第2話目覚め
目が覚めたらまた真っ白な世界、ではなく見覚えはないが普通の天井。
「んぉ?夢?」
莉紅は呟くように言った。
だがその返答はすぐに返ってくる。
「あの状況で寝るのは流石にバカ、かな」
床で寝ていた身体を横に倒してだらけきったまま莉紅は声の主を見る。
声の主は床にちょこんと座った黒髪黒目の清純派というのが相応しい女性だった。
そんな女性の出会い頭の発言は罵倒だったが。
「バカとは失礼な、皆は死んだこと受け入れたの?」
「受け入れたどころかパートナー選んで転生済み、かな」
「うっそ私乗り遅れた?」
「貴方も転生済み、かな」
確かに、起き上がればその身長は先ほどまでのものとはだいぶ違う。
つまり莉紅は寝てる間にパートナーが選ばれて転生してしまったのだ。
「私の名前はフィア=メルフ。貴方の名前は何、かな」
莉紅は少し考える、今世での名前を記憶から探しているのだ。
そして見つかった。
「私の名前はストーリア。苗字はないらしい。よろしく」
前世をズルズルと引きずるつもりはないため莉紅はストーリアとして生きていくことを決めた。
そしてストーリアはフィアに転生までの簡単な流れを説明してもらうことにした。
♢ ♢ ♢
やっとのことで状況を受け入れた莉紅のクラスメイト達は聖霊に言われた通りパートナーを選び始めた。
そんな中最後まで残ったのがフィアだ。
理由は簡単、フィアは数合わせで無理矢理聖霊にされただけの人間。
本来聖霊に選ばれる人は身体能力魔力共に凡人以上である必要があった。
だがフィアの身体能力はともかく魔力は凡人以下だ。
フィアは固有魔法が使い物にならないため魔法を全く使わなかったため魔力が倍になっても成人男性以下。
それでもフィアの身体能力は魔力を補うほどのもので騎士団団長にも引けを取らないものであったが魔法技術が劣っていたため小さな部隊の隊長レベルだった。
異世界は魔法が全てではないが聖霊に選ばれるには魔力は必須。
無理矢理聖霊にされ本来英雄的立場にも関わらずその扱いは平民以下になった。
故に聖霊等からも腫れ物扱いされる。
「あら?アンタにはまだ相方がいないのね、勇者聖女候補は聖霊と同じ人数いるはずなのだけど」
そしてフィアを嘲笑う聖霊は地べたに寝る莉紅を見てとても楽しそうに言った。
「あらあらあそこの寝坊助さんなんてアンタにピィッタリじゃない!」
「いや、私が聖霊として憑くより、このまま死んだほうが彼女のため、かな」
フィアはどうせ死んでいるためこれ以上現世の人間に何かされるということはないが騎士団にいた身としては己のせいで誰かが傷つく事を許容できなかった。
「はぁ?そんなことできるわけないでしょう?アタシ達はもう組んだんだからこのまま転生すれば強制的にアンタ等はパートナーよ!」
その言葉の通りフィアと莉紅以外はそれぞれパートナーを見つけ転生段階に入り2人もそのまま強制的に転生することとなった。
♢ ♢ ♢
「気ぃつかわせてごめんね?」
「謝るのはこっち、かな」
フィアは申し訳なさそうにストーリアに言った。
だがそうなると次に気になるのはストーリアの能力値、ステータスだ。
ステータスは聖霊であるフィアが正確な数値を出して見せることが可能らしい。
ストーリアはフィアにステータスを見せろと急かした。
ーーーーーーーーーーーーーーー
ストーリア Lv,1
筋力 700
体力460
魔力10
敏腕730
固有魔法:物語 針小棒大
称号
〈語りの聖女〉
ーーーーーーーーーーーーーーー
ストーリアは平均値がわからないためなんとも言えないが魔力が極端に低いということだけは痛いほどわかった。
神殿では聖霊の能力値を倍にした能力を得るということを言っていたということはフィアの生前の魔力量は5だったということだ。
「平均値はいくつ?」
「…………………100」
ストーリアは頭を抱えた。
「それは何歳の平均値?」
「成人男性、かな」
つまりフィアの魔力量は成人男性の20分の1しかなかったということだ。
身体能力ならともかく魔力量は性別に左右されることはない。
