いざ往かん
格安でポーション薬等を仕入れ、此方側で出来る追加の軍備も完了。ついでに隠し玉の魔術も準備完了。ちなみに身体強化のアミュレットは、時間が無くいきなり実践投入は危ないと伯爵に止められ、此方側で再利用する形となった。
その他武装や魔術を入れたスクロールを差し込み、このまま雑兵に突っ込んでも軽く二千や三千は蹴散らせる重装備だ。……いや、そんな事したら他の人達が困るからしないけどね。
「では、留守を任せる」
「はい、お気をつけて」
尚、リアは今回お留守番である。本人は出たがっていたが、留守を任せる人がいないので仕方ないだろう。
俺が普段から使っている馬のゴーレムに跨り最終確認を行う。余談ではあるがこのゴーレム一つの作成で国家予算が消し飛ぶ程の高級品である。外見は捻じれ角に6つの脚を持ち、性能は走破できぬ場所は無いと言い切って良い程の走破性を持つ。
なにせ空や海を翔るのだ。当然ながら陸地であれば崖だろうが垂直に駆け上がる。
「行くぞ」
ゴーレムを駆り、領主の館まで屋根を飛び渡りながら進むとレイシアと一団を捉えた。
「ルベドの旦那!」
レイシアが手を振ったので振り返し、他の馬や人を驚かせないように空白地に降り立ち、改めてレイシアの元に向かった。
「此方は万全です、そちらは?」
「こっちは騎兵だからブルーノ男爵率いる歩兵連中は先に行かせてる。それよりも、随分立派な馬だな!」
「1体作るのに国の国庫が吹き飛ぶ金額を掛けていますからね。正直正気の沙汰じゃないですよ」
「うへぇ、それは凄い……あー、なんだ、別に普通に喋ってもらって良いぞ?アタシはそっちの方が楽だし」
ニカっと屈託なく笑うレイシア。こんな笑みを見せられては敬語で喋るのもバカらしいという物だ。
「そうか、では遠慮なく……しかし予定より騎馬の数が多い気がするが、城攻めに騎兵を使うのか?」
「今回はどちらかというと荷物持ちの側面が強いよ、ブルーノ男爵の見立てだと彼我の兵力差的に相手方は即座に引きこもるんじゃないかって、それに第八皇子に合流した際にあっちの荷物を多少持つ予定でもあるし」
なるほど、戦場以外ではウチの伯爵様は本当に有能らしい。手回しから何から見事という他ないな。
「ふむ、第八皇子……以前も話に出てたな」
「うん、走狗皇子なんて呼ばれてるけど気の良い王族で多分アタシ達と結構関わっていく事になると思う」
「走狗皇子とはそれはまた」
随分な言われようだが、レイシアの言葉からも別段侮蔑を感じ取れない。表立って言われているあたり、立場的に曖昧な感じなのだろうか?
「継承権放棄させられた変わりに王族直下の親衛隊……の訓練部隊の直接指揮を執ってる人。今回みたいな悪さする他国への折檻を何時もやってるし、国内では負けた事は無いから普通には戦えるよ……っと」
「レイシア様、最後の積み荷の積載完了いたしました」
「よし、馬にあまり負荷をかけない速度で行くぞ、出陣!」
レイシアの号令に合わせ、周囲で楽器が響き渡り、騎馬300騎が緩やかに歩みを始める。
「伯爵は?」
「門上で皆を見送ってる、期待しているってさ」
「当然、恩義は果たす。それが出来なければ此処に居る価値も無い」
その言葉になんとも言えない表情を浮かべるレイシア。
「なんて言うか、ルベドの旦那って変わってるよね」
「よく言われるよ、ただ義理堅いだけなんだけどな」
「その義理の中に、自らの命を賭けるってのは入ってるの?」
「命も掛けずに出来る事の方が少ない。例えばレイシアは命も掛けずに戦場に出れると思うか?」
「無理だね」
「そういう事だ。人を殺す物を作るのなら、自らも死を覚悟しなければならない。人を殺すのなら、自らも命を天秤に乗せ続けなければならない。ただ生きるだけでも、商いを行うだけでも……日々を生きているだけで命を脅かされる危険はある。他人の為に賭けようが自分の為に賭けようが、危険も到着点も同じだ」
「達観してるなぁ」
「そうかな?」
「アタシはもうちょっと流れで生きてるかなぁ?あ、でも伯爵が拾ってくれたのは幸運だったし間違いじゃなかったと思うし、命を賭けても惜しくないよ」
「それと似たような感じだな」
「うーん?じゃぁ思ったより単純なのかな?」
「その通り、変に頭が良く見えるから勘繰られるが別段悩みも考えもレイシアと左程変わらない。困った事があるなら自分一人で大体なんとかなるし、なんとかしてしまうから警戒されるんだが……もっと頼るべきかね」
「自覚あるなら頼るフリでも良いんじゃない?」
「そうか、ならレイシアに早速頼るかな」
「おっ、何々?伯爵様からは最大限手助けするように言われてるから、大体の事ならいいよ」
「この戦争終わったら絵のモデルになってほしい」
「……うん?」
