同じ釜の飯
「はいはい、冒険者ごっこやるなら伯爵に許可取ってからな。とりあえずいい時間帯だから飯作るぞ、レイシアも食っていくと良い」
パンパンと手を叩きながら、立ち上がり新設された厨房に向かうと不思議そうな顔でレイシアが首を傾げた。
「えっ、旦那作るの?」
「毎日って訳じゃないがな、一応リアよりは美味いぞ」
「あれ、リア姉そんなにご飯作るの下手だっけ、道場の飯炊きも手伝ってたよね?」
「……ルベド様が格上すぎるのよ」
リアよりあふれ出るなんとも言えない雰囲気。忌々し気まではいかないが、美味しい食事中にサラダに虫が入ってたかのような表情である。
「えっ、なんか意外……」
「錬金術師が料理も出来ないとか言ったら笑いものだぞ」
◇◇◇
食事の支度を終え、3人で食卓を囲む。今日は故郷の煮込み料理を作ってみた。
「うっま!何コレうっま!そして辛っ!旦那!これなんて料理!?」
「名前は無いが俺の住んでた地方の民族煮込み料理だな。あっちは北側で寒さが強いから、辛みの強いパララの実をベースにして野菜と鶏肉を煮込んだ物が良く食べられる。今回は塩と海藻から抽出した成分を下味にしてあるから単一性のある辛みじゃなくて、複雑性……味わいに深みのある辛さになっている筈だ。子供とか辛いのが苦手な人の場合、チーズを入れて溶かして辛さを緩和して食べたりもするな」
「大量にチーズ入ってるけど、旦那辛いの苦手なの?」
「いや、此処で全部使わないと中途半端に残りそうだから全部入れた。ほれ、レイシアもチーズいるだろ?」
「おっ、気が利くね旦那、ありがと」
皆でスープを飲みながら、ついでなのでレイシアから今後の伯爵の行動方針を聞く事にしておく。
「ああ、それなんだけど前回の小競り合い……っていうには規模が相当だったけど、アレのお陰でかなり良い感じに話が進んでるみたいだよ」
俺達の戦闘とその後砦を動かした事により、状況にかなりの余裕が生まれたらしい。周辺大国は此方の戦力を改めて分析するために、かなりの数の間者を入れると思われ、今しばらくは攻めてこないだろうという事。同時に、伯爵はそれに対抗する為の手も既に打っているとか。
後は、ヴァリア国内も今回の件を受けて結構引き締まったそうだ。あの後、マカカ辺境伯の首は第八皇子によって落とされ、第三皇子が辺境伯の代わりにあの土地を統治しているのだとか。
どうやら王族間の仲は良好らしく、面倒な奴が居たら処理して王族を置くのが現状の方針らしい。とはいえ"処理"にもそれなりの手間がかかる為に、大きな戦争を踏まえた今あまりやりたくない事ではあるらしいが。
「というか、現状ヴァリア国内の事を良く知らないんだが……前のマカカ辺境伯っていただろ、あいつは辺境伯なのに辺境伯じゃないという良く分からない立ち位置なんだよな?爵位とかどういう扱いなんだ」
「一応国境線沿いの小国に辺境伯を名乗らせていますが、あくまでも辺境伯相当であり辺境伯ではないという扱いです。逆に言えば、全員辺境伯のような扱いでもあります」
リアがそう答える。ヴァリアは今だ一枚岩にまとまり切れていない現状らしく、ある意味内包している小国全てが接敵していると言っても確かに過言ではない。
「あれ、でもこの前一緒に組んだ男爵も伯爵も辺境伯じゃないよな?」
「現在のヴァリア国内ですが、明確に現国王派に所属した場合ヴァリア王より爵位を賜り保障される事となっております。ちなみに伯爵様は将来公爵に繰り上がる予定です。同時にブルーノ男爵も伯爵に」
「ああ、皆が自分を少しでも高く売る為に、現状のようなややこしい自体に陥っている訳ね。小国が徐々に纏まり大国になる瞬間を目撃しているともいえるが……そう考えると新鮮で悪くないな」
「纏まれればの話だけどね」
と、横やりを入れてくるレイシア。何か思う所があるのだろう。とはいえ彼女の言いたい事も分かる。
「言わんとする事は分かるよ。仮にこのままもう一度大きい戦争が起きたら崩れるだろう、それまでに国王と伯爵がどの程度頑張れるかという話か」
「前回は2カ国とも此方の3カ国入り乱れての戦争で乱戦に近かったのもあって、此方もうまく立ち回ったんだけどね……今回は相手も本気で来ると思う。そうなれば旦那と伯爵様が頼りだよ」
「だろうな……いやはや、こうやって飯をいつまで一緒に突けるかね。とはいえ俺もバカじゃない、先んじて幾つか手を打つ予定ではあるが」
「それが伯爵に無理言って頼んでた釜?」
「良く分かったな」
「ふふん、見る所は見てるからね」
やはりというか、レイシアは勘が良い。戦闘に関する事に関しては非常に鼻が効くな。
「それで、あの釜で作ったホムンクルスに何をさせるのさ?」
「最初のホムンクルスは俺の盾……というより護衛を兼ねた前衛だな。前回の戦いで前衛が居なかったのもあり、ジーンクラッドと戦った時にかなりキツかった。冒険者をやるにあたって、あのクラスの敵が出てこないとも限らないし、やはり必要かと思ってな」
「はいはいはい!私が変わりに前衛やる!」
「いえ、私が!」
「落ち着け戦闘狂共。リアは雑用係で借りてるしレイシアに至っては俺の指揮下じゃないってさっき言ったばかりだろうが」
「「ええー……」」
声をそろえて落ち込む2人に苦笑いを浮かべて、食事を続ける。
「というか、レイシアは軍備の仕事とかあるんじゃないのか?」
「そのあたり伯爵が全部やってるから、アタシはあんまり絡んでないかなぁ」
確かに、あの伯爵なら下手に手を出すと逆に邪魔になる。あの後、王族が俺を頼るように色々と手を回したのでは?と聞いた所、笑ってはぐらかされた。多分7割ぐらいは彼の手の平の上だった気がする。
だが、砦をゴーレムにして動かしたのは予想外だっただろう。まぁ、彼の予想を上回れたので良しとしようか。
「まぁ旦那は頼られてるけどね、アタシの仕事も旦那に回すよう言われたし」
「えっ、あれ伯爵の仕業だったのか!?」
「あっ、これ内緒なんだった」
「……次来たら断るか」
「あー!伯爵に怒られる!!」
あの伯爵、思ったより結構ちゃっかりしているな。今後は気を付けなければ。そしてレイシアは中々に迂闊である。
と、歓談しながらの食事中に不意に扉がノックされる。ふむ、隣の鍛冶屋か釜が来たかのどちらかだろう。
「リア、すまないが出てくれ」
「畏まりました」
リアが扉を開けると、どうやら俺が頼んでいた釜を業者が運んできたらしく、一時食事を中断しての釜の搬入作業になった。
特注の釜である、相当な価格になった筈なのだが……伯爵は戦勝祝いに丁度良いと言って笑っていた。あの人の懐の深さには痛み入るばかりだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます