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 ヘルメットをかぶり、俺はカプチーノの運転席バケットシートに収まる。4点式シートベルトを締め、エンジンをかける。排気音エキゾーストノートが高鳴る。メーターをチェック。問題なし。俺はそのまま競技フィールドに入り、スターティングポイントに付く。


 80メートル向こうのもう一つのスターティングポイントに、ヤツも付いた。アクセルを踏み、回転計の針をパワーバンドに飛び込ませる。


 スタート5秒前。レッドシグナル点灯。そしてそれが……消えた!


 ファイツ・オン!


 ヤツに真っ直ぐ向かったまま、俺はクラッチを0.1秒滑らせてミートさせ、すぐさまシフトアップ。クロスレシオの一速は一瞬でレッドゾーンまで吹けきってしまう。二速から三速へ。四速に入った瞬間、俺の左をヤツのクルマが掠めるようにすれ違う。俺がフィールドのセンターに達する前だ。ということは、加速はヤツの方が優れていることになる。


 フルブレーキ。トゥ・アンド・ヒール。ダブルクラッチを踏んで一気に二速へ。右にステアを切る、と共に、クラッチを蹴っ飛ばしてサイドブレーキ。リアタイヤが悲鳴を上げ、俺のクルマは弾かれたように真横を向く。そのままリアをスライドさせながら、カプチーノは270度回頭する。


 オフセット・ヘッドオン・パス。空中戦と同じ、すれ違いざまに反転して相手の6時を取り合う戦法。


「!」


 驚いた。ヤツは俺と全く同じタイミングで、全く同じ機動を繰り出していた。外から見れば、まるでクルマ二台でダンスを踊っているように見えたことだろう。


 やるな。


 ここからは旋回勝負だ。俺とヤツは互いに円を描きながら、互いの6時方向を目指す。いかにミスをせずに距離を詰めていくか。これも空の戦いと共通するものがある。


 しかし。


 ヤツの方が、だんだん俺のテールに近づきつつあった。コーナーリングスピードは若干ヤツの方が速いのだ。それはそうだろう。遠心力も質量に比例する。だから軽い方が有利なのは間違いない。それにヤツの方が重心が低い。従ってロールセンターも低いのだ。


 既にヤツは射程圏内にまで近づいてきた。まずい。


 ダメージ警告音。


 やられた! 30%ヒット!


 しゃあない。アレをやるしかないか。


 俺はステアリングを左に、ぐい、と切る。


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