第3話 魔除けの扉

 使者が居なくなったあと、荷物をまとめて逃げ出すもの。使者の忠告を聞かずに、家の扉を頑丈にしたり、窓の外側に木の板を打ち付けて補強をするもの様々だった。

 テラの夫ヨシュアは、使者の忠告通りに羊の血で扉を塗って備えた。村人からは、そんなものは迷信で効かない。殺されるぞと言われたが、ヨシュアは使者の言う通りにした。長老と数人の村人だけが、魔除けの備えをした。

 夜になりヨシュアは、家の灯りを全て消して施錠をしっかりして、自分一人、鎧を着て玄関が、破られた時に備えて槍を持ち待ち構えた。

 奥の部屋ではテラが、男児が泣き出さないか気が気でならなかった。しかし、男児はテラの思いを知ってか一度も泣かずに安らかに眠っている。

 やがて、馬の声とともに村人たちの悲鳴が聞こえ激しく争う音が聞こえてきた。ヨシュアは、槍をきつく握りしめいつ玄関を破られてもいいよう構えていたのだが、悲鳴や剣が擦れる音などがするばかりで目の前にいる気配はするのに敵は入って来なかった。音が静かになり、気配もなくなったので、ヨシュアは静かに窓から様子を見ると、人や馬は誰もいない。もう、さらに東へ敵の一群は走り去っていったようだった。さらに慎重に、確かめながら扉を開けて外へ出ると道にはところどころに死体が横たわっている。敵の死体もあり、馬はどこかへ逃げ出したようだ。ある家からは、男児が殺されてしまったと泣き叫ぶ母親の声がしていた。

 長老とヨシュアが、村を見回ると魔除けをした家だけが何の被害もなく済み、補強をして頑丈にした家は皆襲われ、子供が次々と殺されてしまった。中には、女の子や守ろうとした大人まで殺されてしまった。

 あまりの残酷さにヨシュアは言葉を失ったが、亡くなったものたちの葬式の準備を自分の家族のように率先して手伝い始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る