■第一信②
「
「あ、私は助手として参りました、
「……
僕は荘と澪を徹じいが使っていた二階の執務室へ通しました。位置はキリスト教建築における
荘は設備を一瞥しましたが、どんな案配か既に聞いていたのでしょう。勝手知ったるといった調子でズカズカ歩を進め、革張りの椅子に座って机に足を投げ出しました。その行儀に仰天したところを見ると、 澪は彼と付き合いの長い私的なパートナーではなく、単に仕事上、
「ポストはどうした?」
「……ええと。誰も利用しないんで、徹じいがどこかにしまっちゃったかと」
「捜せ」
荘の高圧的な物言いに、澪はハラハラしています。僕だって、いい気分はしません。でも、ポストは復活してくれた方が助かるので、承知しました。何故って、もちろん、あなたに手紙を出したいからです。
「私は何からお手伝いすれば……」
「今日はもう結構」
非常に素っ気ない返事でした。もしかすると、荘は助手など必要としていないにもかかわらず、
ともかく、僕は彼に一礼し、既に陸海兄弟の手で運ばれていた彼女のトロリーケースを引いて、廊下へ出ました。
「申し訳ありません」
「どういたしまして……っていうか、僕らに敬語なんか使わなくていいですよ」
だって、お姉さんの方が年上でしょう——という言葉を呑み込んだのは、言うまでもありません。彼女は遠慮がちに、
「あの、あなた方は、みんな似た服装をしてらっしゃるのね」
僕や陸海兄弟たちが、サイズは違えど一様に、無地のカットソーとブルージーンズを纏っていることに気づいたのでしょう。
「低地からこっちへ避難した後、物資の輸送が怪しくなったって、前の管理人の徹じいが言ってました。で、少ないモノをやりくりしている感じです。昔は制服があったと聞きましたけど、この方が楽ですし」
「はあ……」
「でも、よく女の人がここの仕事を引き受けましたね」
「ええ、男性ばかりなのに……」
僕はただ、こんな辺鄙で打ち捨てられたところへやって来るとは物好きな——くらいの意味で言ったのですが、どうやら自意識過剰なタイプのようです。でも、中には燃えさしを自然発火させてしまう者もいるかもしれない。余計な問題の種は蒔きたくありませんからね。荘の執務室と真反対の、翼廊北側の突端にある部屋へ連れていきました。机の引き出しに入っていた鍵を出して渡すと、彼女は僅かに頬の強張りを緩めました。
「休憩・就寝時は必ず内側から施錠すること、部屋を空ける際はこの鍵でロックして、ストラップで首から吊して肌身離さずっていうのを、お勧めしておきます」
「すみません」
「補足しますが、ここには合い鍵を作る道具もありませんから、誰かが既にイタズラを……なんていう心配は無用です。恐らくこちらがスペアで、マスター・キーは執務室の金庫に保管されているかと。その金庫を解錠するダイヤルの番号を知っていたのは前の管理人だけで、後継者は多分、事前にそれを教えられていたろうと思います」
「……どうもありがとう」
つまり、彼女に夜這いを仕掛けることができるのは新管理人のみ、という理屈です。仮に彼がそんな気を起こしたとしたら、ですが。彼女の顔に、安心と共に淡い期待の色が仄めいたと見えたのは、錯覚だったのか、どうか。
ともあれ、僕は読みかけの本を置きっ放しにしていたのを思い出して、図書室へ戻りました。
詠より
敬具
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