どこの手の者

 ジーナの動きを見ていたが、圧倒的過ぎて相手が可愛そうになってくる。相手側の数の暴力をさらなる斬撃の数の暴力でねじ伏せながら、地面に居た相手を次々と殴り飛ばしていく。

 ゴキャリと嫌な音が響き、ゴミクズのように吹き飛んでいくのを見るとある種の愉悦すら覚える。なんというか、本当に単純に強い。


「ひゃあああぁぁぁぁぁぁぁ!」


「ゔぁああああああああああああ!」


「ぱあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 敵が吹き飛ぶ度に、聞いたことの無い断末魔が激痛により上がる。昔使ってた拷問用の回復魔術より痛みを少し上げた程度で、理論値的に問題無い筈なのだがやはり個体差も大いにあるようだ。


「にしても、ここまで強いと嫉妬もおきないな」


 比べるのが野暮というヤツだ。しかし、こいつら何処の手の者なのか……適当に一人拾って来て、片手をへし折ると絶叫とともに気絶した。耳が痛い。


「ったく、かすり傷にしないとダメか」


 再び軽く蹴り起こし、ナイフで指先を切って気付けする。


「がっ……ぐぅ……っ」


「お目覚めか、お前等どこの手の者だ。言わなかったら指を折るぞ」


「ま、待ってくれ!喋る、喋るから治癒はやめてくれ!!」


「そうか、直接接触しているなら後5倍ぐらい痛みは引き上げれるんだが、残念だ」


 俺の言葉に表情を引きつらせる男。


「で、どうなんだ?」


「あ、アンタ、暗殺者連盟の上役の首全部ねじ切っただろ、その報復だよ」


「え、そんな事やったっけ……」


 待って、本当に覚えが無い。


「広場に首並べただろうが!」※プロローグ内部に軽い記載あり※


「えっ、ああ……見せしめに何時もやってる事だから忘れてた」


 そういえばそんな事もかなり前にチラっとあった気がする。伯爵と合流する前だったか?しかし暗殺者ギルドだったのか、あまりに稚拙でただの犯罪者集団かと思ってた。


「終わったぞ」


 息一つ切らせずに剣の調子を確かめるようにして、此方に合流してきたジーナ。仕事が早くて助かるな。


「ああ、手間を掛けたなジーナ。どうやらコイツ等俺が前に首切って並べた暗殺者連盟とかいう組織の奴等らしい」


「お前、そんな事してたのか」


「襲ってくるなら殺す、お前だってソレで一度死んだだろ?」


「違いない、違いないが……それでどうするんだ?」


「直接乗り込んで皆殺しにするのが早いな、コイツに案内させて他のは殺すか。良かったな男、案内してくれたら生かしてやるぞ」


「だ、ダメだ、俺が殺される」


 男が怯えながらそう言うが、知ったことではない。


「安心しろ、これ以上の禍根を残さないように全部殺すから」


「これ以上殺すのか……」


 ジーナがなんとも言えない表情でそんな事を言う。とはいえ、俺も襲われるから殺しているだけであり、そもそも喧嘩をふっかけて来たのはアチラだ。


「協力したくないと言うのであれば問題ない。適当に殺して死霊術で情報引き出すから」


「殺すとか殺さないとか意見が行ったり来たりするな……」


「相手方に一応こっちは誠意を見せているという所を理解させる為のパフォーマンスだ。それこそ本当に俺は最初からどっちでも良いんだよ、博愛主義者だから殺したくないけど職業柄殺しに躊躇いが無いだけで」


 スクロールから魔剣を取り出し、緩やかに歩み男の首を跳ねに歩く。同時に、刃から虹色の魔剣接触光が散った。ジーナの魔剣が俺の魔剣に触れた光だ。


「魔剣をみだりに抜くな」


「ジーナ、どっちにしろ殺すか協力させるかの二択しか無いのは理解できるだろう」


「お前は表か裏かでしか物事を考えられない男じゃない」


 此方を強く見据えるジーナ。とはいえ、今の所コイツを生かすメリットもそんなに無いのも事実である。


「その通りだ。だが、相手が報復目的ならばより残忍な手段で相手を皆殺し、二度と手を出したくないと思わせるのがもっとも手っ取り早い」


 どうにも平行線になりつつある。とはいえ、このままコイツ等を生かしておいては伯爵へ危害が加わる可能性もゼロでは無い。なので、もはや皆殺しは半分決定事項なのだが……そうだな。


「博愛主義者ではあるが無駄を許す程の余裕も無い。だが、コイツ等を使って利益を生み出せるなら文句も言わない」


「では、犯罪奴隷としてコイツ達を使いたい。先の依頼、手数があればさらに早く終るだろう」


「なるほど合理的だ。転がってる奴等を集めろ、魔術で精神を縛る。この大陸で教会が定めた法って何故か資格の無い奴隷魔術は違法だが、精神系の魔術は幾つか抜け道があるんだよな」


「意図された物じゃないのか?」


「お前を操った時みたいにか?」


「……む、むぅ」


 少しバツの悪そうに唸ると、ジーナは頷き気絶した連中を一人づつ運び集め始める。さて、彼の提案はそう悪く無い物だと考える。錬金術による次世代の兵装を使いこなす集団は遅かれ早かれ必要な存在だと言って良い。

 実験部隊として彼らを取り入れる事は、将来的に見て十の利益を拾えるだろう。組織本体の方は、まぁ……早急に対応するとしようか。


「ところでルベド」


「ん?」


「壊した木箱とかどうしようか……」


「あっ、あー……」


 仕方ない、ちょっと伯爵に謝ってくるか。


「そちらは頼む、此方は騒ぎの後処理をしてくる」


◇◇◇


 急ぎ伯爵の館に向かった所、其処には夕食を終えてちょうど休憩中だったらしく手早く応接間に通された。


「で、取り急ぎワタシの所に来た訳ですか、ルベド殿もお忙しそうだ」


「いやはや、申し訳ない」


 無いヒゲを撫でるように手が顎に伸びたが、手が空を切った。いかんせん少し動揺してしまっているようだ。


「何、気にしていませんよ。さて、物品に関しては後ほど補填しますが……ふむ、此方の警戒網が機能していないですね」


「現首領をとっ捕まえて脅して、魔術で頭の中弄くり回せば傀儡に出来ますがどうしましょうか?」


「怖いことを仰る……でもそれは行いたくはありませんね。今現状、大きい行動を起こすのは少々不味い」


 おそらく伯爵側で防諜用の人員を別の事に使用しているのだろう。そして今回の強襲に関しては、その穴を突かれた状態だと。よろしくはないが、変に動いて気取られるのも良くないという事か。


「承知しました、しかし諜報に関しては取り急ぎネズミの通る穴を埋める必要があります」


「おや、何か妙手でも?」


「怪しい人物をあぶり出すぐらいならば出来ますが、いかんせん此方の手が止まってしまうので妙手とは言えません。この先を考えるに、継続的な防諜の必要性もありますので……お時間を頂ければ此方側で防諜組織を用意できますね」


「ほう、それは頼もしい」


 キラリと伯爵の目が光った。どうやら興味があるようだ。


「現状私の手が足りない状態ですので、どうしても多数の事を行うとなると時間がかかります。伯爵殿も忙しい事は重々承知ですが、此方に何人か人員を回していただければと……」


「でしたら、取り急ぎレイシアを使ってください。彼女には様々な事を経験させ、将来的には我が娘の側近として活躍してもらう予定です。頭は回る方ですし、座学も忍耐が無いだけで優秀ではあります」


「しかしそうなると、伯爵の護衛が」


「幾つか冒険者グループに声を掛け、私の護衛と取り急ぎ街の防諜に回らせます。少々値は貼りますが、金銭を惜しんで命を失うようでは商人失格だ」


 どうやら冒険者を雇うというのは既定路線であったようだ。今回俺が奇襲を受けた為に、取り急ぎという事だろう。


「承知しました。此方も幾つかの問題点を克服できれば、伯爵殿の手伝いもできるかと」


 伯爵が少し肩から力を抜いた、どうやら本題は終わったようだ。


「フフ、頼りにしているよ。さて、私は少しこの後用事があってね、ルベド殿は茶菓子を楽しんでもらった後に帰るなり泊まるなり決めてくれれば良い」


 そう言って伯爵が手を叩くと、扉の前で待機していたメイドが様々な甘味類をテーブルの上に並べた。新作らしき菓子もあるようで思わずニヤけてしまう。


「おお、感謝します伯爵」


「何、お互い様だよ。実はゴーレムに関してもあちこちから問い合わせが来ていてね、此方も以前もらったマスターピースの解析が色々と忙しい状態なんだ」


 耳ざとい連中も中々に多いようだ、とはいえ……今回は派手にやったから仕方ないが。


「聴きたい事があれば何時でも呼び出して頂ければ」


「何、ルベド殿はフリーにしておいた方が利益が出る。今回も諜報の穴をいち早く知らせて頂けたし、私の頭で扱った所で出る利益など所詮私の予想の範疇に過ぎない」


 伯爵が軽くウィンクを飛ばし席を立つ。


「予想通りなど、面白くないだろう?今後も期待しているよ、ルベド殿」


 そう言って、笑い部屋を後にする伯爵。


 まったく、彼も大概人誑しだな。

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