軍議2

「本来であればこれをそのまま持って行って使って頂きたいのですが、運用には基礎知識と専門的な魔術知識が必要となります。なので、今回は私が同行し敵の弓・魔術の攻撃を引き受けつつ、城壁を開く所までをこのゴーレムで行いたいと思います」


 俺の言葉に伯爵が少し渋い顔をした。


「それは……ゴーレムを使いつぶすという事では?」


「構いません、そもそもクレイゴーレムは命がけでの攻城兵器等運用といった危険行為や、元来傭兵で補う使いつぶしの効く雑兵を想定して作っています。想定通りの運用という事です」


「しかしそうなると、此方から返せる見返りが……」


 なるほど、伯爵からすれば値千金に値する技術を使い潰すという行為に見えるのだろう。


「いえいえ、私の有用性を知って頂ければそれで良いです。このルベド、伯爵様には格別のご恩を賜ったと理解しております。ならばこそ、こういった所で役立つ事で少しでも恩返し出来ればと存じますれば……それに私の商品がどの程度の実力を持っているのか、皆さまにアピールする商機とも言えますので」


「それは、我々でも購入できるという事ですか?」


 すかさず食いつく男爵。いいね、話が早い。


「はい、しかし現在は設備が伴わず即座に……という訳には、しばらくは伯爵殿から頂いた金銭で基盤を整え、将来的には伯爵家と関わり深い家から少しづつ販売させて頂く予定で御座います。もちろん、窓口は伯爵様になりますが」


 その言葉に考える素振りを見せる男爵と、満足したように頷く伯爵。伯爵家をしっかり間に噛ませる事で、伯爵の顔を立てつつ利益を流す事も忘れない。


「ですがまぁ、一度使う所を見て頂くのが――――」


 と、言いかけた所で急に軍議室の扉が開け放たれる。


「ごめん伯爵!遅れた!」


 肩までの銀髪に胸甲、小手と脛甲といった主要部を固めるだけの軽量な鎧をまとった、活発そうな可愛らしい少女がアーメットヘルムを小脇に挟んでズカズカと入り込んできた。彼女は……どちら様?


「あれ、子供?」


 此方を見て小首をかしげる少女。鎧を見ると軽量化されているように見えるが、その割に武器は刀身太めのツヴァイヘンダーという重量のある物騒な物を背にかけている。機動性と一撃を重視しているなら、エストックの方が良くない?とは思わなくはない。


「これでも皆さんと大体同じぐらいの年ですよ」


「え"っ"若作り凄くない!?ちなみに私は15歳ね」


「こら、騎士レイシア、挨拶しなさい。こちら特別軍事顧問のルベド殿だ」


 騎士レイシア。伯爵の騎士?この子が?他の人員を差し置いて、というのもおかしいが相応の実力があるという事なのだろうか、いかんせん自分は武芸者の実力を看破する能力にいまいち欠如しているので、大体しかわからない。

 分かるのは大体四段階、素人、武芸をやっている、武芸をやっていて結構強い、超人及び人外魔境ぐらいだろう。レイシアは武芸をやってて結構強いにあたるが、彼女とリアとの実力差とかはよく分からないぐらいの認識である。というか正確にどれぐらい強いか分かる達人共がおかしいのだ。


 まぁ、自分の場合大体の人が自分よりも弱いというか……開幕即死しなければどうとでも戦えるので、一部の超人相手でも無ければどうとでもなる。超人の場合でも対策してから戦えばどうにでも。


「へー……この人が伯爵が最近噂してる人かぁ、アタシはレイシア!こう見えても伯爵家の騎士でリア姉とは同門なんだ、よろしく!」


「伯爵家で客将をさせて頂いている、ルベドと申します」


 手を差し出されたので握手を交わすと、何かに気づいたような表情を見せるレイシア。


「ルベド、もしかしてかなり強い?」


「まぁリアを含めた館に居る全員相手取っても、一方的に勝てる程度には強いつもりですよ」


「ほほー……言うじゃん」


 ニカっと獰猛な笑みを見せるレイシア。戦闘狂の気があるのか?リアと同門とか言ってたけどそういう感じの戦闘狂育成派閥なのだろうか。


「まぁ本業が前線錬金術師なので」


「気になっていたのだが……その前線錬金術師とは一体何なのだ?」


 不意に騎士レディアから質問が飛んだ。そういえば、前線錬金術師という役職は彼等になじみが無いかもしれない。


「簡単に言うと、効率的に人を殺す事を生業とした錬金術師集団です。魔術、戦術、計略、武術、そういった戦闘における全てを総合して収め、400人殺しを達成した物が名乗れる一種の称号でもありますね」


「400人殺し!?」


 騎士レディアが驚愕した声を上げる。まぁ、初めて聞いたらその反応も仕方ないだろう。


「はい、武術のみを用いて100人、魔術のみを用いて100人、錬金術で作成した道具を用いて100人、人を生きたまま解体して100人、これら400人を殺す事で初めて一人前と認められるのです」


「……思った以上にとんでもない」


 と、男爵が思わず本音を漏らしたが、レシアは怪訝そうな目で、ええーなんか嘘臭い……等と言っていた。


「ふむ、なら少し手合わせでもしましょうか?丁度ゴーレムがどういった物かも見せたかったですし、少し外で実演も兼ねて」


「ほほう、ゴーレムの実運用をお見せ頂けますか」


 やはり伯爵もゴーレムに関しては気になるのだろう、以前ゴーレムのマスターピースを渡しているとは言えど、現状は解析に回していると見て良いだろう。まぁ、大した物では無いし運用方法も基本的には限られているので渡しても惜しくないので渡した……という側面も大きいのだが。


「ええ、実際にどういった物なのか見て頂くのが早いでしょうから」


◇◇◇


 そこからの皆の行動は早かった。ワクワクを隠し切れない伯爵が率先して外に出て、人払いをして兵の訓練場を確保した。他のメンバーも気になるらしく、おとなしく後ろに付いてきていたのは中々面白い光景だった。


 後で思い出して風刺画でも書いてみようか?なんにせよ商品のお披露目なので、少しばかり演出過剰に行くとしよう。


「それでは、本邦初公開、クレイゴーレムのお披露目です」


 スクロールを地面に置いて展開すると、目前に合計50のクレイゴーレムが展開される。見た目は2m30cm程の土くれ人形ではあるが、こうして並ぶと威圧感があり中々に壮観である。


「おお……確かにこれが一斉に襲ってくるとなると、中々恐ろしい物がある」


「被弾率と威圧感の両立の為このサイズとなっております。小型ならばこの半分のサイズで動かせるでしょうが、壁としての運用も可能とする為にやや大型にしていますね」


「つまり、弓矢や魔術を受けるにあたり、壁替わりにするという事ですな」


「そういう事ですね、どうでしょう騎士レイシア、少し戦ってみますか?」


 かなりワクワクした様子で此方を見ていたので、恐らく了承してくれるとは思うが……。


「いいのか!?」


 よしよし、食いついた。


「2、3体ぐらいなら後で補充出来ますからね」


「やった!じゃぁ遠慮なく!」


 一体を隊列から離脱させ、レイシアの前に立たせるとレイシアも剣を構える。


「自由に切り込んで下さい」


「行くぞーッ!!」


 石火の一閃、相手が鎧であっても一撃で両断まで行ってもおかしくない太刀筋だ。だが、甘い。


「うぇっ!なんだコレ!?」


 どちゃりと、嫌な音を立てて刃がゴーレムの半ばで停止し、レイシアは後方に飛びのきながら剣の確認を行った。


「上手く切れない、泥か!?」


「少しだけ正解です。粘土と泥と土と砂、あと草木を上手く混ぜ込んで切断し辛いボディを構築しております」


 泥のついた刃が砂の層に達すると凄まじい抵抗が掛かる。それが断続的に起きるミルフィーユ構造の中身になっている上に、切り辛い草木も適当に練り込んでいるので、接近戦でコイツを切り潰すとなると腕がつりそうになるだろう。


「地面に剣振ってるみたいなもの!?人と比べて切り辛いったら!」


 もう一度、今度は腰の捻りを加えた渾身の一撃をブチ当てると、胴体から薙ぎ払われるゴーレム。だが、中に草木の芯がある為に崩れ切らずに剣にまとわりつき、その切断抵抗で発生した力に耐え切れずレイシアの手からスッポ抜けた。


「……ぐっ、無念」


 ガクリと項垂れるレイシア。


「とまぁこのように非常に切断し辛く、対処は初見では難しいですね」


「素晴らしい、ルベド殿、やはり貴方を迎え入れた事に一切の間違いはなかった」


 そう言って満足そうに手を叩く伯爵。同時に他の面々も何かを納得したように、頷き色々と考え始める。



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