絶望的に魔法の才がないとしか言いようがない。
だがないことにギャーギャー喚いても仕方のないこと。
ストーリアはこれからのために今の自分の現状を知ることが必要だと判断した。
「どっちがフィアの固有魔法?」
「物語のほう、かな」
「かな」はどうやら口癖らしい。自信のなさから出るのだろうか。
フィアは自分の固有魔法について説明した。
曰く、物語を再現できるとのこと。
曰く、馴染みのあるものでないといけないとのこと
曰く、全く使い物にならないとのこと。
ストーリアは驚くしかなかった。
物語の再現なんていくらでも使える。
馴染みのあるものというのが何を指すのかはわからないがそれでも即死性の固有魔法相手でなければいくらでも勝てる魔法であることはストーリアには一目瞭然だった。
「物語の再現が出来るのに弱いの?」
「弱いに決まってる、かな」
ストーリアはわけがわからず頭を抱えたが一つ質問をした。
「この国って、検閲ある?」
「検閲のない国なんてない、かな」
「平民と王子様とのラブストーリーは?」
「そんなの流れたら打首、かな」
「平民が億万長者に」
「貴族を敵に回す、かな」
「化け物を倒した者を次の王に」
「拷問される、かな」
答えは出た。
本一冊出すのに引っかかる分野が多すぎる。
そんな中で馴染みのある物語が何か聞けば国の成り行きがどうこう王は素晴らしい神はなんだ。
そんな物語をどう使えというのだろうか。
はぁーーーッと大きなため息を吐くとフィアはビクッと震えた。
どうやらストーリアがフィアの能力に嫌気が差したと思ったようだ。
記憶が戻り5歳程度の身体で座ったままのフィアの頭をガシガシと乱暴に撫でた。
「この能力はさいっこーだよ。すっごい面白そう」
ストーリアは莉紅だった頃と同じような顔で笑った。
「それに身体能力は普通よりズバ抜けてる。これと固有魔法を合わせれば最強だね」
フィアは全くわからないといった様子だった。
だけど自分のせいで悲惨な人生を歩むと思っていたストーリアが満足そうに笑うためフィアも少し笑う。
「人間って固有魔法しか使えないの?」
「うぅん、適正魔法ってのがあって数値が高いほど詠唱や魔法陣が少なく済む、かな」
適正魔法は火、水、風、土、雷、音、闇、光がある。
ストーリアは自分の適正魔法の数値をフィアに見せろと言うとフィアは苦虫を噛み潰したような顔をしてストーリアは嫌な予感がした。
火ー0
水ー0
風ー0
土ー0
雷ー0
音ー0
闇ー0
光ー0
「ちくしょうめぇっ!!」
流石のストーリアも叫ばずにはいられなかった。
適正魔法の数値も倍増するらしいが0には例え100をかけても0だ。
となると今頼れるのはストーリア自信の固有魔法である『針小棒大』。
ステータスの詳細をフィアと共に見た。
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–針小棒大–
針ほどの小さい事を棒ほどに大きく言うこと。また物語を大袈裟に言うこと。
ーーーーーーーーーーーーーーー
はて、ストーリアは今辞書を引いたのだろうか。
いやそんなはずはない。ストーリアは確かにステータスの確認をしたのだ。
だがしかし目の前の文字は何度見ても辞書の言葉をまるパクリしたようにしか見えない。
「え、っと聖霊になる前に聞いた仮説だけど聖霊の固有魔法を補助するか聖霊の固有魔法に補助される固有魔法を持つことが多いかもとか言ってた、かな」
その言葉を聞いてストーリアは確信した。
己の固有魔法は補助される固有魔法だ。
物語を大袈裟にすれば妄想にも勝る。
更に笑みを深めて問うた。
「ねぇストーリア、異世界に転生したら何をするべきか知ってる?」
「え?知らない、かな」
フィアの右手をガシッと掴んでその答えを言った。
「最強、目指すんだよ」
おとぎ無双〜クラス全員転生したけど最弱扱いされている〜 真京 @tanakamakoto
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