戦導者


戦場イメージ 

木=木造陣


 森|  木       木  |森

 森|      砦      |森

 森| 木         木 |森

 森|     木       |森

 森|  木     木    |森

   

        

       

        皇子軍

―————————————―————————————



「レイシア、今ってコッチの歴で何年?」


「聖印歴159年だよ」


「助かる」 


 改めて頭の中で情報を整理していく。


 聖印歴159年。この一戦はきっとエイオス大陸における世紀の一戦になる筈だ。そして名を残すのは、ヴァリア共和国が走狗皇子率いる1万の将兵達となるだろう。


 北軍、同じくヴァリア共和国が辺境のマカカ辺境伯が率いる6500の兵。ただし此方は実に見事な城塞に籠り、魔術兵100をしっかりと整えた防衛体制。


 普通ならブチ抜けないだろう、普通ならな。


 此方の前線指揮官である、走狗皇子……エガル・オブ・ヴァリア第八皇子は有能だ、後は此方が完璧な状況を整えれば蹂躙してくれるだろう。


 敵方の懸念事項は周辺に乱立している木造の急ごしらえの陣。

 

 兵力を分散させて動かすにあたって丁度良い距離感を保っている、物資と指揮官の数が多いのであれば非常に良い戦略だ。下手に突っ込めば複数の陣地から出て来た兵に囲まれて潰されるだろう、コイツは皇子に頼んで魔道兵で薙ぎ払って頂こうか。


 敵の戦略は2つ、此方が保有している砦攻めの為の魔術兵を木造の砦を破壊させる為に使わせる。これにより、砦側の被害を抑えるという魂胆だろう。


 無視して突っ込んで来たらあの強固な砦で此方を受け止め被害が増えたあたりで周囲の木造陣から兵を出し包囲殲滅、どうやら相手の指揮官も有能である。


 —————ここまで考え一つ、脳裏に嫌な情報が浮かんだ。


「おいおい、まさか読み切ったのか」


 もしも、もしもの話だ。もしも、あの伯爵が此方の食料が少ないという情報を相手方に伝えていたとしたらだ。


 この敵陣の配置は明らかに此方に時間が無い、あるいは損耗を避けたいという事を理解していての配置だ。直接兵の攻撃で木造の砦を攻略、魔術で木造の砦を砦を攻略。一つ一つ時間を掛けて行えばあの強固な砦までは問題無くたどり着ける。


 つまり時間と少しの兵力をつぎ込めば良いだけではある。戦争は別に1日で終わらせる必要は無い、だが相手は何故か此方が速攻を仕掛けてくるという想定で、確実に出血を強いる消耗戦の様相を呈している。


 だが、だが。


 この戦における最短攻略行動とは何か?皇子の兵で木造陣を薙ぎ払い、俺のゴーレムを砦につける事だ。

 そして、それを行いやすい陣容を敵が整えている。木造陣の有無に関しては運だとしても……いや、まさか……。


「まさか木材の流通から陣の存在を読み切った……?」


 可能性としては有りうる。彼の商才から考えるに、木の流通量からそのぐらいの読みは出来ておかしくない。相場の確認は商人の基本だ。


 で、あるならば、現在俺が頑張ればどうとでもなるという状況を完璧に作り出した?考えすぎか……いや、だが。


「状況が余りに出来過ぎだ」


 確かに、確かに彼に戦術の才は無いのだろう。だが、この状況を考えるに軍略において天武の才を持つ。そしてそれを利用して商機を作り稼いでいるのだ。


 戦場での図り事など、商人同士の図り事に比べれば天と地の差だろう。戦術はバカでも出来る、なにせ兵のほとんどがバカだ。……戦略もかろうじてバカでも出来る。


 だが商人など大概が知恵者の集まりだ。バカでは即座に金を失う事など想像に容易い。


 その証拠に、現状、俺というピースが当てはまればどう転んでも最悪の事態は避けれる。


 俺のゴーレムの運用が失敗した時点で大勢は決したも同じ、物資の関係上一旦引かざるを得ないだろう。であるならばここで失敗して失うのはゴーレムの兵のみ、皇子の率いた兵や伯爵の兵力はほぼ失われない。

 皇子もコレを力押しするようなバカではない、ゴーレム運用が失敗すれば即座に他の木造陣を焼き払い撤退するだろう。相手は平地で戦えば敗北確定の兵力差だ、出てきてやらかす事も無い。即ち追撃を受ける心配も無い。


 俺を試している。本当に使える存在なのか、あるいはただのほら吹きなのか。


「キヒヒ…」


 知らず、笑みが零れた。


「旦那?」


「ああ、気にするな」


 レイシアに訝しそうな視線で見られた。まぁ良い、それよりも状況整理を続けよう。


 概ね倍数であるとはいえ、あそこまでしっかりと固められた城塞に対し、力押しは無謀。それは皇子側も理解しているようで、俺を頼りとしている。いや、頼りとせざるを得ない状況を伯爵によって作られている。

 今回の戦では如何に兵力を温存するかが肝となってくる為、力押しなど最初から論外だ。皇子も、飼葉や物資の数が少ない事から無理そうなら適当に帰って来いと、そういう事だと薄々理解しているだろう。


 皇子にとっても離脱の言い訳になるだろう、5000の大軍を率いて現場に来て、何もせずに帰るなど軍部に携わる者がして良い行為ではない。だが前提条件である兵站がしっかりしていなければ、伯爵が泥を被れば良いのだから。


「旦那ってば」


 レイシアの声に振り向くと、なぜか頬っぺたを膨らませて此方を見ていた。


「なんだ?」


「一人でずっと唸ってるから気になるんだよ」


「ああ、ジスタニア伯爵がこの戦場を読み切ってたみたいでな、その手腕に唸っていた所だ」


「でも軍事方面の才能無いって言ってたよ?」


「だから商才を最大限利用して、最小の損耗で勝てるように形作ったんだよ」


「うん?どういう事?」


 先程自分が頭の中で考えていた事を端的に言うと、レイシアもうーんと唸ってしまった。


「流石に考えすぎじゃない?」


「幾つか賭けになる所はあるが推測自体は可能だし、状況を鑑みるにあまりに筋が通り過ぎている。他所から来た俺を特別軍事顧問なんて所に押し込んでるんだぞ、これが偶然だとすればそれこそ軽い奇跡だろ」


「なるほど」


「その実力を軽く見積もって良い物ではないだろうさ、精々、俺達も切り捨てられないようにがんばって動くとしよう」


「分かった、それで私の配置ってここで良いんだよね?」


 そう言って俺の手書きの地図を差し出されたので、小さく頷いておく。この配置では完全に前衛に絡む事が出来ない配置だ。勝利前提で追撃を仕掛ける配置と言って良いだろう。


「勝てる?」


「勝てなきゃ伯爵に首切られかねんよ、怖い怖い」


「笑ってるけど」


「笑いもするさ、此処まで舞台を整えられて踊れない奴は男の子じゃない」

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