交渉、行動、誘致
一先ず、ジーンクラッドを落ち着かせ、脳から抜き出した情報の整合性の確認および、彼が帰還した後やろうとしていた事等の確認を行った。
「ふむ、やはり状況証拠的にジーンクラッドは良いように使われたようだな」
「……思えば、何かしらの精神系の魔術を掛けられていたようだ。どの大司祭からの招来を受けて教会に向かったのか、そのあたりから記憶が曖昧だ」
「仲間に対して随分な仕打ちだな」
そういうと、少し悲し気な目をするジーンクラッド。意外と繊細だな。
「何か理由があったと思いたいがな」
「宗教家かつ中立の組織が戦争に加担する理由か、私欲以外にあるなら教えてもらいたい所だ」
肩を竦めると、さらに目線を伏せるジーンクラッド。なんだか彼をいじめている気分になってきた。
「それで、どうする。此方について小間使いを行うなら大戦終了後に肉体を戻してやるが」
「自らを人質に取られるなど、初めての経験だ」
「元は死んでたんだ、命がつながっただけマシだと思って欲しいがな。情報を抜いた今、すぐにでもその命を終わらせる事も出来るが、その上で相当な譲歩をしていると理解してくれ」
「外野がどうこう言うのもアレだが、旦那ならジーンクラッド様の肉体だけ良い感じに使って、教会を巨悪に仕立て上げたりすると思うぞー」
「レイシア、俺はその程度で終わらせる程、甘くも優しくもないぞ」
「怖っ……」
その言葉に大きくため息をつくジーンクラッド。気持ちは分かるが、合理的に判断してもらいたい所だ。
「……二つ条件がある」
「聞こう」
「俺は教会とは戦えない」
「他所の二国とは?」
「……既に其方と交戦したのだ、今更出来ないとも言えない」
「では、もう一つは?」
「教会の真実を暴く手伝いをしてほしい、恐らく俺だけでは不可能だ」
悔しそうに、吐き捨てるようにそう口にするジーンクラッド。高潔が過ぎる、故に不器用であることも彼自身が痛い程理解しているのだろう。
「心得た、装備は此方が整える。其方は純粋に俺の護衛及び戦争の駒として動いてくれれば良い、此方としても汚れ仕事をさせる気は無い……クルセイダーとしての本領を遺憾なく発揮してくれ、ジーナ」
「ジーナ?」
「その体の時の、アンタの名だ」
「……はぁ、分かった」
「では取り急ぎ、リアはジーナの服と下着を一緒に選んできてやってくれ、レイシアは伯爵に今回の報告を頼む」
「承知いたしました。では早速、ジーナ様こちらへ」
「りょーかい、ってもなんて報告したら良いんだろうねコレ……」
そうして、それぞれが動き出す。
ジーナの体には幾つか細工を仕込んだが、多分使う事も無いだろう。彼はあまりに不器用過ぎる。これだけ厚遇されて、裏切れるようなタマじゃないさ。
◇◇◇
「それで、いきなり冒険者か」
「材料集めや情報集め、戦争に向けての技術の発展にはこれが最良であると考えた」
ジーナと並び、街を歩く。先程から皆、ジーナの姿が気になるのか振り向く人が多い。美人具合で言うなら、リアもレイシアも似たような物だが纏う気配が違うのかもしれないな。
「剣と体、あと鎧の調子はどうだ?」
「……以前より剣と体が軽くなったのと、胸のせいか少しバランスが取り辛いな。剣速は上がっているあたり、良い肉体なのは分かる。だが、鎧に関しては軽すぎて不安になるな」
「肉体の方はエリートホムンクルス用の素材だ、軽くて力があり素早い。鎧も特殊素材を俺が仕上げてあるから、前にジーナが着てた鎧より軽いが同等ぐらいの強度だな。もし軽すぎて落ち着かないなら、重りを仕込めるようにしてあるから使ってくれ」
「考慮しておく」
「うむ。それで、冒険者がどういう物かは知っているのか?」
「依頼を受けて魔物を狩ったり、雑務をしたり……俺をからかっているのか?」
当たり前だろ?という表情で此方をジトリと見つめるジーナ。
「俺もそのぐらいの認識だから、詳しく知っていたら教えてもらおうかと思ってな」
「む、そうか」
お互い言葉が途切れたので、ジーナもそれ以上踏み込んだ事は知らないのだろう。仕方ないので現地で色々聞くとしようか。
工房通りを伯爵の館から遠ざかるようにして抜けると、其処には市場が広がっており、同時に冒険者ギルドの剣と盾の看板が見えた。
「俺の方は事前に伯爵から話を通してもらっているが、ジーナに関しては通っていないから普通に登録しておいてくれ」
「分かった」
「あと、厄介事があったらコレを見せろ」
そう言って、伯爵から譲り受けた家紋入りのボタンを渡しておく。
「この街で伯爵に逆らう奴は居ない筈だが、見た目がソレだ。バカな考えを起こす奴も居ないとは限らない。面倒だろ、一々バカに痛い目見せるの」
「……助かる」
「そんな素直だから、騙されるんだよ」
「ぐっ」
「俺は騙さんがな。なんなら伯爵の元で働くか!?給料良いぞー……扱い良いぞー……」
「"堕落と悪魔は人と黄金の形をしている"」
確か教会の言葉だったと思う。だとしたら、まさに今のジーンクラッドを指示しているな。その悪魔とやらに騙されて精神系魔術まで掛けられ、そしてこのザマだ。
「まさにその悪魔に騙されたもんな」
「くっ!?……行くぞ」
「はいはい、急がなくても組合は逃げないぞ」
冒険者組合に入ると、独特の汗臭さと酸っぱさが混じったような嫌な臭いが出迎えてくれた。男所帯だとこんな物か?と思ったが女の数も思ったより多いな。と、そこでふと疑問が浮かんだ。
「所感で良いから聴きたいんだが、この街気の所為じゃなかったら女性多いよな」
「む、そう言われれば確かにそんな気がする」
あと、俺の元居た大陸では見たことのない、低い身長の割に胸がかなり大きい種族を何度か見かけた。ドワーフは雄雌ヒゲモジャの筈だから……なんだろ、ホビット系の亜種か?
というか、この街の外では多分見かけた事の無い種族だった気がする。
「今度そのあたり伯爵に聞いてみるか」
「気になるのか?」
「売れる物にも傾向が出るからな。冒険者はそういった需要に関しての実地調査も兼ねているんだ。勤勉は金の成る木ってな」
「……色々考えているんだな」
「まぁな、商売とは考えた事が一つでも多い方が勝つんじゃないかって話だ。老舗だって、先人が色々考え、今の人達が色々考え、積み重ねの上に今がある」
「学のある話だ。商売人になるつもりはないが、覚えておく」
「うむ、言えるタイミングがあったらしたり顔で言ってやってくれ」
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