聖剣 1

 現在地はやや険しい山道を通っている真っ最中。進軍ルートに関しては奇襲の受け辛い場所を選択してのルート取りである。ここを抜ければ目的地の城塞まで目の前だ。

 此方の兵数が少なければ恐らくではあるが、山道を抜けた先の平地で野戦と相成った事だろうが今回はそうはならなさそうだ。


 周囲に漂わせていた鳥型のホムンクルスを体の内側に戻す。索敵の仕事は一旦終わり、此方で拾った情報をレイシアに与えて第八皇子に確認を取ってもらうべきだろう。


「ルベドの旦那、さっきから何を書いてるのさ?」


 俺が紙を片手に乱雑な殴り書きをしている様を見て、首をかしげ聞いてくるレイシア。地図の書き方が独特なので一見して地図と分からなかったかもしれないな。


「ああ、さっきの鳥のホムンクルスから拾った情報で地図を描いている。精度は9割5分と言った所だが、ひとまず大まかな算段ぐらいは立てれる」


「……それ片手間で書いてなかった?」


「今回のは下書きみたいな物だからな、必要なら清書するし作戦行動に必要な情報は最低限書き込んでいるから安心してくれ……とりあえず敵が潜んでそうな地形は全て確認したが、少数の斥候しか見つけられなかった。罠は分からないが奇襲は無さそうだな」


「片手間で9割5分の精度の地図は高すぎると思うんだけど、いや、それより少数の斥候が出てるのか、こっちの陣容は割られたかな?」


 少し険し目の表情を見せるレイシア。とはいえ現状全容が割られようが割られまいが大した差は無いのだが。


「流石に全容は分からないだろうが、少なくとも相手に籠城を決め込ませるぐらいの人数である事は発覚していると考えて良い」


「分かるの?」


「敵城塞付近の小さい陣が撤収を始めてる。城塞とはいえ流石に6500も詰めるとなれば手狭だし、周辺に宿泊用の木造拠点を作って戦力を多少分散させているようだ。今はそっちの木造拠点の要塞化を急いでいる感じだな」


「6500?報告より多くない?」


「急場で雑兵を集めたようだ、目標の砦に詰めている数自体は4500で変わりないよ」


「どっから追加で集めたんだか……」


 従軍している魔術師に恐らく土木作業に精通した魔術師が複数人居るのだろう。中規模拠点の方も、急ピッチでそれらが組み上がっていた。これは警戒した方が良さそうだな。


「急がせたら固める前に当たったりできないかな?」


 レイシアが少し歯痒そうにそう言った。気持ちは分からない訳でも無い。だが、リスクがな。


「速度を上げればギリギリ食いつけるかもしれないが……罠がある場合無視しながらの進軍になる。犠牲覚悟で行った所で被害に見合うかは微妙な所だな」


 土木系が得意な魔術師が詰めている場合は、道中のトラップに警戒しないといけない。俺ならば少なくとも落石や地面の崩落トラップを仕掛けるだろう。

 とはいえ、今回の相手の動きにはかなり違和感を感じる。トラップを仕掛けられていない可能性も確かにあるのだが、不確定要素を進軍に組み込みたくはないな。


「うーん、そう上手くは行かないか」


「何、このままいけば勝てるのだから左程問題無いだろう。それより、この地図と今述べた情報をそれとなく皇子に流しておいて欲しい」


「街から離れたし、今なら旦那が直接言いに行けば良いんじゃ?」


「いや、立場がな……」


 お互いの格の差があるので、色々とな。


「皇子は気にしないぞ?」


「俺は気にするさ」


「そんなものなのか?」


「そんなもんだ、地図の読み方が独特だからそれだけ教えておく。あと……これが砦の大まかな全容と、中規模な陣の絵だな」


 先んじて書いていた2枚の紙をレイシアに手渡すと、少し難しそうな表情で此方を見た。


「これ本当に崩せる?」


 絵に描かれていた陣容は彼女が思っていた以上の物だったらしい、もっとも俺の予想以上でもあった為に仕方ないだろう。


「余裕だ、その気になれば俺一人で崩せるが……そんな事ばっかりやってたら俺が死んだりいなくなったら立ちいかなくなる。それに、人と人の繋がりというのはやはり強い、戦場はそういった物をより強くする場でもある」


「だったらもっと旦那が前に出て良いんじゃ」


「苦手なんだよ、人付き合い。それに俺一人で大体なんでもできるから頼られる事の方が多い、全部に付き合ってたら時間が無限に足りなくなる……研究者気質とはよく言われたがそういう事なんだろうな。必要なら呼んでくれ、しばらく此方は罠の類の警戒に回る」


 そう言って、6本脚の馬のゴーレムを空に向かって歩ませる。このゴーレムの脚にはそれぞれ魔術障壁の発生装置を組み込んであり、空を歩ませる事も可能なのだ。空を飛ぶよりも魔力消費が格段に低い為に、魔力量の低い俺でも魔力に気にせず対空戦を行えるのはありがたい。


「ちょ、旦那!?」


「安心しろ、呼べばすぐ行くから」


 周囲の兵がギョっとした目で此方を見たので軽く手を振って高度を上げていく。さてはて……進軍の前にやる事が出来てしまったのだから仕方ない、先んじて俺の仕事を終わらせるとしようか。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る