転生ドール

猫3☆works リスッポ

第1話漁村アポールの償い


今日のアリアン海の蒼い海はとても静かに凪でいて天候は穏やかだ、そんな中で海鳥は騒がしく忙しく数羽で1匹の魚を取りあっていた、満腹になったのかそのうちの一羽がタムの横に降りてきて羽繕いを始めた。まだまだ空腹な連中は「ガグルガクル」と牽制し鳴きながら次の獲物を探して海中に飛び込んでいく。

かすみの「タム」は漁師の息子だった、ぼんやりとしているようで学校帰りの子供が後ろを通り過ぎるのに気がついていた、その中には同じ漁師の息子のベイもいた。

初めて自分が異質であることに気がついたのはいつだったろうか、タムが学校に行っていないことは誰も気にすることもなかった、この村には学校に行かない子供などはいくらでもいる。稼ぎのいい家の子供だけが学校に行っているから。

貧乏でもタムは親の手伝いもろくにしていなかった、父親は、それどころか大人達の誰もがそれを非難したが、なぜか叱責はしなかった。

そんなことは気にしない、タムにとって大切なことは子供は必ずそれと共にいた、なのに自分はそれを持っていない、持っていないのではなく連れていないし契約していないのだ。

どんな子供でも生まれた時に必ず与えられる教会からの祝福、ドールの貸与がタムには無かったのだ。

その理由は分からなかった、前世でとんでもない悪いことをした罰なんだろうか、それとも自分は人間ではないのだろうか。

13歳に成ったからなのか最近は頻繁にそんな事を考えていて家の仕事にも集中できずに港に来ることが増えていた。

小さいときには仲間だった者もタムがドールを連れていないことが判ってくると次々と離れていった。


その日は空に鉛色の雲が降りてきていた「海行く。」タムはぶっきらぼうに父に言った。

その言葉は父に届いていたはずだ、だって忌々しいものを見る目で息子を見ていたのだから。

今日は朝から昼までは、網の修理を手伝っていて仕事はまだまだ終わらない、が、無性に海に行きたくなった。

「嵐が・・来るぞ」振り向きもせずに父親は睨むが止めようともしない。

「嵐が来るぞ!」どこか遠くで大人が叫んでいる、子供達はすでに家に帰ったのか海どころか通りにさえ一人も見かけない。

「あらしがくる、あらしがくる・・・」タムはブツブツ言いながら海の方に向かって歩く。

嵐はどんどんと酷くなり沖では1mもある波しぶきが立ち上がっては砕けている、それだけあればタムを飲み込むなど造作も無い。

まだ日中であるのに暗く陰った砂浜には妙に静寂な「くぼみ」が出来ていたのに気がついた。

タムは不安と懐かしさ出それを眺めていると不思議な呼び声を聞いた。

「こっちえ」

「こちらへ」

「はよう」

「おいで」

「まっていたよ」

その声には威嚇も恐ろしさも無かった、でも「いやだ・・いや・・ごめん・でも・」家に向かって駆け出していた、帰りたいと思ったのは初めてだった。

途中の道で何かを踏んだ、緑のリボン「ミサニ?」の人形?。一瞬拾おうとしたがやめた「盗んだって言われるね」。

ミサニは野菜の行商人の娘、生まれたのはこの村だったが家族で数年前に村を出てついこの間借金を抱えて戻ってきたばかりだ。

父親は流行病で死んだそうだ。

ミサニはタムより少し身長が高く同じようにボロボロの衣服を身につけていた、違うことはミサニとドールはお揃いの緑のリボンを付けていたことだった。

翌日の朝、日が昇り始め薄明かりで海に様子がようやく見えるようになった頃「ミサニ」が海から上がったと大人達が集まっていた、タムは見つからないようにこっそりと昨日見たはずのミサニのドールを探しに行ったがその場所にも、近くにもどこにも落ちていなかった。

大人達も魂が宿っているはずのミサニのドールを探した、砂浜も岩礁も、波が収まってくると近くの水中まで、だが誰も見つけることが出来なかった。

「アズス、最後にミサニをどこでみたんだ?せめてドールだけでも。」

ミサニが家に戻ってからすすり泣きの止まらないミサニの母親アズスに村長のヨルが問いかけたが埒が明かない。

タムは気になった、特別に仲の良い友達とかでは無い、ろくに話したことも無いのに、無性に確認したかった。何かを。

だが何も思いつかないまま、今日のやる仕事も何一つしないまま、とうとう日が暮れてきたので家に帰ることにした、家に着くと薄暗い家にはろうそくが灯っていないが父親が待っていた。

無言で夕食の干せたパンをつまもうとしたとき「おまえは昨日の夜どこに行っていた。」父親に呼び止められた。

「昨日はどこにも出ていないよ、夕べから朝まで家にいたよ、ボクが朝出て行くところを父ちゃん見たでしょ。」

「いいや見とらん、おまえは夜中に出かけたまま今帰ったんだ。」

「そんなはずは無いよ、だって昨日の昼に出かけて」出かけて、思い出してきた、いつの間にか海にいたんだ、家に帰りたいと思ったけれど気がついたら日が昇り始めていた。だからだいたい昨日うちに帰ったのはボクじゃ無い、じゃあ夜中に出かけたのは誰なんだ?帰ってきたのは?。

急に目の前が暗くなってきた、綿のようにボクはなんだかとっても眠い。

「どうするつもりだバザク、おまえの息子のタムを。」遠くで声が聞こえる。

「村長さんよ、まさか俺だけに罪をなすりつけるんじゃ無いだろうな、これ以上やってられんよ。」

「そ、それはな、これは村の問題だよおまえだけにはさせんよ。」

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