっかりしていて、管理人としては妥当な人物なのかもしれません。施設の中はかつてないほどピカピカに磨き上げられていますし。
凪は彼から目を逸らし、刈り取った雑草を袋に詰め込みました。荘はエプロンのポケットからタオルを引っこ抜いて涙と鼻水を拭き、
「何の花粉だ馬鹿野郎」
誰に向けるでもなく文句を放ちつつ、目を真っ赤にして、まだくしゃみの発作と格闘していましたが、いつの間にか数の増えた宵待蟹の行進に視線を落として、
「こいつらを餌にして魚でも釣りゃ食材が増えるじゃないか」
荘の顔には「自分で釣りたいが、そんな暇はないから代わりに行って来い」と書いてありました。僕は余分に時間が取れるなら一つでも多く箱を開けて本を整理したいくらいですから、そう答えようとしたところ、凪は彼を嘲笑うような鼻あしらいで、
「とっくに試した。足場は不安定だし、碌なポイントがない」
「へえ、そうかい」
荘が再びくしゃみに襲われ出すと、凪はゴミ袋を持ってプイと菜園を後にしました。行く手に陸海兄弟の巨体が見えたので安心して、僕は追いかけるのをやめました。荘の
宵待蟹たちがカサコソと
僕と荘は宵待蟹の行進を追って、半ば崩れた煉瓦の堡塁に足を踏み入れました。廃墟は蔦に取り巻かれ、冷淡かつ執拗な愛撫に息も絶え絶えといった風情でした。蟹は下草を薙ぎ倒すかのように
「……」
荘は気が済んだのか、微かな吐息を漏らすや否や
それにしても、心に黒々と立ち込める、この暗雲はどこから来たのでしょう。宵待蟹の出没するタイミングがズレ始めたのが、凶事の前触れのように思えるせいなのか。ですが、こうした不吉な予感は、荘が
詠より
敬具
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