「いや、趣味で絵を描くんだがモデルが居なくてな?リアに頼もうと思ったんだが、既に色々手助けしてもらってるから頼み辛くてな」
「あー……まぁアタシはコレ終わったら暫く暇だからいいけどさ、見ての通り絵のモデルには向かないよ?」
暇……というよりは、物資等の補給は彼女の副官と伯爵の仕事なのだろう。
「そこは俺の腕次第という奴だ。上手く出来たら売って資金にする予定でもある。伯爵から金の無心をし続けるのは、少々心苦しいからな」
「へー……絵って高い?」
「腕前、芸術性、時代、落札する側の感性と自分の感性の一致、色々な物が合致すれば天井が無い。もっとも、大概の場合はそれなり程度の値段で止まる……でなければ書く側、買う側にとって色々厄介だからな」
「ルベドは絵上手い方?」
「模写ならほぼ完璧に出来る。風刺画なんかも得意だな……ああ、今回の戦場風景も伯爵の手土産に書くか」
「おお、それは伯爵が喜びそうかもしれない、あの人あんまり戦場に出ないし」
「出来ない事と出来る事を区別して、自らの出来る行いに注力しているんだろう。出来ないバカが無理して出張って混乱させるよりも、はるかに賢人だ」
「フフ、辛辣」
そんな雑談を交わしながら、4日程移動に時間を費やす。大体1日事に町や村に用意されたテントなり宿なりで一泊しながら、5日目の昼頃に大規模な都市で噂の第八皇子と合流する。
というか凄まじく潤滑に進軍が進んでびっくりしている。恐らく通常なら後3日程は掛かっていたろうに、荷物運搬の効率化と事前準備で此処まで変わるか……。それでありながら兵の顔にも疲れは見えない、見事の一言だ。
さて、王族の対応だが基本はレイシアが全て行う。伯爵名代なので現時点で軍部のトップとなる為に当然と言えば当然か?一応レイシアには俺がゴーレムを使い城門及び魔術部隊をなんとかすると言う旨を、あちらに先んじて伝えておいて欲しいと言ってあるが……。
「あちらは一応問題ないってさー」
「おや、顔通しぐらいするかと思ったがな」
「一応継承権無くても王族だから、街が近いと色々しがらみがね」
「ああ、なるほど」
いつの時代も
あと、何故かレイシアではなく俺の手元に回って来た受け取り資材表を確認しながら、幾つか気になる事をレイシアに確認しておく。
「飼葉……いや、資材が全体的に思ったより少ないな」
あんまりゆっくりしてると足りなくなるぐらいの物資量。此処まで段取りが完璧であった為に微妙に気にならなくもないが……。
「短期決戦仕掛けてギリギリって感じかなぁ、旦那の見立てだとどう?」
「二日以内で終わらせる必要があるな、伯爵ならもう少し余裕持たせると思ったんだが」
「それは確かに、裏で何かあるかもしれない」
「まぁ、どちらにせよのんびりして兵糧や資材を無駄に消費するつもりもない、左程問題無いだろう」
そうして、再度進軍が開始された。
レイシアは第八皇子及びブルーノ男爵とレディア騎士との馬上軍議を行う為に、一旦俺がレイシアの部隊を率いる事になる。大丈夫なのかコレ?
「指揮系統緩いのが気になるな」
そんな事をボヤいていると、馬に乗ったレイシアの副官らしき兵が此方に馬を寄せて口を開く。
「問題ありません、第一指揮権をレイシア様が有し、第二指揮権をルベド様が有しております」
「伯爵からの信頼が重い、まぁ……精々無様をさらさないようにするさ」
「今回の戦、勝てますか?」
「ん?最初から勝てるのは確定だが、後はどの程度の被害を抑えられるかという話だ。俺側で被害を限界まで抑えるから、諸君等は……うん、城から逃げ出す兵を追撃する事になるだろうな」
「ゴーレムという物を見た事が無いのですが……それほどの物ですか」
「今回で分かる。人間の兵とゴーレムを混ぜた部隊編成もあるが、その場合兵側にも相応の訓練が必要になってくる為に今回は見送った。それに騎兵とゴーレムを合わせた戦術は色々制約が多いし、手足のように操れる部隊でなければ失敗する事も多くてな」
そんな話をしながら、幾つかローブの袖口からホムンクルスの鳥を空に飛ばす。この鳥と俺の視界は繋がっている為に、戦場全体を俯瞰視点で見れる。
「その鳥は?」
「手を出してみろ」
そう言って手を握ると、俺の視界と同じように空から大地を見下ろす兵長。急に視界が切り替わった為に驚き馬から落馬しそうになるが、俺がしっかり支えて事無きを得た。
「うわわっ!?」
「ハハ、凄いだろ?さっき飛ばした鳥の視界だ。あっちの大陸じゃ、先に鳥を落としておかないと圧倒的不利になるって言うんで、対空魔術も結構発達しててな……まぁ対策とその対策で延々と研究開発してたな」
「す、すごい……こんなの戦争が変わりますよ!?」
「変えたんだよ、前線錬金術師達が、その手で……この手でな」
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