第76話 投資指数、5000!
<矢内真司(やない しんじ)視点>
ピーンポーン。
誰か来た!佐々木瑞菜(ささき みずな)さんが玄関に向かった。チャンスだ。いちご大福地獄から抜け出す切っ掛けを探(さぐ)らなきゃ。これ以上、食べたら本当に死にかねない。姫(ヘレン)様のピュアな悪ふざけは笑えない。それに油を注ぐ月(つき)さん!この娘(こ)のポンコツさ加減は危険度マックスだ。
「弥生ちゃん!アメリカから帰って来たんだ」
んっ!西宮陽(にしみや よう)も西宮月(にしみや つき)ちゃんも走り出す。何だか玄関が騒々しい。
「ヤ・ナ・イ!これはどう言う事じゃ。わらわ一人、取り残された脇役ムード満載の状況を説明してくれないか」
げっ。姫(ヘレン)様、顔は笑っているけど目が完全に座っている。出るのか。あれが出るのか。あの恐ろしいあれが・・・。逃げねば。
「姫(ヘレン)様・・・。違います。姫(ヘレン)様が脇役なんて滅相もない・・・。今、連れ戻してまいります」
「ヤナイ!逃げようなんて魂胆じゃないよな」
「そんなことはございません。かりにも姫(ヘレン)様の『執事』である、この私が主を置いて逃げるなどあろうはずがありません」
「そうか?腰が引けておるぞ」
くっ。見抜かれている。
「ぐほっ!うぎっ!ぐえっ!」
はっ。始まった。こうなったら最後、三十分はおさまらない。
「ウンギャー!フンギャー!!ウンガ―!!!」
天地を揺るがす超高音大音量。共振したワイングラスが音を立てて吹き飛んだ。やばい。姫(ヘレン)様の『幼児退行』、通称『地獄の赤ちゃん帰り』!耳の感覚が消え失せ、平衡感覚までおかしくなっていく。吐き気がする。早く脱出しなければ・・・。
「なんだ!何が起きた?」
「リビングで何かが唸っている!」
「鼓膜が破れるー」
玄関で慌てふためく西宮家の関係者。
「たっ、助けてくれー」
俺は残った力を何とか振り絞って廊下へ出ようとした。出入り口で西宮陽、西宮月さん、佐々木瑞菜さんともう一人、四人と鉢合わせする。
「誰?ご近所迷惑な!騒音問題は『お隣さん殺人事件』の原因だって知らないの?元、私立修学館高校、生徒会風紀委員長、森崎弥生(もりさき やよい)が許さないんだから」
「・・・」
げっ!またもや、いかれキャラ。金髪、サファイアブルーアイ!誰?でも、可愛いじゃないか。
「ウンギャ?・・・?森崎弥生?『Be Mine』の社長?」
うっそだろー。姫(ヘレン)様が泣き止んだ。初めての展開!って、この娘(こ)、何者なんだ?
「ヤナイ!何をしておるのじゃー。そこの巨乳娘を確保するのじゃ」
「はいっ?」
「はっ、早く確保するのじゃ!今、世界で最も金のなる木。『Be Mine』社長。森崎弥生を知らんのか?この通り、わらわの投資センサーがビンビンに反応しておるぞ」
「えっ!」
頭を示されても。投資センサー?それ、単なるアホ毛でしょ!
「ええーい。あてにならん。こうなったら自らダッシュ!・・・?」
「不思議ちゃん。残念でした!弥生ちゃんは渡さないんだかんなー。ぐふふふ。懐かしや。このポヨヨンな感触。スリ、スリ」
金髪、サファイアブルーアイの胸に顔を沈める西宮月さん。阻まれる姫(ヘレン)様。どんな展開なんだ、これ?状況がまるで掴めない。
「投資指数計測開始。わらわの目に狂い無し。森崎弥生、16歳。クールジャパンを牽引する新進気鋭の作家。発想力363、行動力275、変態度519。将来ポテンシャル・・・げげっ。なんと5000越え!一般人の50倍?買いじゃ。爆買いじゃ。うはははは。金がい舞い込むぞー」
ドテッ!
信じられない。投資指数、5000!聞いたことがない。過去最高で1500。あの時は50億円を稼ぎだした。今回はいったい、いくら稼げるんだ。
「あのー。矢内真司(やない しんじ)くん。主が口から泡を吹いて倒れてますけど・・・」
うるさいなー。西宮陽。今、脳内、お取り込み中だ。んっ。何か言ったか?あっ!俺としたことが。興奮して姫(ヘレン)様のことを忘れるなんて『執事』にあるまじき失態だ。
「姫(ヘレン)様!お気を確かに」
「気を失った時は往復ビンタに限る。アニメでやっていた」
すっ、素早い!月(つき)さんの動きは野生動物そのものだ。先が読めない。
パシ、パシ、パシ!
「おりゃ、おりゃ、おりゃー。起きろー、不思議ちゃん!」
「月(つき)ちゃん。止(や)めなさい」
佐々木瑞菜さんが月さんの手を取って、止(と)めにかかる。スラリとした立ち振る舞い。正(まさ)に正統派美少女。大人の色気すらまとっている。
「うほっ。瑞菜様!月(ボク)やり過ぎだった?」
すごい!あのポンコツ娘をいとも簡単に手なずけるなんて。
「んーん」
んっ!姫(ヘレン)様に反応が・・・。
「大丈夫ですか?姫(ヘレン)様」
「あー、良く寝た。あれっ。ヤナイ、ここは何処じゃ・・・。うおっ。森崎弥生!」
「姫(ヘレン)様、冷静に。森崎様は逃げたりはしません。森崎様、ご紹介が遅れました。こちらは我が主、ヘレン・M・リトルにございます。姫(ヘレン)様は森崎様に投資をしたいと申しております」
「投資?」
「左様にございます。姫(ヘレン)様、細かい打ち合わせは『執事』であるわたくし、矢内真司にお任せください」
「ヤナイ、任せたぞ」
うー。投資指数、5000!これを成功させれば、俺は間違いなく『執事』界のプリンスだ。裏の支配者としての実力を存分に発揮して見せるぞ。ふはははは。
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