砦
「して、そろそろ件の砦が見えてきてもおかしくない筈だが……丁度斥候が帰って来たな」
ジーン騎士が馬の上から僅かに背伸びするようにして、焦り駆け寄ってくる斥候の姿を捕らえたようだ。どうやら彼も早くゴーレムの活躍を見たくて気が急いているらしい、口が裂けても言わないけど。
「報告致します!前方にて敵砦と思わしき建造物を発見、相手方は此方の接敵を感知してか門を閉じて守勢を見せております!」
「ほう、おぬしから見て砦はどうだ?」
そういって此方に視線を向けて来るジーン。何故此方を見る……とはいえ、特別顧問としての仕事はしないといけないか。
「砦の材質は対魔力を持った物と魔術により強化された物を交互に混ぜた建築です。先ほどから索敵系の魔術を使用して内装を確認しようとしていますが通りません。さらに言うならば、この建築方法は……私の元居た大陸の技術な気がしますね」
「ほう?」
「つまりキミの大陸から流れて来た人材があちらに肩入れしていると?」
「ええ、海上封鎖や技術面の流出を防いでいたのは自分および弟子が主導でした。人材の流出等には気を付けていたのですが、恐らく自分が一線を退き弟子が引継ぎを行っている最中の混乱を狙って外に出たのでしょう……それに、幾つか不確定ながら此方でも相手側の怪しい動きを掴んでいますので」
推測でしかないが、先の聖剣持ちの人とかモロにそれの煽り受けている気がする。中立が変な動きしだしたという事は、相応の技術や人材が横から入って……という事だろう。
俺と我が王が内乱でやらかしてた期間から逆算するに、割と早い時期に大陸を抜け出したと見える。中々目ざとい事だ。
最悪ゴーレム系の技術は敵方も使ってくる可能性があると見て良いだろう、とはいえ此方と違い量産化は出来ない為其処までの脅威になるかは微妙だが。
いやはや、まったくまったくもって技術流出を極限まで抑えた甲斐がある物だ。いや、ここに来ては流しても良かったかもしれないな?他の連中の作ったゴーレムやホムンクルスと争えるのは貴重な体験だ。
あるいは、此方の大陸で何か刺激を得て新たな物を創造してくれる事を望むとしようか、その時ぐらいは前線錬金術師として堂々と戦いたい物である。
小高い丘を越えると、3人の目前にその砦の全容が目に入る。同時に、皇子とジーン騎士が思わず息を呑んだのが聞こえた。
まぁ、気持ちは分かる。ほぼ小型の城と言って良い砦だからな。というか、一応レイシアから絵は渡されていただろうに。
「絵とほぼ変わらないな、知っていたのか?」
ジーン騎士が目ざとく此方を見た、恐らく驚く素振りすら見せなかった為にこの砦の事を事前に察知していたという事がバレたらしい。
「諜報は戦の基本です、それに特別顧問まで驚いていては恰好が付きませんので」
「それは、問題なく落とせると言う事で良いのかな?」
皇子がやや心配そうに聞いて来た。
「おや、もう始めますか?」
そう言って、純白の手袋を懐から取り出しモノクルを掛け、鉄扇を手に持つ。これはあくまでも指揮官に徹するという自らへの戒めだ。手袋を汚さず、モノクルを割らず、相手の頭もカチ割らない、そのようなある種の儀式に近い行動だ。
「気が早いな、先に兵を休めてからだ」
「であるならば、丘を越えさせない方が良いでしょう、アレを見ながらの休憩は弱い心なら簡単に潰す」
「ああ、そうしよう。伝令はいるか?」
皇子が素早く後続の兵達を止めて休憩の旨を言い渡す。さてはて、此方もお手並みを見せる準備としゃれこもう。
「レイシアと少し相談してきます」
「まとまったら後で報告をくれれば良い、此処に至ってはルベド殿の方が上手く立ち回れるだろうし我々が変に口出しをするよりは良い結果になりそうだ」
と、そこで皇子の言葉を正しく理解する。
「まったく、ウチの伯爵様と来たら何処まで有能なら気がすむのか」
食料を減らしたのは皇子達に確実に俺を頼らせる為、そして皇子達から俺の持つ指揮権への横やりを防ぐ為だ。数日の食料でははっきり言って長期戦は不可能であり、短期戦であるならばゴーレムの運用効率を最大限まで引き上げる必要がある。
余分な物があれば他の奴等が余分な事をしてしまうスキを与える。どちらにせよゴーレムが無ければ成り立たない策であるならば、最初からソレに全ての掛け金をベットする事をためらわない……そういう事なのだろう。
皇子達の思考を読み、戦場を読み、敵の陣容を朧げながらも読んで見せた。流石に聖剣持ちの超人というイレギュラーはあったが、結果として俺を投入する事で解決に導いた訳だ。
背筋が凍る思いだ。商人としては俺なぞ足元にも及ばない、商機を理解し投資の機会を逃さずその為の道筋を作り上げる。行った事は確かに商人としての本分だが、それを此処まで軍事行動にあてはめられるとは、本当に軍略が苦手なのか今一度問い詰めてみたい気持ちが溢れる。
補給、準備、進軍、全てを一本の道筋に重ねて勝利と言う利益を抑える。いやはや……彼の実力を見誤っていたのは俺だったようだ。
◇◇◇
「という訳でレイシアよ、そちらは砦から逃げ出すであろう連中を狩って欲しい」
「どういう訳か分からないけど背面に回り込んでおけば良いの?」
「大体その認識で良いぞ、一応敵の持つ他の陣地と連携を受けない位置取りを意識してくれ」
「軍略は分からないけどやる事は分かった、囲まれないように出て来た敵を叩けば良いんだろ?兵は伏せて移動する感じ?」
「見られても構わない、それにしてもレイシアは素晴らしく賢いな……」
レイシアの理解力の高さに感動しつつ、簡単な打ち合わせを行い軽食を食べる。一応言うならば戦の前に物を食べるのは本来あまり良くない行為と言って良い。理由としては動いてる途中にお腹が痛くなったり、槍が腹部に刺さった時に胃の内容物がブチ撒けられて炎症が起きたりするのだ。
しかしまぁ、俺は指揮官なので問題無い。レイシアも……問題無いと思うよ多分、最悪俺が治療するし。
「それにしても、皆に身体強化のアミュレット配らないのは伯爵もどういう判断だったんだろ?」
と、レイシアが素朴な疑問を口にした。今回俺が納品したアミュレットは使用されずに俺の手元に戻ってくる事となったのだ。
「純粋に訓練日程が取れなかったからな、慣れない物を使ってヘマするより既存の運用で安定した活躍を望んだんだろ」
「私は使いたかったなぁ……」
「今回は使わなくても問題無いと思うぞ、どうせ直ぐに終わる戦いだ。終わらなかったら失敗だし」
「次回に期待って事かぁ」
「そうなるな」
苦笑いを浮かべてポンポンと頭を軽く叩くと大きなため息をつくレイシア。まったく、ウチの騎士様は本当に好戦的だ。
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