第77話 陰キャと天使のクリスマス 1




 ―――クリスマス。それは冬のイベントとして最も定番であり、別名聖夜とも呼ぶ特別な日。因みにイエス・キリストが生誕したことをお祝いする特別な日でもあるんだけど、イエス・キリストの誕生日じゃないっていうところがミソだね!


 さて、ラノベで得た豆知識を心の中で呟いている僕が今何をしているのかというと―――、



「―――来人くん、私のお話ちゃんと聞いてるぅ?」

「え、あぁ聞いてる聞いてる! ケーキの材料を買いに来たんだよね!」

「そぅそぅ! それでぇ、来人くんは何か嫌いな果物とかあるぅ? キウイとか桃とかぁ」

「全然食べれるから大丈夫だよ。……ふふっ、なんか風花さん、すっごく張り切ってるね」

「そ、それはそうだよぉ……っ。だ、だって、そのぉ……、好きな人との、初めてのお買い物だしぃ……っ!」

「あ……。そう、だもんね……! 付き合って、初めての買い物だもんね……っ!」



 そう、現在僕と風花さんは以前姉と二人で来た大型ショッピングモールへ来ていた。


 風花さんは赤くなった顔を隠すように両手で顔を覆いながら僕の方をちらちらと見ている。それを見た僕も思わず赤くなった。


 彼女の服装は高校でも来ていたベージュ色のダッフルコートを着ており、その隙間から僅かに見えるのは白のニットセットアップらしき暖かい装い。

 ゆるふわ系な風花さんの雰囲気と相まってとてもよく似合っていた。


 あっ、因みに僕のコーデは黒コートの中にセーターという風花さんと比べると極めて冴えない恰好をしてます……。

 


 ―――結局、あの後すぐに今日の集合場所と時間の連絡が来て何をするのか相談。結果、ケーキの材料を買って風花さんの家で二人でケーキ作りを行なうことに決まった。


 本当なら今日スポンジも二人で一緒に作る予定だったんだけど……。今日聞いたところによるとどうやら風花さん、昨日の相談後すぐにスポンジ作りを行なったみたいで既にスポンジは作り終わっているらしい。


 理由を聞くと……、その、風花さんが恥ずかしそうにはにかみながら、ね……。こう言ったんだ。



『え、えへへ……、そのぉ、たくさん来人くんと二人っきりでゆっくりしたいなぁって、そう思ってぇ……。ダメ、だったかなぁ?』



 訊いた瞬間、もう精神崩壊メンタルブレイクしそうでした。思わず溶けそうになったよね。天使な風花さんは元から可愛い上に僕の、か、彼女(ここ大事!)だからその可愛さはひとしおだよ!


 心なしか背中に真っ白な翼が見えるよ(幻覚)!

 


(ぐへへ、可愛さてんこ盛りじゃあ……! ……いや僕気持ち悪!?)



 内心気持ち悪い笑い方に突っ込みながら僕は風花さんと一緒にいる喜びを噛みしめて店の中を歩いていた。浮かれながら何気なく横を見てみると、なんと風花さんがいない。

 やっべ、クリスマスという時期も相まって人混みに紛れてしまったのかな!? と思わずぎょっとした表情を浮かべて視線を彷徨わせるけど、案外簡単に見つかった。


 僕は後ろで立ち止まっていた風花さんの下へ駆け寄って声を掛ける。



「風花さん、どうかしたの?」

「えっ、あ……ううん、そのぉ……っ!」

「…………あっ」



 風花さんが一点を集中して見ていたのは衣料品店のショーウインドウの中身。そこには、二人の恋人らしきマネキンが、一緒にマフラーを巻いていたのだ。

 そう、所謂いわゆる恋人同士が巷でよくやっているという"二人マフラー"というヤツだ。……チッ、マネキンの癖にイチャイチャ肩を寄せ合って仲睦まじそうに恋人繋ぎしやがって!!


 ……ごほん。


 僕はちらりと風花さんの表情を覗きこむ。彼女は目をぐるぐると回しながら顔を真っ赤にしながら俯いていた。


 ……もしかして、これってあれじゃね? 女性によくある『私の考えていること察してよ!』的なサインなんじゃない?

 風花さんはマフラーを見ていた。僕に声を掛けられると恥ずかしそうに顔を真っ赤にした。そう考えると……。


 うん、ここは風花さんの彼氏である僕がリードしなければ!

 


「―――風花さん、このお店の中に入ろっか」

「ふぇ……っ?」

「ちょうど時期的にクリスマスだし、その……か、彼氏として風花さんに何か贈り物したいんだ。……いい、かな?」

「あぅ……っ、そ、それならぁっ、私もしたい……っ!」

「………………」

「………………」



 僕と風花さんは互いに見つめ合う。


 な、なんだか言い終わったところで恥ずかしくなってしまった……。風花さんもだけど、きっと僕の顔はそれ以上に真っ赤になっているのだろう。

 上目遣いで見つめる風花さんはやや緊張しているのか、鼻の穴が少しだけぷくっと膨らんでいた。


 やがて―――、



『マフラー、一緒に買おっか(ぁ)……っ!』



 僕たちは口を揃えてそう言葉を紡ぐと、テナント店の中へ一緒に歩みを進めたのだった。




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