軍議3
「くっ、悔しい……ちなみにこれ対処方法とかあるのか?」
とても悔しそうに、半分に折れてうごめくゴーレムから剣を引き抜くと、えいえいとそのゴーレムを突いて仕返しするレイシア。なんだか道端で虫を突く少女のようにも見える。
「歩兵が対処する方法としてはメイスですかね、両手両足を砕けば良いですが結構な腕力が必要になります。一番簡単なのは高威力の魔術を叩き込む所でしょうか?これがまぁ攻城槌で城に肉薄すれば……」
「魔術を撃たなければ対処できませぬな、其処で魔術の無駄打ちをさせた後に、後詰を寄せれば被害を格段に抑えられると」
レディア殿がそう言って、倒れたゴーレムを注意深く観察している。下手をすれば将来的にはこれを相手に回す可能性もあるのだから、そうもなるだろう。
「ご理解いただけて幸いです。とにかく兵の損耗を減らす為に相手に消耗させ、本命の部隊を踏み込ませる為の消耗品と考えて頂ければと」
「気になったんだけどさ、普通にコイツに武器持たせても強くないのか?」
レイシアが立ち上がり剣の泥を振り払いながら問いかけて来た。まぁ実際の所強いは強いがそれなり止まりだ。
「強いですが、同じゴーレム同士の当たり合いになった場合武器は有っても無くてもそこまで変わらないので、此方の大陸では徐々に無くなりました」
「確かに相手も使ってくるなら意味はないか、しかしそうなると本当に戦争が変わるかもしれない」
男爵が眉間に皺を寄せて49体のゴーレムを眺める。自分自身ならどのように運用するのか考えているのだろう。とはいえ、既に此方には十年近いゴーレム運用の歴がある。そう簡単に新しい運用方法が生まれても困る。
「ええ、しかしこれは序章です。私の技術を以って、この大陸の争いは過熱していくでしょうね」
「他にも色々とあるのでしょうが、それは先のお楽しみとしましょうか」
男爵の言葉に頷き、パチンと指を弾くと半分にへし折れていたゴーレムが修復され、立ち上がり直立不動になる。
「レディア殿も一戦如何ですか?」
「ううぬ、本来ならば願ってもいないのだが、戦の前に無理をするのを妻から禁止されていてな……恥ずかしながら若い頃にそれで失敗して面目を潰した苦い思い出がある」
凄まじく渋い顔をしながらそう言って首を振るレディア殿。ううむ、腰でもいわしたのだろうか?なんにせよ、無理強いは良くないな。
「なるほど、自らに縛りを強くかせるのは将として優れたる資質。恥ずべき事では無いでしょう」
「そう言って頂ければ少しは気も楽になるという物」
「はいはいはい!アタシはルベド殿と戦ってみたい!」
そう言って元気よくピョンと跳ねて手を振るレイシア。伯爵は苦笑いしているが止める様子も無い、という事は……まぁ良いという事なのだろう。
「良いでしょう。一度目は私は本気で、二度目は勝負になるように調節して戦います」
「言うじゃん、さっきは不覚取ったけど対人戦じゃこの領で一番だからね!それで伯爵様の騎士になったんだから、早々負けないよ」
先程と違い、体に魔力を纏いながらそう言う騎士レイシア。なるほど、身体強化も行えるタイプか。先ほど使わなかったのは純粋に一般兵としてアレと相対したからか。
「伯爵様、適当な所で止めてくださいね」
「おや、私が審判かい?武術はあまり得意じゃないのだけれどね……」
肩を竦めて困った表情を浮かべる伯爵。体はそれなりに鍛えていそうだが、あまり強くは無いのか?
