第61話 あれっ。この顔、見覚えがある。
<八重橋元気(やえばし げんき)視点>
西宮家の面々と言うか、西宮陽(にしみや よう)くんの周りに集まってくる人達は面白い。ボクシング一筋で生きてきた僕の世界とはまるで違っていた。西宮陽!後輩だけど侮れない。こいつの底の深さは異次元だ。僕とはまるで違う。リビングに美味しそうな匂いが漂ってくる。僕はキッチンに立つ西宮陽に声をかけた。
「西宮くん。コスプレと言われても、何をすればいいのかな」
「先輩は別に良いですよ。森崎弥生(もりさき やよい)ちゃんの悪ふざけですから。いくらなんでも料理を作るたびにコスプレされたんじゃたまりませんよ」
「そ、そうなのか。そうだよな。しかし、何でもありの西宮家の雰囲気だと、あっても可笑しくないと信じてしまうな」
僕は思わず照れ笑いするしかなかった。廊下の奥の部屋がずいぶん騒がしい。いったい何がおこなわれているのか。なんだか楽しそうだ。ほのぼのとした家庭の雰囲気は一人っ子だった僕の憧れなのかもしれない。
「先輩!」
「なんだ」
「妹の西宮月(にしみや つき)をよろしくお願いします。妹は変な奴だけと、根は素直で優しい子なんです。僕が保証します」
「ああ、分かっている。心配するな。大切にすると誓うよ」
妹みたいな彼女か。初めて彼女と呼べる子ができた。ハッとする美人よりも側にいるだけで心がゆるんでいくような女の子の方が僕には似合っている。ドンピシャ、かわいい。中三と言うのはちょっと問題だが・・・。四つ年下なんてよくある話だ。
「ありがとうございます。それを聞いてひと安心です。そろそろ出来ます。八重橋先輩、食器棚からお皿を出すのを手伝ってください」
「もちろんだ」
陽くんと僕はテーブルの上にお皿を並べ始めた。リゾットの優しい香りが広がっていく。丁度その時、リビングのドアがノックされた。ヒソヒソ声が廊下から響いてくる。
コンコン。
「元気!準備できたぞ。私から入るね」
開いたドアの向こうに妖精が立っていた。んっ!超かわいい。活発そうな月(つき)ちゃんもかわいいが、これはちょっと特別だ。心臓の高鳴りが耳にまで届く。平静ではいられない。
「月(つき)ちゃん?ずいぶん大人びた感じになったね」
「うん。元気の為に頑張ったよ。月(ボク)」
この子はこれからどんどん素敵な女性になっていく予感がする。僕はこの子、西宮月ちゃんの為に頑張らなければ。取りあえず、ボクシングバンタム級、世界チャンピオンのポジションは失うわけにいかない。それがなくなったら僕のアイデンティティは普通以下だ。守るべきものが出来た男は強いと言うが改めてそれを実感した。
続いて森崎弥生さんと佐々木瑞菜(ささき みずな)さんが入ってくる。弥生さんはクールな西洋の淑女と言ったドレス。きまっている。瑞菜さんは意外にも男装。これはこれでまばゆい。美人は何を着ても似合うと言うが、個性を活かしきったコスプレは僕の目から見てもすごい!三人の美女の登場で食卓が一気に華やいだ。
「それでは本日のメインゲスト。宮本京(みやもと けい)ちゃん登場です!」
ドアの奥から現れた長身の美少女。ファッションモデルばりの端正な顔立ちが制服姿と絶妙にマッチしている。短いスカートから白くて長い脚が伸びている。んぐ、なんてことだ。これがあの社長とは。信じられない。と言うかこの人、本当は何歳なんだろう。
あ、あれっ。この顔、見覚えがある。誰だっけ?んわっ。思い出した。僕が小学生の時に大好きだった特撮ヒーロー番組のヒロインじゃないか?番組放映中にもかかわらず、謎の失踪をとげた特撮アイドル。当時のワイドショーで話題になっていた。
「あのー。マスクライダーのヒロイン、羽佐間恵果(はざま けいか)さんですよね!僕、憧れてました」
「・・・」
宮本社長は恥ずかしそうにうつ向いて下を見た。あの気の強さは何処に行ったのか。何だかキュートだ。これが『Be Mine』森崎弥生さんが作り出すコスプレの魔力なのか。
「確かに間違いないわ!どうして気づかなかったのだろう。私としたことが抜かった」
森崎弥生さんはスマートフォンを取り出す。『歴代特撮ヒーロー・ヒロイン年鑑』なるレアアプリを立ち上げて検索しだした。
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