第14話 ごめん。そう言うの慣れてませんから

<佐々木瑞菜(ささき みずな)視点>


 私、佐々木瑞菜(ささき みずな)の彼氏、西宮陽(にしみや よう)はとても変わっています。もちろん良い意味での変人さんと言う意味です。一言で言うと16歳なのに人生を達観してしまっています。お父さんとなら気が合いそう。でも、そんな彼に私は一目ぼれしてしまったのです。


 ふふっ。大人ぶっているところがかわいい。


 その上、ミステリアス。


 私に対するギラギラした欲望がまるで見受けられない。


 グーって押したら押し返してくるのではなくふわりと包んでくれる。


 西宮陽くんといるとやさしい気持ちになれる。


 心が緩んで自然に振る舞える。


 大人でも会ったことのない不思議な包容力。


 うん。


 私の目に狂いはない。


 ドラマのロケを終えて、西宮家に直行しました。タクシーは途中で降りて地下鉄を使います。どこで同棲がバレるか分からない。私は西宮陽くんとの大切な時間を守りたいのです。手の中に彼がくれたカギがあります。小さなカギ。大切な大切なカギです。


 今日のドラマの撮影は、昨日のテレビの話題で持ちきりでした。


「ねぇ。見たよ!昨日の彼とは今後どうするの?」


 あちらこちらから声がかかります。


「はい。お仕事ですから」


 私はクールに答えます。無敵美少女アイドル、それが私の役目ですから。


「えっ。そうだよね。まいったなー、本気にしちゃったよ」


「ありがとうございます」


 私は深々と頭を下げました。


 芸能界はそう言うところです。仕事ならだれも突っ込んできません。プライバシーに関しては深入りしない、表面だけの付き合い。浮いている時は持てはやされるが、沈んだ時は切り捨てられます。消えていくアイドルなんて山ほどいるのですから、わざわざ情が移るようなことはしないんです。


ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン。


 玄関の呼び鈴が三度たて続けになりました。陽くんが帰ってきた合図です。なぜでしょう。心がときめきます。ドラマの演技とはまるで違います。無意識ににやけてしまいます。今朝、別れてから、まだ一日も経っていないのに。顔が熱いです。恥ずかしいけど迎いに出なきゃ。


ガチャリ。


 玄関のロックが外れる音で心臓が高鳴ります。


「お帰りなさい!」


 私は押さえきれずに陽くんに飛びつきました。彼の体はフリーズしたけど、あったかい。


「ごめん。そう言うの慣れてませんから」


 ふふっ。イジメたくなります。私は彼の耳元に唇を寄せて小声て言いました。


「頭をなでてくれたら離れます!」


 彼の大きな手が私の頭を包み込んでゆっくりと動きます。気持ちがいい。このまま、私のファーストキスをあげたいくらいです。でもやめときます。私が欲しいのは彼の心ですから。

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