「では、僭越ながら某が」
誰に頼むかと迷っていると騎士レディアが変わりをかって出てくれた。彼も相応に強そうなので危ない時はしっかり止めてくれるだろう。
「訓練用の武器を用意させる。少し……」
「おや、此方は何時でも準備完了ですよ」
「アタシも何時でも!刃引きしてなくても寸止めぐらい出来るよ!」
「ああ、即死しなければ自分で治せるので大丈夫ですよ」
伯爵が困った表情を浮かべ、信じるぞ?とレイシアに声をかけた。まぁ加減とかあんまり出来なさそうな子なので仕方ないだろう。首とか飛ぶと少し不味いかもしれないな。
意識をより鋭く切り替える。
常在戦場、前線錬金術師において最も重要視される物だ。自分達は敗北しても良いが、死ぬ事は許されない。生きていれば次に繋げてより良い物を作りあげて再戦する事は可能。しかし、死すればそこまでだ。
不意打ちこそ恐れろ、真正面からマトモにやりあってくれる敵など居ない。暗殺をこそ恐れろ、常にその手法を深く学ぶ必要がある。武器が手に無いからと泣き言など言うな、無手であろうと戦う術は腐る程ある。
「では、はじめ!」
言葉と同時に魔術を行使。瞬間、クレイモアを構えたまま膝から崩れ落ちるレイシア。ピクリとも動かず完全にその動きが停止する。
「まぁ、一対一で自分に勝てる人類はほぼ居ないんじゃないですかね」
そのまま手刀でトンと頭を叩いてレディア殿の方を見ると、小さく頷き声を上げた。
「勝者、ルベド殿!」
「これは……」
「魔術、ですかな」
「典型的な幻術によるハメ技です。とはいえ、方法は企業秘密ですが」
トントンとレイシアの肩を叩いた後、軽く頬っぺたをペチと叩くと徐々に目の焦点があって此方を見据えた。
「うぇ、あぇ……あれ?」
キョロキョロと周囲を見渡し何度も自分自身の体を触って確認するレイシア。
「はい、お帰りなさい」
「今の多分幻術だよね!?レジストしてるのにレジストされないのどうなってるの!?」
「企業秘密です、ちなみにこれ一対一で破られた事一度も無いですよ」
「滅茶苦茶だぁ!!」
「はい、前線錬金術師相手にマトモな戦いになると思わないでください。あるのは一方的な虐殺か、罠の一環で表面上まともに戦えているように見せているだけです。はい、二回目だから今度は普通に剣術だけで戦いますよ」
スクロールを取り出し、訓練用のツヴァイヘンダーを取り出すと不満げに再び剣を構える少女。確かに納得は行かないだろうが、負けは負けと理解しての行動なのだろう。
「同じ武器、また何かする気だなぁ?」
「おや、お気づきですか」
「身体強化は使っても?」
「もちろん、此方も使いますので」
武器に関しては、外の大陸のツヴァイヘンダーの剣術を見せる為にわざわざ取り出してみた。まだ若いだろうし、こういった訓練で他の流派の剣術も学んでいった方が良いだろう。俺も前は色々な剣術や武術を学んだ物だ、その度に新たな発見や通ずる所を得た、そして全てが血肉となり今がある。彼女もそうあって欲しい物である。
「では、はじめ!」
再び騎士レディアの声が響いた。今度はお互い身体強化のみである為に、純粋な技量勝負となるだろう。
先手を取ったのはレイシア。高速で間合いを詰めてやや低い身長を生かした下段からの切り上げだ。大型武器の場合、筋力が足りなければ切り上げは十分な威力を発揮しえないが、彼女にとっては些細な問題という事なのだろう。
「おっと」
なるほど早い、先もゴーレムに一撃を入れていたのを見たが凄まじい速度だ。恐らく身体強化の魔術を用いた状態であれば、超人と呼ばれる"人外"に一歩足を踏み入れているのだろう。
後方に一歩下がり、迎撃の構えを行う。一つの行動で相手の行動を効率的に潰す、それが術理という物だ。
「ハッ!」
地面スレスレから飛来する切り上げに対し、此方も頭部を狙った刺突を繰り出す。此方の剣は最短距離で弱点を狙った物だ、故に彼女よりも先んじて頭部を間合いに捉えるが首の動きのみで回避された。なるほど、目が良い。
そのまま刺突を切り下げに派生させる。重量が重いからこそできる技ではあるが、それでも威力は乗り切っていない為に刃が当たっても大したダメージにならない、精々体制が崩れる程度だろう。
レイシアと視線が合う。肩を切ったと思ったが、上手く捻りを加えて回避され此方の刀身が地面についた。同時にレイシアから飛来する鋭い一撃。
俺は刀身の先端に重量をかけ、棒高跳びの応用で高く飛ぶ。
「上手い!」
思わずブルーノ男爵が声を上げた。だが、これは俺の判断が少し甘い。
「ハァァァッ!」
気迫の乗った咆哮と共に切り上げからそのまま円形軌道を描くレイシアの刃。空中にいる此方を捉える動き、一撃を当てる為の攻撃の繋ぎは中々に上手い。というか、完全に威力を乗せきれない体制からここまでの斬撃を派生させられるのか。
「ほっ」
レイシアの刃の刀身を蹴り、そのまま横に飛びながらツヴァイヘンダーを鉄糸で引っ張り手元に戻す。レイシアは流石に今の連携全てを回避されると思っていなかったのか、目を見開いている。
「おお……」
伯爵が目を輝かせてみている。彼にとっては手の届かぬ領域での戦いを間近で見れて楽しいのだろう。
「今、アタシの首跳ねれたよね」
「剣が重くてそこまで出来ないんですよ、無理に行って失敗したらその後のカウンターでやられかねませんし、安全第一という事で。ちなみにロングソードなら多分今ので勝ってましたね」
「ああもう!悔しいな!」
再び剣を構えて此方を見据えるレイシア。どうやらまだ闘志は折れていないらしい、そうでなければ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます